ヒメイタビ

姫崖石榴 バラ目/クワ科/イチジク属 黄葉/6月上旬~中旬 花期/8月下旬~10月 結実期/9月~11月
学名/Ficus thunbergii Maxim.

自生種保護

ヒメイタビの成木の葉 逗子市・神武寺 2018/10/25

ヒメイタビの成木の葉 逗子市・神武寺 2018/10/25

丘陵地の岩崖(がんがい)にへばりつくようにして生える常緑の藤本(とうほん)で、雌雄異株(しゆういしゅ)。名は、イタビカズラ(崖石榴)の仲間でそれよりも小さくかわいらしい感じがするもの、の意。オオイタビ(大崖石榴)に対してのヒメイタビかもしれない。神奈川県内では主に三浦半島の付け根の地域で見られ、特に逗子市・神武寺(じんむじ)に多い。市指定史跡名勝天然記念物「神武寺周辺の岩隙植物群落(-がんげき-)」を構成している一種に挙げてよいだろうと思われる。三浦半島の林内にありがちな放置された石切場の跡や切通しの岩壁などで見られるだろう。但し、イタビカズラのようにどこにでもあるものではない。オオイタビと同様に、コンクリートブロックに這わせて覆うなど、民家の緑化に利用されることがある。

ヒメイタビの群生 鎌倉市・円覚寺 2019/03/27

ヒメイタビの群生 鎌倉市・円覚寺 2019/03/27

ヒメイタビの成木の葉 逗子市・神武寺 2018/10/25

ヒメイタビの成木の葉 逗子市・神武寺 2018/10/25

基本的には切り立った岩にべったりと貼り付く。岩場が乾燥しにくいためか日当たりがあまりよくない場所に多く生える傾向があるように思われるが、日当たりよい場所にある株の方がすくすく成長するという、林内に自生する蔓植物の矛盾した習性がヒメイタビにも感じられる。

ヒメイタビの成木の葉 逗子市・神武寺 2018/10/25

ヒメイタビの成木の葉 逗子市・神武寺 2018/10/25

イタビカズラの仲間なので葉は互生。二枚一対で生える対生の葉はテイカカズラ(定家葛)あたりだろう。葉の大きさは様々で、小さい葉はマメヅタ(豆蔦)と大差なく、大きい葉は成人男性の太い親指一本分くらいある。それでもイタビカズラやオオイタビに比べれば明らかに小振り。株がしっかり成長していない、あるいは蔓の先端に生える(小さめの)葉には軽く切れ込みが入るのが大きな特徴で、これをもってヒメイタビだと決定づけると良い。ツタウルシ(蔦漆)の幼い小葉の一枚のような形状である。周囲を見回しても切れ込んだ葉がまったく見つからなかったらオオイタビである可能性も疑いたい。ヒメイタビはオオイタビの成長の良くない株と紛らわしいが、ヒメイタビにはオオイタビに見られる大きな葉はない。

ヒメイタビの葉 逗子市・神武寺 2018/10/25

ヒメイタビの葉 逗子市・神武寺 2018/10/25

ヒメイタビの幼木に生えた切れ込みが入る葉 逗子市・神武寺 2018/10/25

ヒメイタビの幼木に生えた切れ込みが入る葉 逗子市・神武寺 2018/10/25

ヒメイタビを特徴付ける、切れ込みが入る葉 逗子市・神武寺 2018/10/25

ヒメイタビを特徴付ける、切れ込みが入る葉 逗子市・神武寺 2018/10/25

ヒメイタビを特徴付ける、切れ込みが入る葉 鎌倉市・円覚寺 2019/09/01

ヒメイタビを特徴付ける、切れ込みが入る葉 鎌倉市・円覚寺 2019/09/01

ヒメイタビの切れ込みが入る葉 鎌倉市・建長寺 2024/01/09

ヒメイタビの切れ込みが入る葉 鎌倉市・建長寺 2024/01/09

ヒメイタビの切れ込みが入る葉 鎌倉市・建長寺 2024/01/09

ヒメイタビの切れ込みが入る葉 鎌倉市・建長寺 2024/01/09

ヒメイタビの切れ込みが入らなくなった葉 逗子市・神武寺 2018/10/25

ヒメイタビの切れ込みが入らなくなった葉 逗子市・神武寺 2018/10/25

葉がよく生える若い枝には褐色の細かい毛が密生している。葉は硬く造花のようにぱりぱりした触り心地。葉裏の葉脈にも毛が生えているらしいが視認できない。

ヒメイタビの葉裏 逗子市・神武寺 2018/10/25

ヒメイタビの葉裏 逗子市・神武寺 2018/10/25

葉がより大きく、葉先が細く長く伸びていたらばイタビカズラの葉。両者は似たような場所に生え、混生もしうる。葉の表面は、イタビカズラはやや光沢があり、ヒメイタビはくすむ傾向。

ヒメイタビの成木の葉(小さめのもの)とイタビカズラの葉の比較 逗子市・神武寺 2018/10/25

ヒメイタビの成木の葉(小さめのもの)とイタビカズラの葉の比較 逗子市・神武寺 2018/10/25

ヒメイタビの成木の葉 逗子市・神武寺 2018/10/25

ヒメイタビの成木の葉 逗子市・神武寺 2018/10/25

葉が互生で大きく、基部が心形(しんけい)だったらフウトウカズラ(風藤葛)だろう。葉脈の走り方も異なる。

ヒメイタビの黄葉

特に梅雨入り前の若葉は錦に色付いて美しい。はじめ赤色、のち朱色、黄色、黄緑色と変遷して緑色になる。

ヒメイタビの黄葉 鎌倉市・円覚寺 2019/06/06

ヒメイタビの黄葉 鎌倉市・円覚寺 2019/06/06

ヒメイタビの黄葉 鎌倉市・円覚寺 2019/06/06

ヒメイタビの黄葉 鎌倉市・円覚寺 2019/06/06

ヒメイタビの黄葉 鎌倉市・円覚寺 2019/06/06

ヒメイタビの黄葉 鎌倉市・円覚寺 2019/06/06

ヒメイタビの黄葉 鎌倉市・円覚寺 2019/06/06

ヒメイタビの黄葉 鎌倉市・円覚寺 2019/06/06

ヒメイタビの花

ヒメイタビは蔓性のイヌビワ(犬枇杷)であるから、花は花嚢(かのう、嚢は袋の意)と呼ばれる(外見は実にしか見えない)丸い膨らみの内部で咲く、隠頭花序(いんとうかじょ)と呼ばれる特殊な形態。もちろん、花嚢が付いていることがわかるのみで、中で咲いているのかまだ蕾なのかじつはもう咲き終わった状態なのかは、花嚢を半分に切断してみないことには伺い知れない。花嚢が黄色っぽいうちが咲いているときかもしれない。花嚢の直径は1.5~2cm程度。葉が小さいので花嚢は大きめに感じられる。若々しい緑色のままの姿で地面にぽろりと落ちているものは、咲き終わった(雄株の)雄花の花嚢か。

ヒメイタビの花嚢 鎌倉市・円覚寺 2019/09/01

ヒメイタビの花嚢 鎌倉市・円覚寺 2019/09/01

ヒメイタビの花嚢 鎌倉市・円覚寺 2019/09/01

ヒメイタビの花嚢 鎌倉市・円覚寺 2019/09/01

花嚢は枝葉に隠れるようにして付くので、人の目線から眺めているだけではなかなか見つけられるものでない。下から見上げるか、枝をいちいちめくってみるよりなし。色合いも同じ緑なので、時間をかけて凝視してようやく気付けることも。黄色っぽいときが咲いている状態か。

ヒメイタビの花嚢(白色矢印) 鎌倉市・円覚寺 2019/09/01

ヒメイタビの花嚢(白色矢印) 鎌倉市・円覚寺 2019/09/01

ヒメイタビの花嚢 逗子市・神武寺 2018/10/25

ヒメイタビの花嚢 逗子市・神武寺 2018/10/25

花嚢には明確な柄(え)が確認できる。あるのかないのかよくわからないような短い柄だったらイタビカズラの花嚢である疑い。オオイタビの花嚢も若いうちは丸っこい形状なのでヒメイタビと紛らわしい。

ヒメイタビの花嚢 逗子市・神武寺 2018/10/25

ヒメイタビの花嚢 逗子市・神武寺 2018/10/25

ヒメイタビの花嚢 逗子市・神武寺 2018/10/25

ヒメイタビの花嚢 逗子市・神武寺 2018/10/25

ヒメイタビの花嚢と果嚢 鎌倉市山ノ内 2019/09/04

ヒメイタビの花嚢と果嚢 鎌倉市山ノ内 2019/09/04

ヒメイタビの花嚢 鎌倉市山ノ内 2019/09/04

ヒメイタビの花嚢 鎌倉市山ノ内 2019/09/04

花嚢は岩面にべたあっと貼り付いている枝にではなく、岩から起き上がった枝に付く。

ヒメイタビの成木の、岩から立ち上がった様子 逗子市・神武寺 2018/10/25

ヒメイタビの成木の、岩から立ち上がった様子 逗子市・神武寺 2018/10/25

ヒメイタビの実

雌株の花嚢は、内部で花が咲き終わると名を果嚢(かのう)と改め実に姿を変える。といっても外観からはわからない。秋に黒紫色に熟すらしい。

ヒメイタビの果嚢か 鎌倉市・円覚寺 2019/09/01

ヒメイタビの果嚢か 鎌倉市・円覚寺 2019/09/01

ヒメイタビの果嚢か 鎌倉市・円覚寺 2019/09/01

ヒメイタビの果嚢か 鎌倉市・円覚寺 2019/09/01

ヒメイタビの果嚢 鎌倉市山ノ内 2019/09/04

ヒメイタビの果嚢 鎌倉市山ノ内 2019/09/04


神武寺(山門周辺~鐘楼周辺、表参道にも少々)、円覚寺(佛日庵墓地入口のやぐら周辺)

建長寺(方丈庭園西向かいの石垣、常に刈られる)

参考資料

『神奈川県植物誌2001』 神奈川県植物誌調査会編集 神奈川県立生命の星・地球博物館発行(2001)

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