都草 マメ目/マメ科/ミヤコグサ属 花期/5月~11月 結実期/6月~12月
学名/Lotus corniculatus L. subsp. japonicus (Regel) H.Ohashi
自生種薬用
ミヤコグサ 葉山公園 2017/05/17
芝生など、背高な他の草木が生えていない日当たりの良い平地を好む多年草。草姿(そうし)は這う。神奈川県内では特に三浦半島の海に面した磯の付け根にある栄養が乏しく暴風にも晒される劣悪な低草地でコマツナギ(駒繋)あたりと同居しているものを特に多く見かけるが、耐塩性が高いだけで海浜植物というわけではなく、例えば相模原市といった内陸部にも分布がある。名は、生薬の百脈根(ひゃくみゃくこん)になる草、つまりミャッコングサ(脈根草)からの転訛(てんか)か。別名(花の形はむしろ冠に似ているのだが)エボシグサ(烏帽子草)。都人が行き交う様子に喩(たと)えられた可能性も。花は黄色くかわいらしいものであるも栽培されることはまずない、ほぼ雑草な野草。市街地では見かけないので一般の人はあまり見かける機会がないかもしれないが、前述の通り臨海地域には多いので普通種。人家に近い所で地べたに張り付いて群生している紛らわしいマメ科の草はヤハズソウ(矢筈草)だろう。
磯の基部にある芝地に生えたミヤコグサ 横須賀市・天神島臨海自然教育園 2024/06/20
海辺の低草地に生えたミヤコグサ 三浦市・毘沙門海岸 2016/09/17
ミヤコグサとセイヨウミヤコグサの見分け方
在来種のミヤコグサか外来種のセイヨウミヤコグサかは、一個の花序に咲く小花の数の違いで判別する。小花が二個程度ならミヤコグサ、六個程度ならセイヨウミヤコグサ(ないし別の外来種)である。
学術的に、ミヤコグサは、ヨーロッパ原産の外来帰化雑草であるセイヨウミヤコグサ(西洋都草)の亜種に位置付けられている。そのせいか、両者は姿が酷似していて見分けが極めて難しいとの誤解が定着している。そこら中にはびこる外来種が問題になって久しいせいだろう、ミヤコグサに関しても外来種であるセイヨウミヤコグサが分布の範囲を拡大させているという根拠不明の決め付けが流布されている。誰が言い出したのか”萼に毛が生えていたらセイヨウミヤコグサだ”という世間を混乱に陥(おとしい)れる風説があり、その結果、ブログやSNSでは萼に少々の毛が生えているミヤコグサを指して”これはおそらくセイヨウミヤコグサなのだろう”という誤認がしばしば発せられている。少なくとも神奈川県内に関する限りは、いずれも誤りである。萼の毛がどうの、萼片の長さがどうたら、茎が中空(ちゅうくう、中が空洞になっている)とか中実(ちゅうじつ、中身が詰まっている)だとか、そんなことは一切考える必要はない。一個の花序に花が二個程度咲くあたかもミヤコグサのようなそれは、すべてミヤコグサである。
ミヤコグサ 葉山公園 2017/05/17
ミヤコグサ 葉山公園 2017/05/17
ミヤコグサ 葉山公園 2017/05/17
ミヤコグサ 三浦市・毘沙門海岸 2016/09/17
芝地に生えた結実期のミヤコグサ 横須賀市・天神島臨海自然教育園 2024/06/20
芝地に生えた結実期のミヤコグサ 横須賀市・天神島臨海自然教育園 2024/06/20
茎は地べたを這い、先端の花の付近だけがくいっと立ち上がる。従って草丈は高さ15cm程度まで。密生して横に伸びる場所を失えば上へ上へ育ってゆくことにはなる。
#ミヤコグサ(鉢植え)の這う姿 茅ヶ崎市浜之郷 2020/06/21
#ミヤコグサの鉢植え 茅ヶ崎市浜之郷 2020/06/17
#ミヤコグサの花だけが立ち上がる姿 茅ヶ崎市浜之郷 2020/06/21
#ミヤコグサの姿 茅ヶ崎市浜之郷 2020/06/21
真上から見たミヤコグサ 横須賀市・天神島臨海自然教育園 2024/06/20
葉は、他のミヤコグサ類同様に、小葉五枚のセット。一対二枚は托葉状に付き(というより托葉にしか見えないのだが、どうやら微細な真の托葉が現れることがあるらしい)、三枚は葉柄(ようへい)先端で掌状(しょうじょう)に付く。大きさはまちまち。
ミヤコグサの葉 横須賀市・天神島臨海自然教育園 2024/06/20
ミヤコグサの葉 横須賀市・天神島臨海自然教育園 2024/06/20
ミヤコグサの葉 横須賀市・天神島臨海自然教育園 2024/06/20
ミヤコグサの葉 横須賀市・天神島臨海自然教育園 2024/06/20
ミヤコグサの葉 横須賀市・天神島臨海自然教育園 2024/06/20
ミヤコグサの葉 横須賀市・天神島臨海自然教育園 2024/06/20
ミヤコグサの葉 横須賀市・天神島臨海自然教育園 2024/06/20
#ミヤコグサの葉 茅ヶ崎市浜之郷 2020/06/17
ミヤコグサの(茎先端近くの)葉裏と毛 葉山公園 2017/05/17
茎は『神奈川県植物誌2018』にセイヨウミヤコグサ共々’中空ではなく’とあるが、太くて硬い茎を切ってみたところ中空の部分があった。他のミヤコグサの仲間にもいえることだが、茎が中空か中実かは切断箇所によって様々であり、これを同定の手掛かりにしてはいけない。
#ミヤコグサの中空でない茎(はさみで切断したもの) 茅ヶ崎市浜之郷 2020/06/19
#ミヤコグサの中空でない茎(カッターナイフで削いだもの) 茅ヶ崎市浜之郷 2020/06/19
ミヤコグサの花
マメ科ならではの蝶形花(ちょうけいか)と呼ばれる形状で、花色はやや明るい黄色。小さな花だが、見栄えする。旗弁(上向きに立っているもの)は横幅7~9mm。一個の花序に、小花はふつう二個咲く。あるいは一個で、ときに三個。四個の小花が付くこともないではないが希。およそ二個の小花があれば在来種のミヤコグサだと判断して構わない。セイヨウミヤコグサなど外来の近似種はおよそ六個の小花が咲くので、ぱっと見で相違は明らか。花期は長いが、最盛期は初夏。
ミヤコグサ 横須賀市・天神島臨海自然教育園 2024/06/20
#ミヤコグサ 茅ヶ崎市浜之郷 2020/06/17
ミヤコグサの花の大きさ(幅9mm) 横須賀市・天神島臨海自然教育園 2024/06/20
ミヤコグサは萼片が萼筒(がくとう)よりも長い傾向が見られる。セイヨウミヤコグサなど外来の近似種は萼片が萼筒よりも短め。
ミヤコグサの萼 葉山公園 2017/05/17
ミヤコグサの萼 横須賀市・天神島臨海自然教育園 2024/06/20
ミヤコグサの萼 横須賀市・天神島臨海自然教育園 2024/06/20
ミヤコグサの萼 横須賀市・天神島臨海自然教育園 2024/06/20
萼に毛が生えているかどうか、毛量が多いか少ないかは、ただの個体差であるので、同定の手掛かりには全くならない。萼などに多少の毛が生えているミヤコグサをセイヨウミヤコグサと誤同定してはいけない。
ミヤコグサの毛が多い萼 葉山公園 2017/05/17
花の直下に付く苞(ほう)は、葉とほぼ同形で幅広。近似の外来種であればもっと細い。
ミヤコグサの苞 横須賀市・天神島臨海自然教育園 2024/06/20
ミヤコグサの結実期によく目立つ苞 横須賀市・天神島臨海自然教育園 2024/06/20
咲き進むと花が赤っぽく変色するものがあり、ニシキミヤコグサ(錦都草)と呼ばれる。
ミヤコグサの実
カラスノエンドウ(烏野豌豆)を小振りにしたような実ができる。マメ科の実は豆果(とうか)という。長さはふつう3~3.5cm。それより短いものはいくらでもある。『神奈川県植物誌2018』でミヤコグサ属の検索表に’豆果は3.5cm以上’とあるのは誤り。
#ミヤコグサの未熟な実 茅ヶ崎市浜之郷 2020/06/17
ミヤコグサの未熟な実 横須賀市・天神島臨海自然教育園 2024/06/20
ミヤコグサの未熟な実 横須賀市・天神島臨海自然教育園 2024/06/20
ミヤコグサの未熟な実 横須賀市・天神島臨海自然教育園 2024/06/20
#ミヤコグサの未熟な実(人為的に鞘を半分除去したもの)と種子 茅ヶ崎市浜之郷 2020/06/17
ミヤコグサの熟した実 横須賀市・天神島臨海自然教育園 2024/06/20
実は熟して乾燥すると莢(さや)が二つに裂開して、中に収めていた種子(豆)を放出する。のち莢は捩(ねじ)れる。
ミヤコグサの熟した実 横須賀市・天神島臨海自然教育園 2024/06/20
ミヤコグサの熟した実 横須賀市・天神島臨海自然教育園 2024/06/20
ミヤコグサの熟した実 横須賀市・天神島臨海自然教育園 2024/06/20
ミヤコグサの熟して裂開し終えた実 横須賀市・天神島臨海自然教育園 2024/06/20
天神島臨海自然教育園、剱崎、毘沙門海岸、城ヶ島、諸磯、葉山公園、平塚市虹ケ浜
参考資料
『神奈川県植物誌2018』(電子版を含む) 神奈川県植物誌調査会編 神奈川県植物誌調査会発行(2018)