春雪の下 ユキノシタ目/ユキノシタ科/ユキノシタ属 花期/3月中旬~4月 結実期/4月下旬~5月中旬
学名/Saxifraga nipponica Makino
稀少
#ハルユキノシタ 鎌倉市・大船フラワーセンター 2019/04/09
山地の半日陰のあるいは明るい日陰の湿った岩場に生える多年草。湧水が滴(したた)っているような岩の崖や、滝の水しぶきが降りかかるため苔むしている沢べりの大石あたりが居心地がよろしいらしい。ユキノシタの近似種であるが、花期は一足早くて春。神奈川県内では東丹沢の宮ヶ瀬湖周辺に分布あり。湘南・鎌倉・三浦半島には自生しない。ただし栽培されることがごく希にあり、その逸出がどこぞにあるとかどうとか。鎌倉の谷戸(やと)周辺や寺境内で見かけるのはユキノシタの方でまず間違いない。ハルユキノシタの栽培はユキノシタに比べればやや難。成長が遅く、蒸れ蒸れ蒸し蒸しした暑い夏が苦手なようで葉が茶色く腐りやすく、ユキノシタのように旺盛に増えて増えて困ってしまうようなものでなし。栽培には、真夏に地温が上がらないように涼しげな環境を作ってやることが大切で、鉢植えであれば朝方以外の直射日光が当たらないように(花が咲き終わったら)建物北側などに避難させたい。ユキノシタを見るとどうも皆さん近似種ハルユキノシタの存在が頭をよぎってしまうようで、ユキノシタをハルユキノシタであると誤同定する人が後を絶たないのだが、ハルユキノシタは身近に生えていたりそこいらで栽培されているものではまったくないので、それはまずもってユキノシタである。
#満開のハルユキノシタ 茅ヶ崎市浜之郷 2021/03/20
#ハルユキノシタ 鎌倉市・大船フラワーセンター 2019/04/09
#ハルユキノシタ 鎌倉市・大船フラワーセンター 2019/04/09
花期の葉はやや小さめで、縁(ふち)の切れ込みはユキノシタよりやや細かくやや鋭利に感じる。葉の表面は明るい緑色。成長した葉はユキノシタの葉ほど肉厚でなく、表面にはつやつやてかてかな光沢が現れ、葉柄(ようへい)は毛が減ってつるっと無毛に近い姿に変わる。葉表側の葉脈は、斑(ふ)が入ったような白い図柄にはならず、全面ふつうの緑色をしている。
#ハルユキノシタの若い葉 鎌倉市・大船フラワーセンター 2019/02/20
#ハルユキノシタの春の葉 鎌倉市・大船フラワーセンター 2019/03/09
ハルユキノシタの葉 厚木市七沢・不動尻 2019/03/20
#ハルユキノシタの大きく成長してきた光沢ある葉 鎌倉市・大船フラワーセンター 2019/04/09
#ハルユキノシタの斑入りになることはない葉 茅ヶ崎市浜之郷 2020/07/12
葉の縁(ふち)が黒ずんでいるのは、おそらくは暑さや蒸れが原因で、傷んで腐ったため。新しく伸びてきた(これがまた成長が遅いのだが)若い葉でさえ同様にあっけなく傷む。ハルユキノシタの夏越しは、いかに株を腐って溶かすことなく維持するかが課題。直射日光に当てず水やりしてさえいれば夏場でもどんどん増えていくユキノシタとはわけが違う。
#ハルユキノシタの斑入りにはならない夏の葉(白枠内は斑入りになる#ユキノシタ) 茅ヶ崎市浜之郷 2020/07/12
#ハルユキノシタの花後に生えた新葉 茅ヶ崎市浜之郷 2020/07/12
葉の裏側が赤っぽければユキノシタ、赤からず緑色をしていればハルユキノシタである──、は誤り。ハルユキノシタの葉裏も赤みを帯びることがある。葉柄が赤くなることはないようであるけれども。逆に、葉裏の赤みが完全に失われたユキノシタもふつうに存在している。従って、葉裏の色は同定にはまったく役立たない。※ユキノシタに関しては別途ユキノシタの頁を参照のこと。
#ハルユキノシタのうっすらと赤みを帯びた冬の若い葉の裏 鎌倉市・大船フラワーセンター 2019/02/20
ハルユキノシタの赤みを帯びた葉裏 厚木市七沢・不動尻 2019/03/20
#ハルユキノシタと#ユキノシタの夏の葉裏の比較 茅ヶ崎市浜之郷 2020/07/12
#ハルユキノシタの花茎と、大きく成長した葉とその葉柄 鎌倉市・大船フラワーセンター 2019/04/09
秋の#ハルユキノシタ 鎌倉市・大船フラワーセンター 2019/12/08
秋の#ハルユキノシタの葉 鎌倉市・大船フラワーセンター 2019/12/08
#ハルユキノシタの夏の根元、匍匐茎は年間を通して一本たりとも出ない 茅ヶ崎市浜之郷 2020/07/08
ユキノシタは春から花期にかけて、あるいは花が咲き終わったあとに(葉の数とほぼ同数といってもよいくらいに)多数のランナー(走出枝、ストロン・匍匐茎 ※当サイトでは両者を厳格には区別せずランナーと呼ぶ)を直線的に伸ばして地表を這わすという特色があるので、見分けの大きな一助にできるだろう。成長した葉であっても葉柄には多数の毛が生えた状態を維持する違いも押さえておきたい。
ハルユキノシタの花
花期はユキノシタより早い。およそハナカイドウ(花海棠)やらソメイヨシノ(染井吉野)が満開のときに見頃を迎えていたらばハルユキノシタ、バラ(薔薇)の頃にきれいに咲くようならばユキノシタである。花の姿は両者よく似ている。但し、ユキノシタは花弁の上三枚に赤い斑が入るのがふつうながら、ハルユキノシタは白地(若い花はうっすらピンク色に染まっている)に黄色斑のみ、という傾向あり。とはいえ、赤斑が不鮮明でほぼ視認できないユキノシタもあるので、花色だけで判別するとこれまた誤同定の可能性が非常に高まってしまう。
#ハルユキノシタ 鎌倉市・大船フラワーセンター 2019/04/09
#ハルユキノシタ 鎌倉市・大船フラワーセンター 2019/04/09
#ハルユキノシタ 鎌倉市・大船フラワーセンター 2019/04/09
以上の通り、ハルユキノシタとユキノシタの見分けは、葉の形状、葉の模様、大きく成長した葉の柄(え)に生えている毛の数、ランナーの有無、花期の違いで行うとよい。ハルユキノシタの花がピークをとうに過ぎて汚らしいばかりに思えてきたゴールデンウィーク(4月末~5月初旬)の頃、今度はユキノシタが花茎(かけい)を伸ばして蕾を付ける様子が確認できるようになるだろう。
ハルユキノシタの実
雌蕊の基部にあった子房が膨らんで実となる。枯れて褐色となれば口が開き、風に揺れては種子を散布する。咲き終わった花弁がいつまでも落ちないで残っているのは、花茎を揺らすための風を受ける帆の役目を果たすためか。種子は極小の黒い粒(というかミクロの点)。
#ハルユキノシタの実 鎌倉市・大船フラワーセンター 2019/05/05
横浜市戸塚区・#俣野園(鉢植え)、横浜市泉区・#天王森泉公園(天王森泉館(やかた)裏の水辺に、ユキノシタと混植、間近では見られない)
#大船フラワーセンター(4月上旬 ハナショウブ西側サンシュユの足元に=名札立っているがユキノシタも同区画に植えてあり紛らわしい、真夏は他の草に埋もれる、令和3年(2021)キクザキイチゲが大量に植え込まれたことで滅失した可能性)
相模原市緑区鳥屋・宮ヶ瀬湖・早戸川支流水沢川(群生あり、4月20日頃、川はヤマメ・イワナ釣りの名所、要ヤマビル対策)、相模原市緑区鳥屋・宮ヶ瀬湖・早戸川林道(宮ヶ瀬やまなみセンター別館みやがせミーヤ館(旧宮ヶ瀬ビジターセンター)西側~宮ヶ瀬湖を南西に沿う、ゲート閉門・車両進入禁止、ついでにヤマセミ・ベニマシコも、要ヤマビル対策)、清川村・宮ヶ瀬湖・金沢林道(3月末~4月中旬、早戸川林道途中を川に沿って高畑山方面へ南下する、3月中旬 ハナネコノメも、ついでにアナグマ・カモシカも、要ヤマビル対策)、厚木市七沢・不動尻(大量、山神隧道~煤ヶ谷バス停(谷太郎川)分岐に群落=落石防止フェンスに覆われてしまっている・4月中旬~5月初旬、煤ヶ谷バス停(谷太郎川)分岐~不動尻広場に群落=フェンスはないがヒメウツギ等に覆われ隠れがち・4月下旬~5月上旬、ヤマビル大量)、#箱根湿生花園(4月中旬~5月初旬)
参考資料
『神奈川県植物誌2001』 神奈川県植物誌調査会編集 神奈川県立生命の星・地球博物館発行(2001)
ハルユキノシタを分けてくださる方を探しています。よろしくお願いします。