猫の目草 ユキノシタ目/ユキノシタ科/ネコノメソウ属 花期/3月~4月上旬 結実期/4月
学名/Chrysosplenium grayanum Maxim.
自生種稀少保護
ネコノメソウ 厚木市・神奈川県自然環境保全センター 2018/03/25
ごく浅い水辺に生える多年草。湿生植物または抽水植物。山野の日当たり悪く乾燥しない保湿された林床で一般的に見かけるのはヤマネコノメソウ(山猫の目草)であり、本種はヤマだツルだムカゴだが頭に付かない元祖ネコノメソウ。近似種の中では最も水を好み、水際のみならずごくごく浅い水中にも生えるため、別名ミズネコノメソウ(水猫の目草)とも。日本固有種。神奈川県内では厚木市や中井町などを中心に分布があるようながらさほど多からず、湘南・鎌倉・三浦半島に限っては自生地は片手で数えられるほどしか記録されていない結構な希少種。どうも生育環境にかなりうるさい疑惑がある。山際の湧水域など水が枯れることなく常に、人が足を踏み入れると足首までずっぽりはまってしまうくらいに土がべちゃついていることが必要と思われる。水深1~2cm程度のうっすらと水が流れるせせらぎの中にも生え得るが、長時間水没してしまうことは不可。土砂の流出入はだめ。イノシシ(猪)が沼田場(ぬたば)に利用したり人が耕したり、攪拌(かくはん)もだめ。たくさんの落ち葉に埋もれてしまうのもだめ。日当たりは完全な暗い日陰より一時的な木漏れ日程度はあった方が良いのではないかと思うが、人が暖かい(春にしては暑い)と感じるような直射日光はおそらく嫌い。ぼっち系なので周囲に他の植物が生えているのも嫌。そんな所はそうそうない。山の北側、あるいは谷戸(やと)の奥、昔は田んぼだったが放棄され、ぬかるむため一年を通して人が入り込まず、山には高い木が生い茂っているため半日陰、他の植物もタネツケバナ(種漬花)の仲間やセリ(芹)がちらほら生えてくるくらいで、オギ(荻)が繁茂するわけでもないので人が手入れする必要もない、といったような場所に生える。自生地ではソーシャルディスタンスを保ってまばらに点々と生え始め、最盛期には適度に密に群生する。観察にはゴム長靴が必須。
ちょろちょろ流れる水辺に生えたネコノメソウ 平塚市土屋 2024/03/08
ちょろちょろ流れる水の中に生えたネコノメソウ 平塚市土屋 2024/03/08
ごく浅い水の流れに生えたネコノメソウ 平塚市土屋 2024/03/16
ごく浅い水の流れに生えたネコノメソウ(周囲の長葉はセキショウ) 平塚市土屋 2024/03/16
開花前のネコノメソウ 平塚市土屋 2024/03/16
水辺のぬかるみに生えたネコノメソウ 厚木市・神奈川県自然環境保全センター 2024/03/21
水辺のぬかるみに生えたネコノメソウ 厚木市・神奈川県自然環境保全センター 2024/03/21
田んぼ跡に生えたネコノメソウ(穴はイノシシの足跡) 厚木市・神奈川県自然環境保全センター 2024/03/21
花が咲き始めたネコノメソウ 厚木市・神奈川県自然環境保全センター 2024/03/21
花が咲き始めたネコノメソウ 厚木市・神奈川県自然環境保全センター 2024/03/21
花が咲き始めたネコノメソウ 厚木市・神奈川県自然環境保全センター 2024/03/21
水辺に群生したネコノメソウ 厚木市・神奈川県自然環境保全センター 2024/03/21
水辺に群生したネコノメソウ 厚木市・神奈川県自然環境保全センター 2024/03/21
ネコノメソウ 厚木市・神奈川県自然環境保全センター 2024/03/21
水辺に生えたネコノメソウ 平塚市土屋 2024/03/28
水辺に生えたネコノメソウ 平塚市土屋 2024/03/28
最盛期に近いネコノメソウ 平塚市土屋 2024/03/28
最盛期のネコノメソウ 厚木市・神奈川県自然環境保全センター 2018/03/25
最盛期のネコノメソウ 厚木市・神奈川県自然環境保全センター 2018/03/25
最盛期のネコノメソウ 厚木市・神奈川県自然環境保全センター 2018/03/25
実が出来てきたネコノメソウ 厚木市・神奈川県自然環境保全センター 2023/04/01
ヤマネコノメソウは葉が互生で、ネコノメソウは対生、という違いで見分けるという話が広まっていると思うが、それ以前に葉の形状が異なるのでぱっと見の印象で別物とわかる。なおムカゴネコノメ(珠芽猫の目)も対生である。葉の形状はヤマネコノメもムカゴネコノメも”葉身の長さ<葉身の横幅”なので、でっぷり丸々とした印象。対してネコノメソウは”葉身の長さ≧葉身の横幅”なので、やや細身(縦長)に感じられるだろう。特に開花前の株では、葉の表側に葉脈が浮き出る性質がある。
ネコノメソウとヤマネコノメソウの比較 厚木市・神奈川県自然環境保全センター 2024/03/21
ネコノメソウの葉 平塚市土屋 2024/03/08
ネコノメソウの葉 平塚市土屋 2024/03/08
ネコノメソウの対生する葉 厚木市・神奈川県自然環境保全センター 2018/03/25
ネコノメソウの対生する葉 厚木市・神奈川県自然環境保全センター 2018/03/25
ネコノメソウの対生する葉 厚木市・神奈川県自然環境保全センター 2023/04/01
ネコノシタ(猫の舌)、ネコノチチ(猫の乳)、といった名前の植物もある。
ネコノメソウの花
開花はヤマネコノメソウやムカゴネコノメより遅れて、イワボタン(岩牡丹)と同期。気の早いごく一部の株のみ3月上旬から開花するものあるも、最盛期は3月下旬ないし3月末。開花前は地面にべたあっと貼り付くような草姿(そうし)であったが、開花が始まると徐々に茎が伸びて立ち上がってくる。雄蕊の葯(やく)は黄色。花弁(のように見えるが学術的には萼片)も、花周辺の葉(苞(ほう)という)も、ほぼ黄色(限りなく黄色に近い明るい黄緑色)に染まる。ヤマネコノメソウやムカゴネコノメより格段に黄色っぽいので違いは歴然。花弁(萼片)は平開しない半開きで全力で咲いている状態。
ネコノメソウ 厚木市・神奈川県自然環境保全センター 2018/03/25
ネコノメソウ 平塚市土屋 2024/03/28
ネコノメソウの実
膨らんだ実が熟すとぱかっと口を開けて褐色の種子を露出させるが、その黒っぽい種子は縦一列に並んで見える。この様子が、明るい場所で瞳孔(どうこう)を閉じているネコ(猫)の縦に細い目に喩(たと)えられて、名前の由来となった。
ネコノメソウの実 厚木市・神奈川県自然環境保全センター 2023/04/01
ネコノメソウの実 平塚市土屋 2024/03/28
ネコノメソウの熟して露出した種子 厚木市・神奈川県自然環境保全センター 2023/04/01
平塚市土屋(イノシシ頻出)
厚木市・神奈川県自然環境保全センター(Y1~Y34のべちゃついたぬかるみに多い、Y1~Y3の水田跡=令和6年(2024)イノシシ土耕で著しく減少した、Y14、Y23~Y24、Y25~Y26)
参考資料
『神奈川県植物誌2018』(電子版を含む) 神奈川県植物誌調査会編 神奈川県植物誌調査会発行(2018)
『日本の固有植物』 加藤雅啓・海老原淳編 東海大学出版会発行(2011)