ツクバトリカブト

筑波鳥兜 キンポウゲ目/キンポウゲ科/トリカブト属 花期/9月~10月
学名/Aconitum japonicum Thunb. subsp. maritimum (Tamura & Namba) Kadota

猛毒危険自生種稀少保護

ツクバトリカブト 藤沢市・新林公園 2017/10/11

ツクバトリカブト 藤沢市・新林公園 2017/10/11

林縁部やハイキングコース沿いなどの明るい草地に生える多年草。日本固有種。トリカブトといったらトリカブト属の総称で、単なるトリカブトという名称の植物はない。名は、花の形が舞楽で使われる被り物の鳥兜に似ることから。神社の祭礼によく登場するサルタヒコノミコト(猿田彦命)が被っているあの頭巾である。全草猛毒なので観察・取り扱いには慎重を要す。トリカブト毒は平成3年(1991)に発覚した連続保険金殺人事件で使われ、たいへん危険な植物として一躍知名度が上がった。うっかり成分を舐めてしまったり目などに入ってしまうと中毒症状を起こしかねないので、不用意に手で触れたり花粉を飛散させたり茎を折ったり踏みつけたり葉を千切るなどしてはいけない。付着している露や雨粒なども用心した方がよい。厚生労働省によれば平成25年(2013)から令和4年(2022)の十年間で発生した食中毒件数は8件、患者数15件、うち死者は1人。最も多くの死者13人を出しているイヌサフラン(犬さふらん、コルチカム)が異常に突出しておりそれに比べれば毒性は見劣りするものの、スイセン(水仙)などよりかは危険性は高いと思われる。

草地でずたぼろに荒れているツクバトリカブト 横須賀市・鷹取山公園 2018/10/30

草地でずたぼろに荒れているツクバトリカブト 横須賀市・鷹取山公園 2018/10/30

ツクバトリカブト 横浜市戸塚区・舞岡公園 2018/10/18

ツクバトリカブト 横浜市戸塚区・舞岡公園 2018/10/18

湘南・鎌倉・三浦半島でトリカブトといったらふつうはツクバトリカブトを指す。ツクバトリカブトは茨城県・筑波山(-さん)のみならず広く分布。葉が深く三裂するのが特徴(という説明をされることが多いが、たいした意味はない)。長い茎を伸ばし立ち上がろうとするが自重で倒れる。花の時期は台風直撃の頃に重なるので、たたずまいは荒れ気味なことが多い。葉は虫食いが多くて見苦しい。

つい食べてしまうトリカブト

トリカブトの若葉は、食用になる人気の野草ニリンソウ(二輪草)などによく似ており、またそれらと混生もしているため、誤ってトリカブトの葉を摘み取ってしまう事故が起こる。ニリンソウのおひたしにトリカブトが一本混じっていただけでアウト。唇に痺(しび)れ、めまい、嘔吐、ときに数時間で死に至ることも。

トリカブト(ツクバトリカブトか)の若葉 横浜市戸塚区・俣野園 2017/03/07

トリカブト(ツクバトリカブトか)の若葉 横浜市戸塚区・俣野園 2017/03/07

トリカブト(ツクバトリカブトか)の若葉 横浜市戸塚区・俣野園 2017/03/07

トリカブト(ツクバトリカブトか)の若葉 横浜市戸塚区・俣野園 2017/03/07

ツクバトリカブトの葉 横浜市金沢区・金沢市民の森 2018/05/20

ツクバトリカブトの葉 横浜市金沢区・金沢市民の森 2018/05/20

ツクバトリカブトの葉 藤沢市・新林公園 2017/10/11

ツクバトリカブトの葉 藤沢市・新林公園 2017/10/11

ツクバトリカブトとヤマトリカブトの見分け方

『神奈川県植物誌2001』によれば、相模川をおよその境として湘南・鎌倉・三浦半島を含む神奈川県東部に分布するのは概ねツクバトリカブト、西部に生えるのはヤマトリカブト(山鳥兜)とのこと。ただし、100%そうだとは言い切れないところが厄介な話で、ツクバトリカブト分布域にひょっこり生えるツクバトリカブトっぽいヤマトリカブト、ヤマトリカブト分布域に生えるヤマトリカブトらしきツクバトリカブト、をしっかり拾い上げ除外できるようでなければいけない。が、トリカブトの見分けは”専門家でも困難”といわれるようなもの(とある植物園の学芸員は「見分け方はよくわからない」と正直に言い、別の者は話を逸らし、ある者は回答せず逃げた)。私自身「こんなにそっくりで個体差程度の差異しかない、ときにそんな差異さえ感じ取れないようなものを、一生懸命見分けて別の名前で呼ぶ必要性が一体全体どこにあるのか」と常々疑問に感じてぐちぐち文句ばっかり言ってはいるが、残念ながらツクバトリカブトのヤマトリカブトという二つの名前が世に知られてしまっている限り、できるだけ傾向を捉えて見分けられるよう努力はしたい。


ツクバトリカブト

神奈川県内では東部に多い。
平地にも生えるが、丘陵地に多い。

葉は三裂。切れ込みは深い。※”三全裂”という表現がされるが、必ずしも全裂といえるほど深く切れ込むわけではない。
裂片は細めでスマートな印象を受ける。裂片の欠刻は大きく粗めで、やや尖った感じ。

花は、帽子の高さが高い。


ヤマトリカブト

神奈川県内では西部に多い。1000m級以下の山地に多い。

葉は三裂。切れ込みはツクバトリカブトに比べれば浅め。※”三深裂”という表現がよくされる。
裂片はややふっくらした印象を受ける。裂片の欠刻は小さめで、やや丸みを帯びた感じ。

花は、帽子の高さが低い。

トリカブトは一般にはその毒性ばかりが着目されるが、毒はうまく使えば薬にもなるのとおり、烏頭(うず)や附子(ぶし)といった漢方薬の原料としてもじつは有名。中国原産種が栽培されることも。

ツクバトリカブトの花

ツクバトリカブト 藤沢市・新林公園 2017/10/11

ツクバトリカブト 藤沢市・新林公園 2017/10/11

ツクバトリカブト 藤沢市・新林公園 2016/10/01

ツクバトリカブト 藤沢市・新林公園 2016/10/01

ツクバトリカブト 横浜市戸塚区・舞岡公園 2018/10/18

ツクバトリカブト 横浜市戸塚区・舞岡公園 2018/10/18

ツクバトリカブト 横浜市戸塚区・舞岡公園 2018/10/18

ツクバトリカブト 横浜市戸塚区・舞岡公園 2018/10/18

ツクバトリカブト 横浜市戸塚区・舞岡公園 2018/10/18

ツクバトリカブト 横浜市戸塚区・舞岡公園 2018/10/18


横浜市金沢区・金沢市民の森(~横浜横須賀道路釜利谷陸橋)

鷹取山公園(「東屋~京急田浦」方面の明るい草地に)、YRP・光の丘水辺公園(9月中旬~下旬、野鳥の池畔)、葉山町・二子山(上二子山~下二子山西側)、市境広場~天園、浄智寺谷戸(葛原岡・大仏ハイキングコース入口)、鎌倉中央公園(田んぼ周辺)、藤沢市・新林公園(9月末~10月上旬、東京電力鉄塔の東側山道沿いに群生)

久里浜緑地(モミジイチゴ生える草地に多数、他の雑草に押されて大きく成長するのは若干数のみか)、蘆花記念公園(数はそれなりにあるが崖上崖下などで観察不適)、宅間ガ谷(山道入ってすぐ左側)、高麗山公園

参考資料

『日本の固有植物』 加藤雅啓・海老原淳編 東海大学出版会発行(2011)

『神奈川県植物誌2001』 神奈川県植物誌調査会編集 神奈川県立生命の星・地球博物館発行(2001)