野小豆 マメ目/マメ科/ノアズキ属 花期/8月下旬~9月 結実期/9月下旬~11月中旬
学名/Dunbaria villosa (Thunb.) Makino
自生種稀少保護
神奈川県レッドリスト2020「絶滅危惧II類」
#ノアズキ 茅ヶ崎市浜之郷 2023/09/15
日当たりの良い草地、野原、林縁、道端などに生えるらしい蔓性の多年草(宿根草)で、雌雄同株(しゆうどうしゅ)。名は、野原に生えるアズキの意。但し、農作物(のうさくぶつ)である栽培品種のアズキの原種は、ノアズキではなく、実の形状がアズキと同じヤブツルアズキ(藪蔓小豆)の方だと考えられている。神奈川県内では主に湘南・鎌倉・三浦半島に分布があるようながら、かなり希。植物園などで栽培もされていないので、目にする機会はほぼ皆無といえるのではないか。『神奈川県レッドデータブック2022』は”2000年代以降、減少が著しい”と述べ、絶滅危惧IB類に指定することも検討したようである。現状は絶滅危惧IA類指定が妥当のようにも思えるのだけれど。県内で希にブログ等でノアズキを見つけたとの報告あるも、ことごとくヤブツルアズキの誤認である。ヤブツルアズキとは花がそっくりなだけで葉と実の形状が全く異なるため、見誤ることはないはずなのだが。
#ノアズキの発芽(春のみならず秋にも発芽する) 茅ヶ崎市浜之郷 2023/09/15
#ノアズキの成長途中 茅ヶ崎市浜之郷 2022/06/23
支柱を覆って茂りに茂った開花前の#ノアズキ 茅ヶ崎市浜之郷 2024/08/27
開花中の#ノアズキ 茅ヶ崎市浜之郷 2022/08/31
開花中の#ノアズキ 茅ヶ崎市浜之郷 2023/09/15
開花中の#ノアズキ 茅ヶ崎市浜之郷 2023/09/15
実がなった#ノアズキ(心形の葉はウマノスズクサ) 茅ヶ崎市浜之郷 2022/09/10
実がなった#ノアズキ(心形の葉はウマノスズクサ) 茅ヶ崎市浜之郷 2022/09/10
神奈川県内の自生地は湘南地区で二地点を聞いているが、一地点は十年くらいは調査しているも見かけた例(ためし)なく、土地管理者もノアズキの存在を知らないという。もう一地点は野草の生育地としては劣悪な場所で、令和3年(2021)に管理者によって除草剤を撒かれたようで一旦は全滅したが、初秋に三株の発芽を確認したため、そのうち一株を保全のために採取し栽培、増殖を試みた。令和4年(2022)はよく育ったが、(水やり頻度に問題があったのか)冬に死滅したようであくる年は発芽しなかった。自生地では初夏に、いずれも新しい実生(みしょう)と思われる多数の幼株を確認できた。令和5年(2023)は、人為的に蒔いたタネは発芽を見なかったが、こぼれダネによる実生(みしょう)が複数株生育した。自生地では秋になってようやく20株以上を確認したが、除草剤の効果が土壌に残っているように感じられ、いずれも地表を這い幅40cm以内に収まる小株に止(とど)まり、蔓を旺盛に伸ばして上に上に登るものはなかった。開花もしていないと思われる。生えている地点が前年とは異なったため、除草剤の残存効果で多くが死滅した疑いもある。令和6年(2024)も自生地は除草剤の影響色濃く、株数少なく生育も不良に終わった。こちらの地点は、除草剤が勝つか土壌シードバンクが勝つかせめぎ合っている残念な現状か。乾燥を好む植物というわけではないはずだが、二地点共に強い日当たりで乾燥しがちな砂地である。こぼれダネから発芽したものの中には、田んぼの土を用いて湿生植物であるサワギキョウ(沢桔梗)を植えてある腰水(こしみず)付きの鉢から生え出たものもあったが、根腐れすることなく良好に生育した。気温35℃近い真夏の炎天下でも水をじゃぶじゃぶ撒いた方が順調に生育した。根腐れしなければ、葉が黒く腐ることもなし。逆に水切れには弱く、一度でもしおれた部分は枯れてしまうようである。日陰は大嫌い。
ノアズキの発芽 藤沢市 2022/06/29
ノアズキの小株 藤沢市 2022/06/29
ノアズキの小株 藤沢市 2022/06/29
育ちの悪いノアズキ(除草剤の影響かこの程度までで生育が止まる) 藤沢市 2023/09/15
ノアズキ 藤沢市 2023/11/22
ノアズキ 藤沢市 2023/11/22
葉は互生で、頂小葉(ちょうしょうよう)の柄(え)が長い、羽状(うじょう)の三小葉。葉の大きさはタンキリマメ(痰切豆)よりは大きいが、ヤブツルアズキよりは小さい。葉の形に変異はほとんどなく、茎先端近くの幼葉も含めて皆ほぼ同じ形状をしている。小葉に切れ込みは入らない。表裏の両面(のみならず茎などにも)に細かな毛がビロード状に密に生えており、指で撫でると絹のようにすべすべしていて心地良い。
#ノアズキ 茅ヶ崎市浜之郷 2022/08/30
#ノアズキの葉(心形の葉はウマノスズクサ) 茅ヶ崎市浜之郷 2022/08/30
日差しが強いと葉を少し畳む習性あり。曇りの日はきれいに開いている。
#ノアズキの葉 茅ヶ崎市浜之郷 2023/09/12
#ノアズキの葉 茅ヶ崎市浜之郷 2023/09/12
#ノアズキの葉 茅ヶ崎市浜之郷 2023/09/12
#ノアズキの葉 茅ヶ崎市浜之郷 2023/09/15
ノアズキは頂小葉の形状が独特なので見分けは簡単。テレビゲーム「ドラゴンクエスト」に登場するスライムみたいな形をしている。この頂小葉の形だけで、ノアズキと判断が付く。葉の形状が最も近くてやや紛らわしいのはタンキリマメだろうと思うが、それでもよく見れば形は違うし頂小葉の柄も長くないので違いは明々白々。また、葉がクズ(葛)に似ていて小さいものの意として別名ヒメクズ(姫葛)と呼ばれることもある、という話が余計な混乱を生むのだが、確かにクズの幼葉にはやや似てはいるとはいえ、クズの成葉はだいぶ大きな葉になるので、混同のしようはない。クズのように感じられた葉はすべてクズで間違いない。よく誤認されるヤブツルアズキに至っては、葉は総じて大きいわ形状も違うわ小葉に切れ込み入るわ触り心地も違うわ、茎や萼に長い毛が多いわ、実の形も違うわ、花を除けば何から何まで違う。ヤブツルアズキとの見分けが難しいと感じるそれは全部ヤブツルアズキである。
#ノアズキの葉 茅ヶ崎市浜之郷 2022/07/31
#ノアズキの葉 茅ヶ崎市浜之郷 2024/08/27
#ノアズキの葉の特徴 茅ヶ崎市浜之郷 2022/07/31
#ノアズキの葉裏と柄 茅ヶ崎市浜之郷 2022/07/31
クズの葉は巨大。小さな幼葉はノアズキと形状が似ているも、毛深く、柄に合計二対の托葉が目立つ。
参考)ノアズキと頂小葉の形状が似ているクズの幼葉 茅ヶ崎市萩園 2022/08/22
ヤブツルアズキの葉は、そもそもノアズキにちっとも似ていない。生え始めの頃の幼葉にちょっと紛らわしいものあるも、茎などに長めの開出毛が目立ち、株全体を探せば切れ込みある葉が見つかるだろう。
参考)ノアズキとはまったく似ていないヤブツルアズキの切れ込み(白色矢印)ある葉 茅ヶ崎市・清水谷 2017/09/19
#ノアズキの茎 茅ヶ崎市浜之郷 2023/09/12
茎下部は木質化する。根は、マメ科なので直根(ちょっこん)。従って、移植(植え替え)をすると(死滅は意外としにくいようだが)生育がぴたっと止まるので注意が必要。
ノアズキの花
黄色の蝶形花(ちょうけいか)。左右非対称で、構造はヤブツルアズキに準ずる風変わりな姿。但し、ガッツポーズをしている竜骨弁(りゅうこつべん)に巻き込まれるようにして変形する左右の翼弁(よくべん)が、ヤブツルアズキとはちょっと違う姿をしている。竜骨弁が露出して見えるようならば、ノアズキである可能性大。
#ノアズキ 茅ヶ崎市浜之郷 2022/08/31
#ノアズキ 茅ヶ崎市浜之郷 2022/08/30
#ノアズキ 茅ヶ崎市浜之郷 2023/09/12
#ノアズキ 茅ヶ崎市浜之郷 2023/09/12
ヤブツルアズキと#ノアズキの花の比較 茅ヶ崎市浜之郷 2022/08/30
萼にはオレンジ色の腺点が目立つ。従って蕾はややオレンジ色に見える。萼や柄には、ヤブツルアズキのような開出したけばけばな長毛はない。萼には腺毛がまばらに生える。
#ノアズキの蕾 茅ヶ崎市浜之郷 2024/09/11
#ノアズキの蕾 茅ヶ崎市浜之郷 2022/08/30
ノアズキの実
若いうちは扁平な、サヤエンドウ(莢豌豆、キヌサヤ)形の実ができる。中に納まっているマメ(豆、種子)は八個以下。ヤブツルアズキとアズキの実はインゲン(隠元)のような細長い棒状である。
#ノアズキの既に扁平な若い実(心形の葉はウマノスズクサ) 茅ヶ崎市浜之郷 2022/08/31
#ノアズキの大きく育った未熟な実 茅ヶ崎市浜之郷 2022/09/10
#ノアズキの大きく育った未熟な実 茅ヶ崎市浜之郷 2022/09/10
実の表面にはオレンジ色の点々あり。
#ノアズキの実にあるオレンジ色の点々 茅ヶ崎市浜之郷 2022/09/10
#ノアズキの熟した実 茅ヶ崎市浜之郷 2023/11/22
#ノアズキの熟した実 茅ヶ崎市浜之郷 2023/11/22
#ノアズキの熟した実 茅ヶ崎市浜之郷 2023/11/22
#ノアズキの熟した実 茅ヶ崎市浜之郷 2023/11/22
#ノアズキの熟して裂開した実の残骸 茅ヶ崎市浜之郷 2023/11/22
#ノアズキの熟して裂開した実の残骸 茅ヶ崎市浜之郷 2023/11/22
中の豆が膨らむにつれ、実は太って扁平から短い棒状に変わる。熟すと莢(さや)が茶色くなり、鞘(さや、莢)が二つに捩(ねじ)れながら裂開してぱちんと豆を弾き飛ばす。
#ノアズキの種子 茅ヶ崎市浜之郷 2023/11/25
#ノアズキの種子 茅ヶ崎市浜之郷 2023/11/25
参考資料
『神奈川県レッドデータブック 2022 植物編』 神奈川県環境農政局緑政部自然環境保全課、神奈川県立生命の星・地球博物館編集 神奈川県発行(2022)
『神奈川県植物誌2018』(電子版を含む) 神奈川県植物誌調査会編 神奈川県植物誌調査会発行(2018)
ノアズキは昨年初めて戸塚の公園で見つけましたが今年は草刈りで全部刈られてしまいました。
残念です。作業される方は貴重な草花ということをご存じないのでしょう。