ヒシ

菱 フトモモ目/ミソハギ科/ヒシ属 花期/7月下旬~9月中旬 結実期/9月下旬~10月

食用自生種稀少保護

神奈川県レッドリスト2006「絶滅危惧IA類」

ヒシ 小田原城址公園 2016/08/08

ヒシ 小田原城址公園 2016/08/08

池や沼などの日当たりのよい止水に浮かんでいるように見える水草。一年草。三月から四月にかけて水底に落っこちていた種子が発芽し水底の土中に根を張って、水面まで細長い茎を伸ばしたら、およそ四月下旬に水面で葉を広げる。ホテイアオイ(布袋葵)のように全体が水面に浮遊しているのではなく、ヒシは船が錨(いかり)をおろすように水底に根を張って定着している。

ヒシの若葉 大磯町・東の池産 2018/04/23

ヒシの若葉 大磯町・東の池産 2018/04/23

ヒシの若葉 大磯町・東の池産 2018/04/23

ヒシの若葉 大磯町・東の池産 2018/04/23

スイレン鉢を埋め尽くしたヒシの新緑 大磯町・東の池産 2018/05/15

スイレン鉢を埋め尽くしたヒシの新緑 大磯町・東の池産 2018/05/15

昔は農業用の溜め池などにたくさんあったに違いないが今ではほぼまったく見かけない。神奈川県内では小田原城の堀にのみ安定して自生しているが、大量の外来種オオカナダモ(大加奈陀藻)により隅へ追いやられている状態。小田原市にオオカナダモを駆除しようという強い意識は感じられない。

ヒシ 小田原城址公園 2016/08/08

ヒシ(大きめの丸い葉はスイレン) 小田原城址公園 2016/08/08

葉柄にはホテイアオイのような浮き袋ができ、これでバランスを取って水面に葉を浮かべている。しかし大きく成長して密生してくると葉が少し立ち上がるようだ。横へ横へ葉を広げづらくなったら上へ上へと。地球温暖化の影響で気温が30℃を超える炎天下となっても、弱ることなくむしろよく繁る。その辺は南米原産のホテイアオイに通じるものを感じないでもない。

池面を覆うヒシの大群生 新横浜公園減勢池 2016/08/31

池面を覆うヒシの大群生 新横浜公園減勢池 2016/08/31

増え方もホテイアオイと同様で、親株が走出枝(そうしゅつし)を伸ばしてその先に子株を作る。一夏のうちに子株を四つも五つも作るものだからやはりホテイアオイのごとく増えて増えて仕方がない、スイレン鉢などではとてもじゃないが手に負えないくらいの増殖スピードを誇る。

走出枝を伸ばして子株を作るヒシ 大磯町・東の池産 2018/06/27

走出枝を伸ばして子株を作るヒシ 大磯町・東の池産 2018/06/27

ヒシの葉が食害に遭っていたら犯人は稀少種ジュンサイハムシ(蓴菜葉虫)の可能性。オンブバッタ(負飛蝗)なども葉をかじる。

ヒシの花

花は小さく小指の爪程度。色は白。一斉開花せず、夏の間にぽつりぽつりと順次咲いてゆく。一日花。朝咲いて夕方閉じるといわれているが、私が確認した限りでは朝にも昼にも夕方にも日没前後にも開花しており、咲き始める時刻はかなり気まぐれなご様子。

花が咲いたヒシ 新横浜公園減勢池 2016/08/31

花が咲いたヒシ 新横浜公園減勢池 2016/08/31

花は小さいので、すぐ間近で見ない限りは”なんだか白いちんちくりんなものが付いているんだか何だか”としか思えないようなもの。

ヒシ 大磯町・東の池 2017/08/02

ヒシ 大磯町・東の池 2017/08/02

見るとだいたいは半開き。こんな小さな花であってもシジミチョウ(小灰蝶)の仲間が蜜を吸いにやって来る。歩いて渡れるところに咲いているものなら小さなアリ(蟻)も少数ながら集まってくる。

ヒシ 大磯町・東の池 2017/08/09

ヒシ 大磯町・東の池 2017/08/09

咲き終わると上向きだった花は力をなくして水中に没し、そこで実を結ぶ。自家受粉できるため、花はたった一つしか咲いていなくても実はできる。一夏の間に一株が十以上の花を咲かせるので繁殖力は決して悪くない。なのになぜヒシが絶滅危惧種になるか。それはやはり、水面を覆ってしまうヒシを目障りだ、農業の支障になるとして除草に励んだ人間の仕業を感じざるを得ない。

ヒシの実

ヒシの実 大磯町・東の池産 2017/10/03

ヒシの実 大磯町・東の池産 2017/10/03

菱形の名前の由来にもなっているヒシの実。まさに菱形の実がなる。とされるがしかし、実際のヒシの実は三角形(中身はV字)で、菱形の要素はどこにも見当たらない。しいていうなら葉の形の方がまだ菱形に近いか。はたまた近縁種オニビシ(鬼菱)の実が菱形といえなくもないか。よくわからない。

ヒシの実 大磯町・東の池産 2017/10/03

ヒシの実 大磯町・東の池産 2017/10/03

まるで”悪魔の実”のような容貌のヒシの実は殻硬く、角(つの)のような二本の棘(とげ)がある。この鋭い棘の先端には返しが付いており、水鳥の羽毛に棘が刺さるとそのまま付着して遠くの池まで運ばれてゆくことがあるという。
実は熟すと水底に沈み越冬。翌春発芽する。一年草のため、葉などは秋に枯れて腐って消滅する。

ヒシの実 大磯町・東の池産 2017/10/03

ヒシの実 大磯町・東の池産 2017/10/03

ヒシの実は食べられる。横浜中華街で甘栗が売られているように、台湾では小さな屋台で”菱角(ひしのみ、リンジャオ)”として茹でヒシの実が販売されており秋の名物に。日本国内でも福岡県や佐賀県で盛んに栽培されている。食用の実は完熟して水底に沈んでしまう前に収穫のこと。親株と実を繋いでいる柄(え)はたいへん折れやすく実はすぐに水中にぽろりと落ちてしまうので、取り扱いには注意したい。


川崎市麻生区早野・ため池群(昭和61年(1986)最も西側の池に確認記録あり、滅失)、新横浜公園(減勢池に大群生、ただし池は立ち入り禁止の柵の向こう、台風増水時にのみ間近で見られるか、由来不明、ジュンサイハムシも)、横浜市金沢区・称名寺(昭和時代は池に多くあった、滅失)、横浜市戸塚区・俣野園(平成30年(2018)6月 余剰の数株を送付したので池で栽培されるのではないか)

大磯町・東の池(一時滅失、平成28年(2016)滅失確認、同年ハスが原因不明の完全消滅をしたためか翌平成29年(2017)ヒシ復活)

横須賀市津久井五丁目・谷戸作堰(谷戸作の池、津久井小と東光寺の間を北に、滅失)、鶴岡八幡宮(昭和61年(1986)確認記録あり、滅失)

小田原城址公園(堀に自生)

平成30年(2018)4月22日(日)放送、テレビ東京の人気番組「緊急SOS!池の水ぜんぶ抜く大作戦~日本三大“池”だ!小田原城&善光寺&日比谷公園~」で38年ぶりに小田原城の堀が水抜きされた。大義は”オオカナダモを駆除して堀の浄化を図る”というもの(じつのところは司会の田村淳(ロンドンブーツ1号2号)が大の城好きで、堀の底に沈んでいる歴史的なお宝を発見したかった模様)。小田原城でのロケ日は3月21日(水・祝)だったようだが、ヒシの発芽時期と重なった。当日は大勢の参加者が水抜きされた堀に入って歩き回り、主にサカナやカメの調査と投棄されたゴミの収集を行ったとのことながら、神奈川県レッドリスト2006で「絶滅危惧IA類」(ごく近い将来における絶滅の危険性が極めて高い種)に指定され「確実に現存するのは小田原城内堀1ヶ所に限られる」とまで記載されているヒシについては番組内で一言たりとも触れられることはなかった。芽が傷つけられて成長できなくなったヒシが相当数あったのではないか、個体数の減少に直結したのではないか、との危惧が消えない。なおヒシ保全の責任者は小田原市(加藤憲一市長)と神奈川県自然環境保全センターであって、テレビ東京や番組司会者ではない。

参考資料

「神奈川県立自然保護センター調査研究報告4」 神奈川県立自然保題センター発行(1987)

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