野小豆 マメ目/マメ科/ノアズキ属 花期/8月下旬~9月 結実期/9月下旬~11月中旬
学名/Dunbaria villosa (Thunb.) Makino
自生種稀少保護
神奈川県レッドリスト2020「絶滅危惧II類」
#ノアズキ 茅ヶ崎市浜之郷 2022/08/31
日当たりの良い草地、野原、林縁、道端などに生えるらしい蔓性の多年草で、雌雄同株(しゆうどうしゅ)。名は、野原に生えるアズキの意。但し、農作物である栽培品種のアズキの原種は、ノアズキではなく、ヤブツルアズキ(藪蔓小豆)の方だと考えられている。アズキ、ヤブツルアズキ、ノアズキの花は黄色で、形状がよく似ている。葉がクズ(葛)に似て小さいものの意として、別名ヒメクズ(姫葛)とも。神奈川県内では主に湘南・鎌倉・三浦半島に分布があるようながら、かなり希。植物園などで栽培されてもいないので、見かける機会はほぼ皆無ではないか。『神奈川県レッドデータブック2022』は「2000年代以降、減少が著しい」と述べ、絶滅危惧IB類に指定することも検討したようである。自生地二地点を聞いているが、一地点は数年来調査しているも見かけた例(ためし)なく、管理者もノアズキの存在を知らないという。もう一地点は令和3年(2021)に除草剤をかけられて一旦は全滅したが、初秋に三株の発芽を確認したため、そのうち一株を保全のために採取した。なおマメ科なので”移植を嫌う”直根(ちょっこん)であり、無理な取り扱いには枯死させてしまう危険が付きまとうが、幸い無事に生育してくれている。土壌シードバンクが功を奏したのか、令和4年(2022)初夏に同所で多数の発芽を確認。いずれも新しい実生(みしょう)と思われる幼株であった。特に乾燥を好む植物ではないはずだが、二地点共に強い日差しを浴びて乾燥しやすい砂地である。希少な植物が、劣悪ともいえる場所だからこそ外来種などから強い圧迫を受けることなく生き延びられている一例かもしれない。
ノアズキの発芽 藤沢市 2022/06/29
ノアズキの実生一年目と思われる小株 藤沢市 2022/06/29
ノアズキの実生一年目と思われる小株 藤沢市 2022/06/29
#ノアズキの実生二年目の発芽 茅ヶ崎市浜之郷 2022/04/09
#ノアズキの実生二年目の成長途中 茅ヶ崎市浜之郷 2022/06/23
#ノアズキ 茅ヶ崎市浜之郷 2022/08/31
実がなった#ノアズキ(心形の葉はウマノスズクサ) 茅ヶ崎市浜之郷 2022/09/10
実がなった#ノアズキ(心形の葉はウマノスズクサ) 茅ヶ崎市浜之郷 2022/09/10
ノアズキは、(畑で栽培されるアズキは除外できるとして)ヤブツルアズキやクズと紛らわしく見分けが難しい厄介なものという認識がされているだろうと思う。が、それは偏(ひとえ)に、ノアズキを目にする機会がなさ過ぎて、ノアズキがいかなるものかがわからな過ぎて生じている誤解に過ぎない。まず、クズの葉とは、サイズ感がまったく異なるばかりか、形状もほとんど似ていない。枝先の小さな若葉だけがノアズキに似ているだけでしかない。クズっぽいと感じたその葉はクズである。言うまでもなくクズは紫花なので、花が咲いていれば違いは一目瞭然。特に紛らわしいとされる問題のヤブツルアズキであるが、そっくりなのはじつは花だけ。他はまったく似ていない。葉の大きさ、形状、切れ込みの有無、触り心地、茎や萼に生えている毛、全部違う(※後述)。頭を抱えて詳細を比較検討し混乱に陥る必要はない。ヤブツルアズキに似ている葉はヤブツルアズキである。実がなっていれば更に一目瞭然(※後述)。じつはタンキリマメ(痰切豆)の葉もちょっと紛らわしいが、よく見れば形状が異なる、頂小葉(ちょうしょうよう)の柄(え)が特段長くはない、という二点で見分けは簡単。
#ノアズキ 茅ヶ崎市浜之郷 2022/08/30
#ノアズキの葉 茅ヶ崎市浜之郷 2022/08/30
葉は互生で、(三出複葉とは言わず)羽状の三小葉。以下は、ヤブツルアズキとの相違点。頂小葉の先端から側小葉の茎側までの長さは、大きい葉で10cm程度。タンキリマメよりは大きくなるが、ヤブツルアズキほど大型な葉にはならない。頂小葉の形状に特徴があり、ゲーム「ドラゴンクエスト」に登場するスライムの形をしている。葉の形に変異はほとんどなく、皆ほぼ同じ形状をしている。小葉に切れ込みは入らない。表裏の両面(のみならず茎などにも)に細かな毛がビロード状に密に生えており、指で撫でると絹のようにすべすべしていて心地良い。ルーペ(10倍)で覗くと、オレンジ色の腺点が点々と見える。
#ノアズキの葉 茅ヶ崎市浜之郷 2022/07/31
#ノアズキの葉の特徴 茅ヶ崎市浜之郷 2022/07/31
#ノアズキの葉裏と柄 茅ヶ崎市浜之郷 2022/07/31
クズの葉は巨大。小さな幼葉はノアズキと形状が似ているも、毛深く、柄に合計二対の托葉がある。
参考)ノアズキと頂小葉の形状が似ているクズの幼葉 茅ヶ崎市萩園 2022/08/22
ヤブツルアズキの葉は、そもそもノアズキに似ていない。生え始めの頃の幼葉にちょっと紛らわしいものあるも、茎などに長めの開出毛が目立ち、株全体を探せば切れ込みある葉が見つかるだろう。
参考)ノアズキとはまったく似ていないヤブツルアズキの切れ込み(白色矢印)ある葉 茅ヶ崎市・清水谷 2017/09/19
ノアズキの発芽一年目の株はいずれも成長悪く、草丈20cm程度にしかならないかもしれない。蔓を伸ばして4m以上も登っていくようになるのは二年目以降。
ノアズキの花
黄色の蝶形花(ちょうけいか)。左右非対称で、構造はヤブツルアズキに準ずる。但し、ガッツポーズをしている竜骨弁に巻き込まれるようにして変形する左右の翼弁が、ヤブツルアズキとはちょっと違う姿をしている。竜骨弁が露出しているようならば、ノアズキである可能性大。
#ノアズキ 茅ヶ崎市浜之郷 2022/08/30
ヤブツルアズキと#ノアズキの花の比較 茅ヶ崎市浜之郷 2022/08/30
萼にはオレンジ色の腺点が目立つ。萼や柄(え)には、ヤブツルアズキのような開出したけばけばな長毛はない。
#ノアズキの蕾 茅ヶ崎市浜之郷 2022/08/30
ノアズキの実
扁平なサヤエンドウ(莢豌豆)形の実ができる。なおヤブツルアズキとアズキの実はインゲン(隠元)のような細い棒状である。
#ノアズキの既に扁平な若い実(心形の葉はウマノスズクサ) 茅ヶ崎市浜之郷 2022/08/31
#ノアズキの大きく育った未熟な実 茅ヶ崎市浜之郷 2022/09/10
#ノアズキの大きく育った未熟な実 茅ヶ崎市浜之郷 2022/09/10
実の表面にはオレンジ色の点々あり。
#ノアズキの実にあるオレンジ色の点々 茅ヶ崎市浜之郷 2022/09/10
熟すと莢(さや)が茶色くなり、少し捻じれるように二つに割れ、中に納まっていた種子を放出する。
参考資料
『神奈川県レッドデータブック 2022 植物編』 神奈川県環境農政局緑政部自然環境保全課、神奈川県立生命の星・地球博物館編集 神奈川県発行(2022)
『神奈川県植物誌2018』(電子版を含む) 神奈川県植物誌調査会編 神奈川県植物誌調査会発行(2018)
ノアズキは昨年初めて戸塚の公園で見つけましたが今年は草刈りで全部刈られてしまいました。
残念です。作業される方は貴重な草花ということをご存じないのでしょう。