イヌノフグリ

犬の陰嚢 シソ目/オオバコ科/クワガタソウ属 花期/1月下旬~4月 結実期/3月~4月
学名/Veronica polita Fr. subsp. lilacina (T.Yamaz.) T.Yamaz.

自生種稀少保護

環境省レッドリスト「絶滅危惧II類(VU)」
神奈川県レッドリスト2006「絶滅危惧IB類」

イヌノフグリ 東京都小金井市他・野川公園 2019/02/24

#イヌノフグリ 東京都小金井市他・野川公園 2019/02/24

道端のひょんな場所や石垣の隙間などに生えるという一年草(越年草)。元来はただの雑草だったと聞いてはいるが、神奈川県内での記録は昭和50年(1975)頃から既にかなり少ない。外来種オオイヌノフグリ(大犬の陰嚢)などに生息地を追われて数を減らしたとされ、いまでは見かける機会はほぼ皆無となってしまった。湘南・鎌倉・三浦半島でもわずかながら自生が残っているようながら、具体的にどこへ出向けばご対面できるのかは不明。私自身も満開のウメ(梅)カワヅザクラ(河津桜)には見向きもせずに地面を這いつくばって膨大な時間をかけて探し回ってはみたものの、残念ながら野生のイヌノフグリに出遭えた試しは一度としてない。全体的な姿がオオイヌノフグリに似てたいへん紛らわしいこと、タチイヌノフグリ(立犬の陰嚢)フラサバソウ(ふらさば草)といった近似種もあること、起立した人の視点からでは花が小さ過ぎてまともには見えないこと、その花も正午頃にしか開いていないこと、絶対数が少ないこと、などの理由を挙げればおそらく今後も自力で探し出せることはないだろうことは予想できている。まるで幻の野生ラン(蘭)のような存在になっているものの、山野の奥深くではなく意外と市中ないしその近辺に生えているようなので、植物に何の関心もない人がイヌ(犬)の散歩をしていたらたまたま偶然見つけてしまった、なんていう話はふつうに起こりうる。

イヌノフグリ(ほぼ全面、但しタチイヌノフグリ混生) 東京都小金井市他・野川公園 2019/02/24

#イヌノフグリ(ほぼ全面、但しタチイヌノフグリ混生) 東京都小金井市他・野川公園 2019/02/24

イヌノフグリ(緑色の葉はタチイヌノフグリ) 東京都小金井市他・野川公園 2019/02/24

#イヌノフグリ(緑色の葉はタチイヌノフグリ) 東京都小金井市他・野川公園 2019/02/24

自然状態では、地面にへばり付きがちな、匍匐(ほふく)して横に横に広がるような姿になる。茎は倒れ、地面に接した株元付近では良く分岐し、各々が直線的に20cm以上に伸びて成長してゆく。徒長したロゼット、といった感じの姿。茎先端は太陽に向かって立ち上がろうとする気持ちはあるようながら、茎が細くて柔らかいため、風吹けば簡単に荒れ、雨降れば(栽培環境下ではじょうろで水やりをされると)簡単にべしゃっと潰されてしまうだろう。先端はまた立ち上がろうと試みては来るが。従って、生育環境によって全体的な姿は大きく変わってきそう。

イヌノフグリ(タチイヌノフグリ混生) 東京都小金井市他・野川公園 2019/02/24

#イヌノフグリ(タチイヌノフグリ混生) 東京都小金井市他・野川公園 2019/02/24

イヌノフグリ(緑色の葉はタチイヌノフグリ) 東京都小金井市他・野川公園 2019/02/24

#イヌノフグリ(緑色の葉はタチイヌノフグリ) 東京都小金井市他・野川公園 2019/02/24

種子は淡褐色で、長さ1.2mm程度のドーム形。くりぬかれた内側にはエライオソーム(アリ(蟻)の餌になる付属物、これを目当てにアリが巣に種子を運び去ることで種子が広範囲に散布されてゆく仕組み)が付着している。風吹けば飛ばされ、雨降れば流出し、アリに見つかれば持ち去られてしまう。発芽は九月下旬以降(なので、種蒔きは九月に入ってから行った方が良いのかも、以後初春までぽつりぽつりと発芽してくるものがいる)。(前年初夏蒔きした場合は)発芽率は絶望的に悪い。発芽したところに雨降ってすぐ傷んで終わり等々、頭を抱えてしまうほどに生命力は弱い。土壌も好みがうるさいようで、気に食わない土ではまったく育たない。乾燥地を好み、水やり過ぎればよく腐る。乾燥させ過ぎてしまえばもちろん枯れるだろう。普段よりも茎がしんなりし始めたなと感じたら即座に水をたっぷり与え、以後また長きに水やりは控える、の繰り返しが良いと思われるが、発芽間もない頃は特に水やりのタイミングが難しい。日当たりを好むので、日の出から日の入りまで日陰にならない場所が良い。環境が好みに合致すればよく育って群生もする。オオイヌノフグリの方が早く威勢良く大きく成長するため、自然界では負けるだろう。栽培環境下においては、オオイヌノフグリだけを狙い打って草むしりしなければいけない。タチイヌノフグリは少し遅れて生えてくるため、イヌノフグリの成長を阻害する大きな要因にはならないだろうが、観察に邪魔。他の雑草も含めて一本残らず徹底的に抜いてしまうのが最善。スミレ(菫)の仲間も発芽間もないころは姿が紛らわしい。できるだけ十月・十一月の間に大きく成長できるように。寒さ厳しくなる十二月・一月は成長が止まる。寒さの峠を越えた二月からよく育ちよく花を付ける。発芽後の移植は(オオイヌノフグリでさえ枯れるため)一切行わない方が無難と思われる。

横須賀市産イヌノフグリの(季節外れの)発芽  2020/02/18

横須賀市産#イヌノフグリの(季節外れの)発芽  2020/02/18

横須賀市産イヌノフグリの発芽 2019/09/16

横須賀市産#イヌノフグリの発芽 2019/09/16

若い横須賀市産イヌノフグリ 2019/12/01

若い横須賀市産#イヌノフグリ 2019/12/01

若い横須賀市産イヌノフグリ 2020/02/11

若い横須賀市産#イヌノフグリ 2020/02/11

土の違いで生育に極端な差異が現れたイヌノフグリ 茅ヶ崎市浜之郷 2020/02/11

土の違いで生育に極端な差異が現れた#イヌノフグリ 茅ヶ崎市浜之郷 2020/02/11

オオイヌノフグリのような姿に成長したイヌノフグリ 茅ヶ崎市浜之郷 2020/02/11

オオイヌノフグリのような姿に成長した#イヌノフグリ 茅ヶ崎市浜之郷 2020/02/11

オオイヌノフグリのような姿に成長したイヌノフグリ 茅ヶ崎市浜之郷 2020/02/11

オオイヌノフグリのような姿に成長した#イヌノフグリ 茅ヶ崎市浜之郷 2020/02/11

オオイヌノフグリのような姿に成長したイヌノフグリ 茅ヶ崎市浜之郷 2020/02/11

オオイヌノフグリのような姿に成長した#イヌノフグリ 茅ヶ崎市浜之郷 2020/02/11

鉢からこぼれんばかりに茂ったイヌノフグリ(7株) 茅ヶ崎市浜之郷 2020/04/05

鉢からこぼれんばかりに茂った#イヌノフグリ(7株) 茅ヶ崎市浜之郷 2020/04/05

土が合わずろくに成長できなかったイヌノフグリ 茅ヶ崎市浜之郷 2020/04/05

土が合わずろくに成長できなかった#イヌノフグリ 茅ヶ崎市浜之郷 2020/04/05

その後そこそこ盛り返したイヌノフグリの生育不良株 茅ヶ崎市浜之郷 2020/04/21 11:40

その後そこそこ盛り返した#イヌノフグリの生育不良株 茅ヶ崎市浜之郷 2020/04/21 11:40

葉は対生、茎上部では互生する(近似種に共通する性質)。葉の一枚一枚は、オオイヌノフグリの(平均的な)葉より格段に小さい、あるいはやや小さい、ただし育ちの良い個体ではほぼ同等の大きさ、と結構個体差が大きい。オオイヌノフグリの巨大葉に匹敵する大きさの葉はできない。花が咲くまではオオイヌノフグリないしタチイヌノフグリと見分けが難しい。(茎上部の)若い葉は縦長、成葉は縦横の長さがおよそ同等ないしむしろ横長になる(大きな葉で縦13mm×横14mm、これに長さ5mmの葉柄(ようへい)が付く、密生した株の葉は小さめにとどまり縦9mm×横10mm程度まで)。葉の表面はまったく無毛ではないものの毛は目立たず、ざらざらでないつるんとした印象。葉脈は軽く凹む。鋸歯は片側三個がふつう。葉の表面に毛が多くぶつぶつした毛穴も目立つようであればオオイヌノフグリで、鋸歯は片側四個程度ある。成長した大きな葉も縦長なままで、葉脈がくっきり明瞭に凹んでいるならタチイヌノフグリだろう。寒い時季はイヌノフグリはよく紅葉する傾向が伺えるが、オオイヌノフグリやタチイヌノフグリの葉も赤紫色っぽくはなるので、色で見分けることはできない。

横須賀市産イヌノフグリの葉の特徴 2020/02/11

横須賀市産#イヌノフグリの葉の特徴 2020/02/11

イヌノフグリ、フラサバソウ、タチイヌノフグリ、オオイヌノフグリの葉の比較 2020/02/28

イヌノフグリ、フラサバソウ、タチイヌノフグリ、オオイヌノフグリの葉の比較 2020/02/28

横須賀市産イヌノフグリの葉 2020/01/25

横須賀市産#イヌノフグリの葉 2020/01/25

横須賀市産イヌノフグリの葉 2020/01/25

横須賀市産#イヌノフグリの葉 2020/01/25

横須賀市産イヌノフグリの葉 2020/01/25

横須賀市産#イヌノフグリの葉 2020/01/25

密生して生えた横須賀市産イヌノフグリの葉 2020/02/11

密生して生えた横須賀市産#イヌノフグリの葉 2020/02/11

密生して生えた横須賀市産イヌノフグリ 2020/02/18

密生して生えた横須賀市産#イヌノフグリ 2020/02/18

密生して生えた横須賀市産イヌノフグリ 2020/02/18

密生して生えた横須賀市産#イヌノフグリ 2020/02/18

イヌノフグリの葉裏は(つるつるとまではいかないが)より平面的で、肉眼では葉脈(特に支脈)がほとんと浮き上がっていないように見えるのがふつう。オオイヌノフグリやタチイヌノフグリの葉裏は、支脈がくっきり露骨に出っ張っておりはっきり浮き上がって見える。

横須賀市産イヌノフグリの(葉脈があまり立体的に見えない)葉裏 2020/02/16

横須賀市産#イヌノフグリの(葉脈があまり立体的に見えない)葉裏 2020/02/16

茎は有毛。毛の量は個体差あり。やたら毛が目立つと感じるようなら、オオイヌノフグリ、コゴメイヌノフグリ(小米犬の陰嚢)、フラサバソウを疑いたい。

イヌノフグリの茎 茅ヶ崎市浜之郷 2020/02/11

#イヌノフグリの茎 茅ヶ崎市浜之郷 2020/02/11

イヌノフグリの花

葉腋(ようえき)から柄(え)を伸ばしてその先端に一つ咲かせる。花冠の形状はオオイヌノフグリに近く、もう少し丸っこくしたもの。白地で淡い赤紫色に染まる。ピンクっぽい色ではあるが薄いため、多少腰をかがめた程度の人の目線からでは白に近い色と感じられるかもしれない。花は小さく花径3mm~4mm。開いた花冠の面積比でいえばオオイヌノフグリの四分の一にも及ばない小さな小さな花である。なお(イヌノフグリの仲間に共通する性質として)花弁が四枚あるのではなく、一つの花冠で裂片が四個ある、という花。従って、花弁一枚一枚に分かれてひらひら散ってゆくのではなく、花冠一つ丸ごと(花弁四枚セットに雄蕊のおまけが付いて)ぽろっと落ちる。

イヌノフグリ(緑色の目立つ大きめの葉はタチイヌノフグリ) 東京都小金井市他・野川公園 2019/02/24

#イヌノフグリ(緑色の目立つ大きめの葉はタチイヌノフグリ) 東京都小金井市他・野川公園 2019/02/24

イヌノフグリ(タチイヌノフグリ混生) 東京都小金井市他・野川公園 2019/02/24

#イヌノフグリ(タチイヌノフグリ混生) 東京都小金井市他・野川公園 2019/02/24

イヌノフグリ、花径3mmちょっと(緑色の大きい葉はタチイヌノフグリ) 東京都小金井市他・野川公園 2019/02/24

#イヌノフグリ、花径3mmちょっと(緑色の大きい葉はタチイヌノフグリ) 東京都小金井市他・野川公園 2019/02/24

花が開くのは好天日の正午前後。オオイヌノフグリは日が差してしばらくたった十時頃にはもうきれいに咲き誇っているものの、イヌノフグリの動きはじつにおっとりしていて鈍く、まともに開花した状態になるのは十一時半近くになってから。オオイヌノフグリほどぱっと花弁を開いていない中途半端な(苞(ほう、花に付属する葉)に挟まれ潰されてしまっているかのような七分開き程度の)咲き具合に終わるものも多い。そのくせ今度は十二時半頃にはもうぽろっと花冠を落とすものが続々と現れてくるので、散るときだけは気が早い(平成31年(2019)2月24日晴れ、日の出06:18、開花11:20-13:30、見頃11:45-12:15、野川公園)。受粉が完了したらすぐに咲く気が失せるのか、本当に簡単にぽろぽろぽろぽろ花を落としてしまうので、観察や写真撮影の際には花に触れたり息が吹き掛らないように。雲が出てきてしまうとまた状況は変わるだろう。薄暗い曇天日などは(イヌノフグリの仲間に共通する性質として)花開かない可能性。寒い季節の昼の短い時間しか花開かないため、自家受粉をしているのではないかと思われる。一日花。

オオイヌノフグリ(青花、切花)とイヌノフグリ(矢印)の比較 東京都小金井市他・野川公園 2019/02/24

オオイヌノフグリ(青花、切花)と#イヌノフグリ(矢印)の比較 東京都小金井市他・野川公園 2019/02/24

オオイヌノフグリ(青花、切花)とイヌノフグリ(ピンク花)の比較 東京都小金井市他・野川公園 2019/02/24

オオイヌノフグリ(青花、切花)と#イヌノフグリ(ピンク花)の比較 東京都小金井市他・野川公園 2019/02/24

イヌノフグリ 茅ヶ崎市浜之郷 2020/02/11 13:16

#イヌノフグリ 茅ヶ崎市浜之郷 2020/02/11 13:16

イヌノフグリ 茅ヶ崎市浜之郷 2020/02/11 13:18

#イヌノフグリ 茅ヶ崎市浜之郷 2020/02/11 13:18

フラサバソウの花は大きさと色がイヌノフグリによく似ており、たいへん誤認しやすい。フラサバソウは花弁(花冠の裂片)の間に隙間がしっかり生じるのが特徴。イヌノフグリの花弁は隣同士で重なりがちである。またフラサバソウは全体的に長めの毛がたいへんよく目立つ(毛深い)点も見分けるための大きなポイントとなる。フラサバソウの葉は鋸歯がふつう片側二個しかない。花期にも子葉(双葉)が傷むことなくしっかりきれいに残っていてよく目立つこと。
タチイヌノフグリの花はふつう青色であるが、イヌノフグリに似た薄ピンク色のものもある点は留意しておきたい。花咲く頃のタチイヌノフグリは茎が背高に立ち上がる姿になっているだろうから混同はしないだろうが。

イヌノフグリの実

丸っこい玉が二つできる。ぱんぱんに膨らんだのち熟す。イヌノフグリという名前の由来は、実の形状がイヌの陰嚢(金玉袋)に似ていることから。

イヌノフグリの膨らみかけの実(周囲の緑葉はタチイヌノフグリ) 東京都小金井市他・野川公園 2019/02/24

#イヌノフグリの膨らみかけの実(周囲の緑葉はタチイヌノフグリ) 東京都小金井市他・野川公園 2019/02/24

イヌノフグリの膨らみかけの実 東京都小金井市他・野川公園 2019/02/24

#イヌノフグリの膨らみかけの実 東京都小金井市他・野川公園 2019/02/24

イヌノフグリの未熟な実 茅ヶ崎市浜之郷 2020/03/01

#イヌノフグリの未熟な実 茅ヶ崎市浜之郷 2020/03/01

イヌノフグリの未熟な実 茅ヶ崎市浜之郷 2020/03/01

#イヌノフグリの未熟な実 茅ヶ崎市浜之郷 2020/03/01

イヌノフグリの未熟な実 茅ヶ崎市浜之郷 2020/03/01

#イヌノフグリの未熟な実 茅ヶ崎市浜之郷 2020/03/01

ぱんぱんに膨らんだ実は緑色のまま熟し、ぱかっと裂開。それから茶色く枯れていき、乾燥すると中に収まっていた種子がぼろぼろこぼれる仕組み。一個(左右一対の玉)の実に種子は二十個弱(だいたい十六個程度か)が入っている模様。

イヌノフグリの熟して裂開した実、淡褐色の粒は露出した種子 茅ヶ崎市浜之郷 2020/03/27

#イヌノフグリの熟して裂開した実、淡褐色の粒は露出した種子 茅ヶ崎市浜之郷 2020/03/27

気温20℃近い初夏の温かさを感じる日が増えてくると、オオイヌノフグリ、ヒメオドリコソウ(姫踊子草)ホトケノザ(仏の座)といったあたりの冬の雑草同様に全体的に白く粉を吹いて弱り始めるため、完全に傷んでしまう前にどれだけ種子を作り出せるか増殖の鍵に。


東京都小金井市他・#野川公園(自然観察園に植栽=主に二ヶ所、2月下旬~3月上旬、成長途中の若い(まだ特徴があまり顕著に表れていない)タチイヌノフグリが多数混生してしまっているのでタチイヌノフグリを明確に見分けられないと観察に不都合多し)

関連記事 – 仲間・似ている・紛らわしい

オオイヌノフグリ

タチイヌノフグリ

フラサバソウ

コゴメイヌノフグリ