タシロラン

田代蘭 クサスギカズラ目/ラン科/トラキチラン属 花期/6月下旬~7月上旬
学名/Epipogium roseum (D.Don) Lindl.

自生種稀少保護

環境省レッドリスト「準絶滅危惧(NT)」

タシロラン 横須賀市・馬堀自然教育園 2024/06/25

タシロラン 横須賀市・馬堀自然教育園 2024/06/25

常緑広葉樹林内の梅雨時のじめじめむしむしした薄暗く湿った場所に好んで生え出る多年草。野生のラン。葉緑体を持っていないため自身では光合成を行わない腐生植物(菌従属栄養植物)。キノコの仲間か、はたまた幽霊か、といった感じの白っぽい怪しげな姿をしている。田代善太郎が長崎県諫早市で発見し、植物学者牧野富太郎が明治39年(1906)に発見者に因んで命名したもの。良識を欠く牧野は植物に人名を付けて私物化するという愚行をしばしばやる。属名のトラキチラン(虎吉蘭)しかり。神奈川県内では昭和33年(1958)に横須賀市の鷹取山(たかとりやま)で発見されたのが最初。当初は新種としてタカトリラン(鷹取蘭)と命名されたが、のちにタシロランと同種であることが判明した。神奈川県内では丹沢や箱根といった山地を除いておよそ全域に分布。かつては超希少種だったはずも近頃は分布域が広がっており、マヤラン(摩耶蘭)くらいに比較的多く目にすることができるやや普通種となっている。人の手が入らず鬱蒼とした暗い森が増えたことが本種にとっては好条件に変わったか。生息地では複数本が小群落を形成し、ときに五十から百本くらいうじゃうじゃ生え出ることがある。茎の高さはまちまち。20~30cmくらいのものが多いか。小型なクモ(蜘蛛)の巣の他、謎の白い粉にまみれていることも多くあるが、本種の汁気を吸うために張り付いているアオバハゴロモ(青羽羽衣)の幼虫に由来する蝋物質と思われる。

園路に生えたタシロラン 横須賀市・馬堀自然教育園 2024/06/25

園路に生えたタシロラン 横須賀市・馬堀自然教育園 2024/06/25

タシロラン 横須賀市・馬堀自然教育園 2024/06/30

タシロラン 横須賀市・馬堀自然教育園 2024/06/30

タシロラン 横須賀市・馬堀自然教育園 2024/06/30

タシロラン 横須賀市・馬堀自然教育園 2024/06/30

タシロラン 横須賀市・馬堀自然教育園 2024/06/30

タシロラン 横須賀市・馬堀自然教育園 2024/06/30

タシロラン 横須賀市・馬堀自然教育園 2024/06/30

タシロラン 横須賀市・馬堀自然教育園 2024/06/30

タシロラン 横須賀市・馬堀自然教育園 2024/06/30

タシロラン 横須賀市・馬堀自然教育園 2024/06/30

タシロラン 横須賀市・馬堀自然教育園 2024/06/30

タシロラン 横須賀市・馬堀自然教育園 2024/06/30

茎下部には、茎にへばり付いて生える鞘状(しょうじょう)の小さな葉がある。土中から湧き出る際に、苞(ほう)と共に植物体を覆って保護する膜(フィルム)の役割を果たしているものと思われる。

土中から出現したタシロラン 横須賀市・馬堀自然教育園 2024/06/25

土中から出現したタシロラン 横須賀市・馬堀自然教育園 2024/06/25

土中から出現したタシロラン 横須賀市・馬堀自然教育園 2024/06/25

土中から出現したタシロラン 横須賀市・馬堀自然教育園 2024/06/25

咲き始めた若いタシロラン 横須賀市・馬堀自然教育園 2024/06/25

咲き始めた若いタシロラン 横須賀市・馬堀自然教育園 2024/06/25

タシロランの花

コクラン(黒蘭)は咲き終わり、オオバノトンボソウ(大葉の蜻蛉草)も見頃は過ぎた、という頃に湧き出て咲く。群落として出現から咲き終わりまでおよそ二週間、見頃はその間の四五日程度である。苞のすぐ上から花柄(かへい)が出て、膨らんだ子房があり、その先に五枚の萼片にしか見えないもの(背萼片1、側萼片2、側花弁2)があり、その下に後方に距(きょ、突起)を伴った唇弁(しんべん)が吊り下げられている、といった感じの構造。肉眼では細部はさっぱり見えないが。三浦半島産のものは側花弁などが横に広がることがまずなくふつうは閉じた状態なので、ランの花ならではの華やかさを欠き、見栄えがしない。花色は白色に近いクリーム色で、半透明。唇弁と苞と葉には紫色の斑(ふ)が入る。

タシロラン 横須賀市・馬堀自然教育園 2024/06/30

タシロラン 横須賀市・馬堀自然教育園 2024/06/30

タシロラン 横須賀市・馬堀自然教育園 2024/06/30

タシロラン 横須賀市・馬堀自然教育園 2024/06/30

タシロラン 横須賀市・馬堀自然教育園 2024/06/30

タシロラン 横須賀市・馬堀自然教育園 2024/06/30

タシロラン 横須賀市・馬堀自然教育園 2024/06/30

タシロラン 横須賀市・馬堀自然教育園 2024/06/30

タシロラン 横須賀市・馬堀自然教育園 2024/06/25

タシロラン 横須賀市・馬堀自然教育園 2024/06/25

葉柄下部から出ていたはずの苞は捩れるようにまとわりついて、開花中は上から子房を保護している。

タシロランの苞 横須賀市・馬堀自然教育園 2024/06/25

タシロランの苞 横須賀市・馬堀自然教育園 2024/06/25

珍しく側萼片を広げてランらしい花姿になったタシロラン 横須賀市・馬堀自然教育園 2024/06/25

珍しく側萼片を広げてランらしい花姿になったタシロラン 横須賀市・馬堀自然教育園 2024/06/25

側萼片がよく広がって華やかなタシロラン 真鶴町・魚つき保安林 2017/07/10

側萼片がよく広がって華やかなタシロラン 真鶴町・魚つき保安林 2017/07/10

梅雨真っ只中の蒸し暑いさなかであるも、腐って黒ずんでいる花は見かけない。花が真下にぐだっと垂れ下がって子房の褐色が濃くなったら咲き終わり。

タシロランの咲き終わり 横須賀市・馬堀自然教育園 2024/06/25

タシロランの咲き終わり 横須賀市・馬堀自然教育園 2024/06/25

参考資料

『神奈川県植物誌2018』(電子版を含む) 神奈川県植物誌調査会編 神奈川県植物誌調査会発行(2018)


横浜市緑区・四季の森公園(しょうぶ園の谷戸奥)

観音崎公園、馬堀自然教育園、衣笠山公園、三浦富士

横須賀市・鷹取山、久里浜緑地、光の丘水辺公園(通常非公開の自然再生区域「聖なる池」、6月下旬~7月上旬「ハンゲショウ観察会」のときに)、大楠山、源氏山、光則寺、新林公園、高麗山公園

真鶴町・魚つき保安林(側萼片が比較的よく広がる)