山茶花 ツツジ目/ツバキ科/ツバキ属 花期/10月中旬~11月中旬
学名/Camellia sasanqua Thunb.
稀少
#サザンカ(原種) 東京都江東区・亀戸中央公園 2018/11/03
西国の山林に生える常緑の小高木で、雌雄同株(しゆうどうしゅ)。日本固有種。大きく育つと樹高は10m近くにもなる。サザンカはツバキ(椿)によく似ていて見分けがつかないといわれるが、それは両者が人為的に交配されて様々な園芸品種が作出されてきたせいで、本来の(原種の)姿はさほど似ていない。サザンカの原種は一重咲きの白花で、平開する。ツバキの原種の一つであるヤブツバキ(藪椿)は赤花で、平開しないラッパ咲き。葉の形状も異なっている。これらが複雑に交じり合ったものが、現在サザンカやツバキと称して私たちの身近にたくさん植えられているものである。サザンカ(園芸種)は、サザンカ群、カンツバキ群、ハルサザンカ群に大別され、この順に開花する。サザンカ群はサザンカ(原種)に近いものなので白花の品種が多い。
#サザンカ(原種)、樹形は剪定による 東京都江東区・亀戸中央公園 2018/11/03
#サザンカ(原種) 東京都江東区・亀戸中央公園 2018/11/03
#サザンカ(原種) 東京都江東区・亀戸中央公園 2018/11/03
サザンカ(原種)は九州南部など温暖な地方にのみ自生があり、寒さには弱い。童謡「たきび」あるいは演歌歌手大川栄策のヒット曲「さざんかの宿」(1982)の影響からか、サザンカは厳しい冬の寒さを耐え忍ぶ北国の花であるかのようなイメージが定着してしまっているかもしれないがまったくの誤りで、南国の秋の花である。かつて自生の北限とされていたのは佐賀県吉野ヶ里町で「千石山サザンカ自生北限地帯」として国指定天然記念物になっている。現在自生の北限とされているのは本州唯一の自生地でもある山口県萩市の国指定天然記念物・指月山(しづきやま)。つまるところ、神奈川県内で見られるサザンカはすべて人為的に植えられたものないしその逸出およびそれらの子孫で、基本的には何らかの園芸品種(300以上の品種あるという)であると考えて差し支えない。サザンカ(原種)を栽培しているという植物園がちらほらあってもよさそうだが、これが意外にも(私が知る限り)皆無である。
#サザンカ(原種) 東京都江東区・亀戸中央公園 2018/11/03
サザンカ(原種)の特徴
01)若い枝に毛が生えている。
02)葉柄に毛が生えている。
03)葉裏の主脈に毛が生えている。
04)子房に毛が生えている。
05)葉は葉身5cm程度と小さい。
06)葉の縁(ふち)はカールしない。
07)葉の縁には小さいながら明瞭な鋸歯(きょし)がある。
08)葉柄は4mm程度と短い。
09)花期は早く、見頃は10月20日頃。
10)花は平開する。
11)花径6cm程度と小輪。
12)花色は白。花弁先端のみうっすら桃色に染まるものがある。
13)花は香る。
14)雄蕊は基部で合着するもののほぼ離生。
15)花が終わると花弁一枚ずつに分かれて散る。
16)花弁が散っても雄蕊は傷んだ状態で樹上に残りがち。
17)実にも毛が生えている。
#サザンカ(原種)の特徴 東京都江東区・亀戸中央公園 2018/11/03
#サザンカ(原種)の葉 東京都江東区・亀戸中央公園 2018/11/03
#サザンカ(原種)の葉、葉身4.5cm 東京都江東区・亀戸中央公園 2018/11/03
#サザンカ(原種)の葉 東京都江東区・亀戸中央公園 2018/11/03
#サザンカ(原種)の葉裏 東京都江東区・亀戸中央公園 2018/11/03
サザンカとツバキの葉の違い
サザンカの葉は、ヒサカキ(非榊)ほどではないにせよ小さい。扁平。鋸歯は小さいながら明確にある。葉柄は短い。
サザンカ(園芸種)とツバキ(園芸種)の典型的な葉の比較
ツバキの葉は大きく、縁(ふち)がカールする。鋸歯が不明瞭なことがある。葉柄は長め。
#サザンカ(原種)の毛が生えた若い枝と葉柄と葉裏の主脈 東京都江東区・亀戸中央公園 2018/11/03
#サザンカ(原種)の幹 東京都江東区・亀戸中央公園 2018/11/03
サザンカ(原種)の花
ほぼ平開して咲き、花色は白。花弁先端をうっすらと桃色に染めるものもある。「さざんかの宿」にある”赤く咲いても冬の花”は、明らかにツバキが混じった園芸種のサザンカであり、本来のサザンカ(原種)の姿ではない。”春はいつくるさざんかの宿”という歌詞も季節感にずれがあり、サザンカ(原種)が咲くのは秋。冬さえいまだ到来していない、カエデ(楓)が紅葉しはじめたばかりの秋である。おそらく歌われているサザンカはツバキとの交配種であるカンツバキだろう。
#サザンカ(原種) 東京都江東区・亀戸中央公園 2018/11/03
#サザンカ(原種) 東京都江東区・亀戸中央公園 2018/11/03
サザンカの花は明確に香る。キンモクセイ(金木犀)のように周辺一帯に漂ってくるほどの強い香気ではないが、スイセン(水仙)を少しマイルドにした爽やかな甘い香りが、特に咲き始めたばかりの丸みあるいまだ平開していない花でしっかりと感じられるだろう。
#サザンカ(原種) 東京都江東区・亀戸中央公園 2018/11/03
#サザンカ(原種) 東京都江東区・亀戸中央公園 2018/11/03
#サザンカ(原種) 東京都江東区・亀戸中央公園 2018/11/03
#サザンカ(原種) 東京都江東区・亀戸中央公園 2018/11/03
サザンカ(原種)の花は、一般的に見るサザンカやツバキの園芸種に比べればやはり小さい。とはいえ、ツバキにはワビスケ(侘助)という花がもっともっと小振りな人気種さえあり、見栄えが劣るつまらない花では決してない。花数あればまた見事な咲きっぷりである。白色も清楚できれい。
#サザンカ(原種)、花径5.5cm 東京都江東区・亀戸中央公園 2018/11/03
雄蕊はほとんど合着しておらず、花糸(かし)一本一本がほぼ独立してモヤシのような姿をしている。
#サザンカ(原種)の基部だけ僅かに合着した雄蕊 東京都江東区・亀戸中央公園 2018/11/03
#サザンカ(原種)の基部だけ僅かに合着した雄蕊 東京都江東区・亀戸中央公園 2018/11/03
ツバキの雄蕊
しっかりと束になって合着した茶筅(ちゃせん)形をしている。
#ツバキ(’相模太郎庵’)の雄蕊 茅ヶ崎市・氷室椿庭園 2017/12/22
#サザンカ(原種)の一枚一枚分離して散った花弁 東京都江東区・亀戸中央公園 2018/11/03
ツバキの花の散り方
咲き終わると、花一つ丸ごと、雄蕊も道連れにしてぼとりと落ちる。
#ツバキ(’参平椿’)の落花 茅ヶ崎市・氷室椿庭園 2018/01/20
他に花が少ない時期ゆえに、花の蜜を求めてハエ(蠅)やハチ(蜂)、ガ(蛾)などの虫が群がってくる。
サザンカ(原種)の実
花が咲き終わって花弁が散ると、子房が露出する。雄蕊の残骸をかぶったままだったら人為的に摘(つま)み取ってしまって構わない。
#サザンカ(原種)の毛が生えた子房 東京都江東区・亀戸中央公園 2018/11/03
子房に生えていた毛は、実になってもまだ残ったまま。
#サザンカ(原種)の毛が生えた実 東京都江東区・亀戸中央公園 2018/11/03
東京都江東区・#亀戸中央公園(B地区芝生広場のトイレ付近に鹿児島県鹿屋(かのや)市産の原種2本あり・平成9年(1997)植栽、1本目=10月15日~20日がきれいか・11月初旬は花数多いが半数は既に花殻、2本目=なぜか遅咲きで12月上旬 ※平成30年(2018)は何ゆえか花期がずれただけで例年は同時期開花とのこと、テニスコート北側の寒椿(獅子頭)もついでに)
参考資料
『日本の固有植物』 加藤雅啓・海老原淳編 東海大学出版会発行(2011)
サザンカ(園芸種)
山茶花 ツツジ目/ツバキ科/ツバキ属 花期/10月中旬~12月
改良種
#サザンカ 逗子市・神武寺 2018/10/25
サザンカ(原種)とツバキ(椿)が交配されたもののうち、サザンカ(原種)の特徴をより多く示しているものをひっくるめてサザンカと呼んでいる。サザンカ(原種)よりも花が大きく色濃い品種が多い。つまりは観賞価値(商品価値)が高い。よりツバキらしい性質が出ていればサザンカではなくツバキと呼ばれる。中間的でどちらに分類されるべきかよくわからないものも多い。※サザンカ(園芸種)のうち、サザンカ群に分類されるものおよび品種や分類が不明なものは本頁に、カンツバキ(寒椿)群とハルサザンカ(春山茶花)群に分類されることが明らかなものはそれぞれ別頁に移し掲載した。
#サザンカ(市指定天然記念物) 鎌倉市・安国論寺本堂前 2016/12/04
#サザンカ 鎌倉市・安国論寺日朗上人御荼毘所 2016/12/04
#サザンカの葉 横浜市南区・こども植物園 2017/10/18
サザンカは、横浜市の市民の木、大磯町の木に制定されている。県内では他に、秦野市、南足柄市の市の木でもある。昭和時代(-1989)はよく植栽されていたので、人の目に付く馴染みある樹木だったのだろう。特に深い意義が感じられるものでない。
春(5~6月)、秋(8~9月)にチャドクガ(茶毒蛾)というガの幼虫(ケムシ)が発生するので注意が必要。毛(空中を浮遊するものを含む)に触れると皮膚がかぶれてたいへん痒(かゆ)い。
サザンカ(園芸種)の花
やはりサザンカ(原種)に比べると格段に大きな花が多い。色も単純な白ではないものが好まれるようだ。
#サザンカ(市指定天然記念物) 鎌倉市・安国論寺 2016/12/04
#サザンカ(市指定天然記念物) 鎌倉市・安国論寺 2016/12/04
#サザンカ(市指定天然記念物) 鎌倉市・安国論寺 2016/12/04
#サザンカ 鎌倉市・安国論寺日朗上人御荼毘所 2016/12/04
#サザンカ 横浜市南区・こども植物園 2017/10/18
#サザンカ 横浜市南区・こども植物園 2017/10/18
#サザンカ 横浜市南区・こども植物園 2017/10/18
#サザンカ 横浜市金沢区・長浜公園 2017/11/12
#サザンカ(サザンカ群’花大臣’) 鎌倉市・大船フラワーセンター 2019/12/08
#サザンカ(サザンカ群’七福神’) 平塚市・花菜ガーデン 2017/12/14
#サザンカ(サザンカ群’桃園錦’) 平塚市・花菜ガーデン 2019/12/20
サザンカ(園芸種)の実
東京都調布市・#神代植物公園(つばき・さざんか園に36品種110本のサザンカ、原種なし)、東京都府中市・#東京農工大学府中キャンパス(箱田直紀元教授コレクションの園芸種)、東京都町田市・#薬師池公園(椿園にサザンカ・ツバキ410種1,100本)、横浜市南区・#こども植物園(10月中旬~)、横浜市青葉区・#こどもの国(入園料600円、椿の森にサザンカ100種100本・ツバキ500種5,000本他)
#覚園寺、#安国論寺(本堂向って左=11月中旬~12月上旬・白色・樹齢350年・ツバキとの交配だが原種サザンカに近いといわれる・市指定天然記念物「サザンカ」、日朗荼毘所に同種か、墓地周辺に多種)、#極楽寺(山門外、本堂向って左手前 ※山門内は撮影禁止)、#鴫立庵(※平成28年(2016)度から入庵料町外大人100円⇒300円に改定)
#妙本寺(水屋後方に安国論寺系)、#源氏山公園、#光則寺、#大船フラワーセンター(原種なし、カンツバキ群もカンツバキではなくサザンカとして展示されている可能性)、#氷室椿庭園、#高麗山公園(タチカンツバキか)、大磯町・#延台寺
厚木市・#自然環境保全センター(ツバキ園に1種1本、樹名板「サザンカ」とのみ=園芸種と思われる)
参考資料
『神奈川県植物誌2001』 神奈川県植物誌調査会編集 神奈川県立生命の星・地球博物館発行(2001)
『園芸植物大事典 3』 小学館発行(1989)
この記事を読んでから
見かけた白いサザンカの若い枝先に 産毛が生えてないか
まじまじと観察してます。
サザンカの原種がその辺に在る訳ないのにねぇ
楚々としたサザンカの白花も
散った後に天を仰ぐ花びらも美しい
自然な樹形に仕立てた白花のサザンカを家にも植えたいな
ふと思ったのが
お茶の木、お茶の花も雰囲気が似てるなーーです。