アキザキヤツシロラン

秋咲八代蘭 クサスギカズラ目/ラン科/オニノヤガラ属 花期/9月下旬~10月 結実期/10月下旬~11月
学名/Gastrodia confusa Honda & Tuyama

自生種稀少保護

アキザキヤツシロラン 鎌倉市 2022/09/28

アキザキヤツシロラン 鎌倉市 2022/09/28

日当たりは僅かな木漏れ日程度しかないやや薄暗い林床に生える多年草。名は、発見地である熊本県八代市に因む。神奈川県内にも自生する、野生ランの仲間。ランといっても華やかさはなく、だいぶ風変わりで特殊な植物である。生育には土の中に含まれる特定の菌類が必要な腐生植物(ふせい-、菌従属栄養植物)であり、盗掘して持ち帰ってもまず栽培できるものではない。生育環境は、常緑の広葉樹林内、あるいはスギ(杉)林でも見られるとか聞くが、主には竹林である。地表に出現してくるのは夏が終わって秋へと変遷する時期で、果実が残るのは年内いっぱいらしい。花期に草丈が大きいものでも15cm程度しかなく目立たないため発見例がそう多くはなく、希少種の扱い。とはいえ『神奈川県植物誌2018』に伴う新しい調査で、県内では(湘南・鎌倉・三浦半島を含む)海に近い南側半分の地域では比較的多くの標本が採取されている。自生箇所では、一本ではなく複数本生えているのがふつう。菌を消費してしまったからなのか、結実すると株が弱るのか、何なのか、一年からニ三年で(その自生箇所のものは)滅するという話も。多年草といいながら、毎年同じ場所で咲くわけではない模様。

開花し始めたアキザキヤツシロラン 鎌倉市 2022/09/28

開花し始めたアキザキヤツシロラン 鎌倉市 2022/09/28

9月中旬から下旬にかけて、腐葉土からツクシ(土筆)の偽物みたいなものが生え出てくる。保護色なので、通りすがりにふと視界に入って存在に気づくことができるといったものでなし。

生え出てきたアキザキヤツシロラン 鎌倉市 2022/09/16

生え出てきたアキザキヤツシロラン 鎌倉市 2022/09/16

蕾が膨らんできたアキザキヤツシロラン 鎌倉市 2022/09/25

蕾が膨らんできたアキザキヤツシロラン 鎌倉市 2022/09/25

蕾が膨らんできたアキザキヤツシロラン 鎌倉市 2022/09/25

蕾が膨らんできたアキザキヤツシロラン 鎌倉市 2022/09/25

蕾が膨らんできたアキザキヤツシロラン 鎌倉市 2022/09/25

蕾が膨らんできたアキザキヤツシロラン 鎌倉市 2022/09/25

蕾が膨らんできたアキザキヤツシロラン 鎌倉市 2022/09/25

蕾が膨らんできたアキザキヤツシロラン 鎌倉市 2022/09/25

シノダケ林に生えたアキザキヤツシロラン 鎌倉市 2022/09/28

シノダケ林に生えたアキザキヤツシロラン 鎌倉市 2022/09/28

シノダケ林に生えたアキザキヤツシロラン 鎌倉市 2022/09/28

シノダケ林に生えたアキザキヤツシロラン 鎌倉市 2022/09/28

結実期のアキザキヤツシロラン 鎌倉市 2021/10/24

結実期のアキザキヤツシロラン 鎌倉市 2021/10/24

単にヤツシロランといっても本種を指すことがある。長らく混同されてきたが、昭和55年(1980)にクロヤツシロラン(黒八代蘭)がじつは別種であることが新たに明らかにされた。他にハルザキヤツシロラン(春咲八代蘭)などといったものがある。ヤツシロソウ(八代草)は九州に自生する、あるいはその変種に位置付けられる外国産園芸植物で、いわゆるカンパニュラと総称されるものの内の一つなのでまったくの別種。

アキザキヤツシロランの花

およそ横向きに咲く。ぱっと平開はせず、半開き。咲き終わると小花は下を向く。小花一つがきれいに咲いているのはおよそ三日間だけで、あっという間に咲き終わるので注意が必要。一本に小花は複数個あり、また複数株が一斉にではなく順次成長し開花していくので、花を見逃すことはあまりなかろうが。

アキザキヤツシロラン 鎌倉市 2022/09/28

アキザキヤツシロラン 鎌倉市 2022/09/28

アキザキヤツシロラン 鎌倉市 2022/09/28

アキザキヤツシロラン 鎌倉市 2022/09/28

アキザキヤツシロラン 鎌倉市 2022/09/28

アキザキヤツシロラン 鎌倉市 2022/09/28

アキザキヤツシロラン 鎌倉市 2022/09/28

アキザキヤツシロラン 鎌倉市 2022/09/28

アキザキヤツシロランの花期後半 鎌倉市 2022/10/12

アキザキヤツシロランの花期後半 鎌倉市 2022/10/12

クロヤツシロランと紛らわしいが、株そのものがアキザキヤツシロランの方が大きく背高で、蕾や花の内部が緑色を帯びており、唇弁の内側に毛が生えていない、のが特徴。

アキザキヤツシロラン 鎌倉市 2022/09/28

アキザキヤツシロラン 鎌倉市 2022/09/28

アキザキヤツシロランの実

下を向いていた小花が結実すると直立の上向きに変わり、柄(え)をにょきにょき伸ばして背高に。食用のエノキタケ(榎茸)でも生えているかのような姿となる。こうなると人の目に留まるようになるが、今度はクロヤツシロランとの見分けがつかなくなるので、翌年に花を確認する必要が出てくる。両者が同所に生えることもあるようなので混同に注意。

アキザキヤツシロランの若い実 鎌倉市 2022/10/12

アキザキヤツシロランの若い実 鎌倉市 2022/10/12

アキザキヤツシロランの若い実 鎌倉市 2022/10/12

アキザキヤツシロランの若い実 鎌倉市 2022/10/12

結実期のアキザキヤツシロラン 鎌倉市 2021/10/24

結実期のアキザキヤツシロラン 鎌倉市 2021/10/24

アキザキヤツシロランの実 鎌倉市 2021/10/24

アキザキヤツシロランの実 鎌倉市 2021/10/24

アキザキヤツシロランの実 鎌倉市 2021/10/24

アキザキヤツシロランの実 鎌倉市 2021/10/24

アキザキヤツシロランの実 鎌倉市 2022/11/10

アキザキヤツシロランの実 鎌倉市 2022/11/10

アキザキヤツシロランの果柄基部 鎌倉市 2021/10/24

アキザキヤツシロランの果柄基部 鎌倉市 2021/10/24

アキザキヤツシロランの熟す前の実 鎌倉市 2022/11/10

アキザキヤツシロランの熟す前の実 鎌倉市 2022/11/10

アキザキヤツシロランの種子を放出している熟した実 鎌倉市 2022/11/10

アキザキヤツシロランの種子を放出している熟した実 鎌倉市 2022/11/10

アキザキヤツシロランの熟して種子を放出し終わった実 鎌倉市 2021/10/24

アキザキヤツシロランの熟して種子を放出し終わった実 鎌倉市 2021/10/24


鎌倉市三浦丘陵内のハイキングコース沿いにあるシノダケ群生地)

※盗掘された形跡を確認しているため、植生保護のため、自生箇所の詳細は明かさない。

参考資料

『神奈川県植物誌2018』(電子版を含む) 神奈川県植物誌調査会編 神奈川県植物誌調査会発行(2018)