ジャノヒゲ(リュウノヒゲ)

蛇の髭 クサスギカズラ目/クサスギカズラ科/ジャノヒゲ属 花期/7月上旬~中旬 結実期/12月~3月

薬用自生種

ジャノヒゲ(リュウノヒゲ)の実 大磯町・高麗山公園楊谷寺谷戸 2015/11/23

ジャノヒゲ(リュウノヒゲ)の実 大磯町・高麗山公園楊谷寺谷戸 2015/11/23

日当たりのよくない林床に生える常緑の多年草。リュウノヒゲ(龍の髭)の別名もあるが、一般的にはジャノヒゲで呼ばれる。ハイキングコース沿いなどにふつうに生えているのでおそらく(意識して見たかは別として)誰しもの目に触れているはずである。株一つは人の手のひらに乗る程度の大きさ。地下茎を伸ばして増殖するため、手のひらサイズのものがちょんちょんちょんと周辺に点在して生える。点在が過ぎると群生に至る。湘南・鎌倉・三浦半島では、特に林が残る丘陵地でありきたりの普通種。乾燥した尾根上などにも生えるが、やや湿りがちな場所の方が葉がよく茂って群生し、花や実も多めに付いている。グラウンドカバーなどとしてよく栽培もされている。

たいへん紛らわしい変種にナガバジャノヒゲ(長葉蛇の髭)、見た目に違いが大きいが名前が紛らわしいオオバジャノヒゲ(大葉蛇の髭)がある。加えて、ヤブラン(藪蘭)ヒメヤブラン(姫藪蘭)キチジョウソウ(吉祥草)あたりとも見分けられるようにしたい。更にスゲ(菅)などにも葉がよく似たものがあり、同定は相当に厄介な作業である。大きさがまったく異なるので混同することはないだろうが、類似する姿のものとしてノシラン(熨斗蘭)も挙げておく。

ジャノヒゲ(リュウノヒゲ) 大磯町・高麗山公園楊谷寺谷戸 2015/11/23

ジャノヒゲ(リュウノヒゲ) 大磯町・高麗山公園楊谷寺谷戸 2015/11/23

ハイキングコース沿いにできたジャノヒゲ(リュウノヒゲ)の群生 葉山町/逗子市・森戸川源流 2018/12/21

ハイキングコース沿いにできたジャノヒゲ(リュウノヒゲ)の群生 葉山町/逗子市・森戸川源流 2018/12/21

葉は細い線形(ナガバジャノヒゲ、ヒメヤブラン、スゲなども細い)。葉の表面は、中央に一本走っているだろう主脈の部分が明瞭に凹むことはない。葉の裏面は、緑色と白っぽい緑の縞々模様になっている。この葉裏の縞々模様があることでジャノヒゲ属ないしヤブラン属のヒメヤブランのいずれかであると絞ってよいのではないか。つまり、裏に緑と白のストライプ模様があって、細い葉ならジャノヒゲかナガバジャノヒゲないしヒメヤブラン、ある程度幅のある葉ならオオバジャノヒゲとわかる。(スゲなどである可能性を排除できる。)

ジャノヒゲの葉表 葉山町/逗子市・森戸川源流 2018/12/21

ジャノヒゲの葉表 葉山町/逗子市・森戸川源流 2018/12/21

ジャノヒゲの葉裏に見える緑と白の縞々模様 葉山町/逗子市・森戸川源流 2018/12/21

ジャノヒゲの葉裏に見える緑と白の縞々模様 葉山町/逗子市・森戸川源流 2018/12/21

葉の幅は約3mm。ナガバジャノヒゲも同様。ヒメヤブランもほぼ同様で幅3.5mm程度。なおオオバジャノヒゲの葉は(ヤブランやキチジョウソウほどではないにせよ)幅広で6mmくらいある。

ジャノヒゲ、ナガバジャノヒゲ、オオバジャノヒゲの葉の幅の比較

ジャノヒゲ、ナガバジャノヒゲ、オオバジャノヒゲの葉の幅の比較

葉の長さはばらつきあるも20cm程度で、目安として30cmを限度とする。葉の長さが30cmから40cmくらいあったらナガバジャノヒゲである疑い。ヒメヤブランはその中間くらいの長さである。

ジャノヒゲ(リュウノヒゲ)の葉 鎌倉市山ノ内 2017/03/05

ジャノヒゲ(リュウノヒゲ)の葉 鎌倉市山ノ内 2017/03/05

ジャノヒゲ属(ジャノヒゲ、ナガバジャノヒゲ、オオバジャノヒゲ)に共通するものとして、葉の縁(ふち)には明瞭なぎざぎざがある。とされているが、実際のところは目視しがたい。写真を拡大してもなかなか見えない。ルーペ(×10)で覗いたとて見えやしないことさえある。それくらい細かすぎるものではあるが、葉の基部から葉先の方向に向かって伸びるぎざぎざは確かにあり、指で(葉先から葉の基部方向に向かって)葉の縁をなぞるとざらざらに感じられる。ススキ(芒)の葉の縁と大体似たような構造である(ススキは指を切りかねないので注意)。ジャノヒゲやナガバジャノヒゲとたいへん紛らわしいヒメヤブランの葉の縁にはこのぎざぎざがない。

等々と言ってみたところで同定はやはり相当難しいので、花や実が付いている時期に観察すると確度は上げられるだろう。

ヤブラン・ジャノヒゲ類の違いのまとめ

ヤブラン・ジャノヒゲ類の違いのまとめ

ジャノヒゲの葉が短い園芸品種がタマリュウ(玉竜)の名でホームセンターで安価で販売されており、砂利代わりのグラウンドカバーとして民家の庭で多用されている。
タマリュウは、オカダンゴムシ(陸団子虫、市街地でふつうに見られるダンゴムシ)が大量に棲み付いている場所に植えると特に夏場は葉の食害がひどい。ダンゴムシは夜行性なので、犯行が行われるのは夜間。歩き回ってはちょっとかじり、しばらく歩き回ってはまたちょっとかじりと、小さな食痕を大量に作り出してしまう。

タマリュウ(栽培)の葉を食べるオカダンゴムシ 茅ヶ崎市浜之郷 2018/07/08

タマリュウ(栽培)の葉を食べるオカダンゴムシ 茅ヶ崎市浜之郷 2018/07/08

オカダンゴムシに食い散らかされたタマリュウ(栽培)の葉 茅ヶ崎市浜之郷 2018/07/08

オカダンゴムシに食い散らかされたタマリュウ(栽培)の葉 茅ヶ崎市浜之郷 2018/07/08

外来種であるオカダンゴムシが生息しているのは人家の周辺に限られるため、おもしろいことに林内に生えているジャノヒゲの葉には被害が見られない。(他の虫がジャノヒゲの葉を多少かじっていることはある。)

ジャノヒゲの花

もしゃもしゃ茂った葉の付け根部分から花柄(かへい)を伸ばし、その先に小花をいくつか付ける。湘南・鎌倉・三浦半島に自生するジャノヒゲの花色は白。よおく見ればうっすらと紫がかっていなくもないが、肉眼ではただの白色に見えるだろう。花柄は短いため花序は葉に埋もれてしまう。また小花はいずれも下向きに咲くため、観察に難。葉を手で掻き分けて、小花を指先でくいっと上向きにしてようやく花とご対面できるような有様。花付きはいまいちで、すべての株で花が咲くわけではない。特に乾燥気味な場所に生えているものは花が咲かないことが多い。

タマリュウ(栽培) 茅ヶ崎市浜之郷 2018/07/03

タマリュウ(栽培) 茅ヶ崎市浜之郷 2018/07/03

タマリュウ(栽培) 茅ヶ崎市浜之郷 2016/07/05

タマリュウ(栽培) 茅ヶ崎市浜之郷 2016/07/05

タマリュウ(栽培) 茅ヶ崎市浜之郷 2018/07/03

タマリュウ(栽培) 茅ヶ崎市浜之郷 2018/07/03

花柄は扁平で硬い。花柄の長さは人の小指より短い。

タマリュウ(栽培) 茅ヶ崎市浜之郷 2018/07/03

タマリュウ(栽培) 茅ヶ崎市浜之郷 2018/07/03

ジャノヒゲの実

初冬に、緑色だった実(のように見える露出した種子)が美しい紺色に熟す。薄暗い林床にあっては肉眼では黒っぽく見えるかもしれないが、ストロボを焚いて写真撮影すると鮮やかなコバルトブルーに輝いて写る。実も花と同様、もしゃもしゃ生えた葉を掻き分けてみなければ探し出せないだろう。かわいらしい実であるが、摘んだものはじきにしおれてしまう。

ジャノヒゲ(リュウノヒゲ)の未熟な実 大磯町・高麗山公園地獄沢 2015/11/11

ジャノヒゲ(リュウノヒゲ)の未熟な実 大磯町・高麗山公園地獄沢 2015/11/11

ジャノヒゲの実 葉山町/逗子市・森戸川源流 2018/12/21

ジャノヒゲの実 葉山町/逗子市・森戸川源流 2018/12/21

ジャノヒゲ(リュウノヒゲ)の実 大磯町・高麗山公園楊谷寺谷戸 2015/11/23

ジャノヒゲ(リュウノヒゲ)の実 大磯町・高麗山公園楊谷寺谷戸 2015/11/23

ジャノヒゲの果柄(かへい)は短く、4cm程度(人の小指の長さより短い)。

オオバジャノヒゲ、ナガバジャノヒゲ、ジャノヒゲの果柄の比較

ジャノヒゲ、ナガバジャノヒゲ、オオバジャノヒゲの果柄の比較

ジャノヒゲの実は、直径7mm程度。さすがにスーパーボールほどではないにせよ、よく跳ねることが知られる。

ジャノヒゲ、ナガバジャノヒゲ、オオバジャノヒゲ、ヤブランの実の比較

ジャノヒゲ、ナガバジャノヒゲ、オオバジャノヒゲ、ヤブランの実の比較

なおジャノヒゲなどの実はヒヨドリ(鵯)等が摘まんでいく模様。消化されずに糞と一緒に排泄された実が遠隔地で発芽できる。


森戸川源流(林道沿い)、神武寺(裏参道)

フォローする

『ジャノヒゲ(リュウノヒゲ)』へのコメント

  1. 里山ライフ 投稿日:2020/04/13(月) 23:38:22 ID:39e235105 返信

    わが家の庭でも自生し群生化しています。
    庭の「落葉性の植裁下」環境に、
    スミレやジャノヒゲ、ヤブランなどの類が出現するので、それらの「同定」をしたく思っていました。
    おかげさまで、それらの全てを「同定」できました。
    スミレの類は:スミレ、タチツボスミレ、マルバスミレの三種。ジャノヒゲの類は:ジャノヒゲ、ナガバジャノヒゲの二種。ヤブランの類は:ヤブラン、ヒメヤブランの二種です。

    当地(栃木県東部の谷津:谷戸の丘陵上)に居を構えて四半世紀ですが、
    当地は「ことのほか生物多様性が豊か」で、ヒヨドリやツグミ類などの野鳥によって「植物相」がもたらされ、当初の「芝庭」からは様変わり(植生遷移)し「ビオトープ・ガーデン」と化しました。
    森羅万象が人間の存在によって翻弄されていると危惧しますが、人智の及ばない「自然の逞しさ」も感じています。