蚕 昆虫/チョウ目/カイコガ科/カイコガ属 幼虫期/5月~9月 成虫期/6月~10月
改良種
#カイコの幼虫 2017/07/26
人間によって飼育される家畜のガ(蛾)。正式名称はカイコガ(蚕蛾)。その幼虫をカイコというが、一般には成虫も含めて種名としてカイコと呼ばれる。元は中国のクワコ(桑蚕)で、これを数千年前から家畜化していき品種改良の結果現在のカイコになったとされる(が、実際のところはよくわからない)。多品種あり。蛹(さなぎ)になる際に糸を吐き出して繭(まゆ)を作る。この糸が絹(きぬ)、英語でシルク(Silk)。”おカイコさま”という尊称で呼ばれていたのは高級絹糸を生産してくれ、”カネになった”から。かつては神奈川県でも養蚕(ようさん)が盛んだったが、安価な外国産シルクに押されて現在はほぼ全滅。厚木市に一軒だけ養蚕農家が残っているようだが、ご高齢のため今なお続けられていらっしゃるかどうか。横浜港の最大の輸出品目であった名残りで、山下公園近くにシルクセンター国際貿易観光会館・シルク博物館がある。カイコは現在でも小学校(主に小学三年生)の学習教材として利用されているようである。
#カイコガ 2017/08/17
平成26年(2014)「富岡製糸場と絹産業遺産群」としてユネスコの世界遺産(世界文化遺産)に登録されにわかに注目を浴びるようになった富岡製糸場(群馬県富岡市)は、良質な生糸(きいと、繭から採れる繭糸を数本合わせて一本の糸状にしたもの)を生産し日本の近代化を支えた工場跡である。富岡製糸場は横須賀製鉄所のフランス人技師エドモンド・バスチャン(バスティアン)が設計したため、平成27年(2015)横須賀市は群馬県富岡市と友好都市の提携を結んだ。
東京都千代田区の皇居内に紅葉山御養蚕所(もみじやまごようさんじょ)なる施設があり、皇后陛下が養蚕を行っている。
カイコの卵
一匹の雌が産む卵は約五百個。黄色いままの卵は無精卵。産卵後二三日でアズキ(小豆)色に変色したものは正常な有精卵である。
#カイコの卵(円形の囲いに入れて産ませたもの) 大和市・泉の森郷土民家園 2017/07/17
生糸生産用に飼育されるのは、異なる遺伝子を交配させた一代雑種(雑種第一代、F1)のカイコ。二代雑種(雑種第二代、F2)以降は雑種強勢が失われて低質なものとなる。
カイコの幼虫
飼育は一般的な昆虫や小動物と同様、気温二十五度程度(が概ね維持できる場所、三十度は超えないことが望ましい)で行うと良い。直射日光は避ける。カ(蚊)取り線香の類やタバコ(煙草)は禁止。飼育容器はダイソーで税抜き百円で売っている”米びつ”など、蓋付きで半密閉できるプラスチック容器が良い。容器内の底に新聞紙等を敷いておけば、餌の残りと糞を新聞紙ごと廃棄できて楽ちん。紙製の空き菓子箱は大きさはちょうど良いのだが、紙が湿気を吸ってしまうため餌が乾燥しやすい欠点あり。餌は(農薬が降りかかっていない)クワ(桑)の葉のみ。水は飲まないので、葉に付いた水滴は拭き取ってから与えること(クワの葉をやることを給桑(きゅうそう)という)。若い幼虫には若く柔らかい葉を軽く千切って与えるとよい。大きく成長したカイコには硬めの大きな葉を与える。おもしろいことに、カイコは頭上にある餌はよく食べるが、足元よりも下にある餌は一切食べない。食べないというより、探す能力がない。例えばクワの葉を五枚重ねた上にカイコを乗せた場合、食べるのは一番上の一枚だけで、その下の四枚には目もくれない。というより、そこに餌があることに気づかない。養蚕農家がカイコの上に新しいクワの葉をばさばさ乗っけていく光景を目にしたことがあると思うが、あれは手抜きで雑に作業しているわけではなく、頭上にある餌を食べようとするカイコの習性に適(かな)ったものなのであった。これは、一度にたくさんの餌をやっても無駄になるだけ、ということも意味する。十枚のクワの葉を一度に与えても、カイコが一番上まで上がって来てしまったらもう下の九枚はただのゴミになってしまうのだ。また、カイコはしおれた、あるいはぱさぱさに乾いた葉も食べない。つまり、新鮮なクワの葉(採取した葉を水洗いし、軽く濡れたままビニール袋に入れ、冷蔵庫にしまっておけば一週間程度は保存可能)をこまめに与え続ける必要があるということ。よく食べる時期であれば二三時間置きに餌やりしなければならない。養蚕はたいへんだ、一家総出の作業だ、といわれたのはそういう事情があったからなのだった。一般家庭での飼育頭数は十匹程度が良い。少なすぎると飼育が難しいと聞く。多いと餌の確保に難儀する。
クワの葉を食べる#カイコの幼虫 2017/07/21
#カイコの幼虫 2017/07/21
後頭部にある眼状紋が気色悪いが、カイコはまったくの無害。無毒、咬(か)まない、引っ掻かない。
#カイコの幼虫の顔 2017/07/24
カイコは鳴かない。歩く際にクワの葉が僅かにかさかさ音を立てることがある、葉を食べているときは耳を澄ませばもしゃもしゃ聞こえる、以外は無音。
#カイコの幼虫の顔 2017/07/26
体の側面にある黒丸印は気門(きもん)。ここで空気の出し入れをして呼吸している。
#カイコ(斑紋のない白色種)の幼虫 2017/08/02
#カイコ(斑紋のない白色種)の幼虫の脚 2017/08/02
幼虫の期間は一ヶ月弱(約二十五日間)。脱皮は四回行う。つまり、卵から孵化(ふか)して一齢幼虫になり、一回目の脱皮をして二齢幼虫になり、二回目の脱皮をして三齢幼虫になり、三回目の脱皮をして四齢幼虫になり、四回目にして最後の脱皮をして五齢幼虫となる。脱皮前にはその準備期間として、頭を少し持ち上げてぴーんと突っ張った体勢を維持する”眠(みん)”と呼ばれる状態になる。眠の間は餌は食べない。
上体をぴーんと起こして脱皮前の”眠”をしている#カイコの幼虫 2019/07/17
脱皮した#カイコが脱ぎ捨てた服 2019/07/18
五齢幼虫になると”クワの葉は飲み物です”とでも言わんばかりのハイペースで食って食って食いまくる。これくらいあれば足りるだろうと冷蔵庫に確保しておいたクワの葉はみるみる底を突いてしまうに違いないから要注意。爆食いする期間は一週間もないけれども。
クワの葉を手で掴んで固定し食べる#カイコ 2019/07/23
#カイコの五齢幼虫 2019/07/25
糞は肉眼ではほぼ黒色の5mmほどの粒。クワの葉を食べた分だけ次々と大量に糞をする。特に悪臭はなく、毎日(食べ残しのクワの葉と一緒に)廃棄しさえすれば面倒なことはない。数日放置してしまうとクワの葉が発した湿気からカビが生えてくるので要注意。幼虫はクワの葉を食べているうちはおしっこは一度もしない(尿は、繭に入る直前の幼虫が一回、繭から出てきた直後の成虫が一回、の計二回だけ排出される)。
#カイコの糞 2019/07/31
カイコの繭・蛹
五齢幼虫が少し黄色みを帯びてくると熟蚕(じゅくさん)と呼ばれる。熟蚕になると途端にクワの葉を食べなくなり、しばらく動きが鈍くなったかと思ったら今度は繭を作れそうな場所を探して徘徊し始め、じきに細い糸を吐き出し繭作りを開始する。自分が吐いた糸を足場にして垂直の壁をも登れるようになるため脱走(遠くまで逃げることはないが、意図しない場所に移動して繭作りを開始することがある)に注意。熟蚕になると体が少し縮んで小さくなる。
白色ではなくなった#カイコの熟蚕 2019/07/25
熟蚕になった気配を感じたら「まぶし」と呼ばれる格子状の部屋に入れてやるとよい。
手作りの段ボール製まぶしに作られた#カイコの繭 2017/08/09
一般家庭で少数を飼育している場合は、トイレットペーパーの芯をまぶし代わりに使ってしまうが吉。カイコは繭に入る前に人生最初のおしっこをするので汚れないように新聞紙などを敷き、その上にトイレットペーパーの芯を立て、中に熟蚕を一頭入れてやる(段ボール板か何かで蓋をしてしまうと良い)。それだけでしっかり繭を作ってくれるのでとっても楽ちん。
トイレットペーパーの芯をまぶし代わりにした#カイコの繭 2017/08/09
#カイコが繭に入る前に催した尿で汚れた毛羽 2017/08/09
繭の周囲にある糸は営繭(えいけん)するとき最初に吐き出した糸。自分の足場に使うと同時に繭を固定する。この糸を毛羽(けば)という。
ダンボール箱の隅で繭づくりを始めた#カイコ 2019/07/27
ダンボール箱の隅で繭づくりを始めた#カイコ 2019/07/28
トイレットペーパーの芯から脱出し段ボール箱の隅に作られた#カイコの(まだ薄い)繭 2019/07/28
繭の外観は二三日もすれば完成するが、中の幼虫がしっかり蛹(さなぎ)になるまで(営繭から)一週間から十日間放置し収穫(収繭(しゅうけん)という))。それから繭糸を採るなり、繭を(蛹にカビが生えてこないように炎天下でからっからになるまで干して)保存するなり、蛹の観察をするなり、成虫にするためそのまま更に放置するなりする。中の蛹が死んだ場合はしっかり繭を天日干ししてからっからに乾燥させないといずれ蛹が腐敗するなどして悪臭を放つようになってしまうので要注意。
毛羽を取り除いた#カイコの繭 2017/08/09
糸を採る場合は、(内部に蛹が収まったままの)繭を沸騰したお湯でニ三分煮てから冷水で冷やし、歯ブラシで繭をごしごし擦ってやると糸口(糸の先端)が見えてくるので引っ張り出し、繭三個くらいの糸をまとめて一本に糸繰り(いとくり)する。
#カイコの繭の中身 2017/08/09
カイコの蛹だなんて、”気色悪い”と感じる人が圧倒的大多数だと思うけれども、意外とこれが、食用になる。イナゴ(蝗)やハチノコ(蜂の子)を食べるがごとく、養蚕が盛んだった信州(長野県)ではカイコの蛹も佃煮にして食べている。また近年は宇宙食としても研究がされているという。クワの葉だけで成長し、またその成長スピードが異様に早いことから、宇宙空間での貴重な蛋白源としてカイコの蛹が注目されているというのだ。名付けてシルクナゲット(チキンナゲット状に加工するわけではなく、まんまの蛹をそう呼んで気色悪さを紛らわしているだけ)。ちなみにコイ(鯉)釣りなどで使われる”さなぎ粉”という餌もカイコの蛹である。
#カイコの蛹(斜め上から、頭部は向かって左側) 2017/08/09
#カイコの蛹(真下から、頭部は向かって左側) 2017/08/09
真綿
訳あり品の繭、例えば、複数頭のカイコが集まって一つの繭を作ってしまったものなどは、糸が絡まってしまっているため生糸(きいと)生産用の繭として出荷できない。そうした繭を引き延ばして(蛹を取り除いて)作る綿状のものを真綿(まわた)という。
真綿は”化学繊維ではなく木綿(もめん)100%ですよ”という意味では決してない。真綿は絹。この薄く伸ばした真綿を幾重にも重ねると保温性が高まるため、布団の充填物(じゅうてんぶつ)などに好まれる。
紬(つむぎ)
真綿から半ば強引に引っ張りだした紬糸(つむぎいと)で作った生地、ないしそれから作った着物のこと。紬糸は太さがまちまちだったり節があったりと、(目玉が飛び出るほど高額な生糸に比べれば)低品質。(大金持ちが)普段使いする着物に使用された。発展して、紬もかなりの高級品に。
良質な糸が採れるものにもう一種、ヤママユ(山繭)という巨大ガがいる。別名ヤママユガ(山繭蛾)ないしテンサン(天蚕)とも。
カイコの成虫
蛹になってから十日から二週間で羽化(うか)する。羽化は朝。繭を溶かして穴を開け、成虫のカイコガが登場。繭は幼虫のとき以上に風通しが良く涼しい場所に置いておかないと羽化に至らない可能性を感じている。(令和元年(2019)飼育の十一個体、直射日光の当たらないやや蒸れ常温放置ですべて羽化せず全滅した。)
繭を脱出した#カイコガ 2017/08/17
繭から出たら人生二度目にして最後のおしっこをするので、服などを汚してしまわないよう。
#カイコガのおしっこ 2017/08/17
#カイコガ 2017/08/17
#カイコガ 2017/08/17
#カイコガ 2017/08/17
雌はよちよちと何かにしがみついたまま、尻先のフェロモン腺を膨らませてにおいを発して雄を待つ。雄はじたばた羽ばたきながら雌を探して歩き回り、交尾に至る。雄は羽ばたく際に鱗粉(りんぷん)をたくさんまき散らすので要注意。カイコガは飛ばない(飛べない)。
#カイコガ 2017/08/17
クワコ
桑蚕、野蚕 昆虫/チョウ目/カイコガ科/カイコガ属 幼虫期/5月下旬~8月 成虫期/7月~9月
在来種
クワの葉にいたクワコの幼虫 大和市・泉の森郷土民家園 2017/07/17
カイコ(蚕)の原種とされる中国産クワコ、の仲間の日本在来種。中国のと日本のでは遺伝子が異なるらしい。カイコとは違って、幼虫は逃げる、糸は低品質、成虫のガ(蛾)は飛ぶ。幼虫はヤマグワ(山桑)の葉や枝をよく探せば稀に見つけることができる。体が茶色っぽいため、葉にあれば鳥の糞(ふん)に、枝で気張っているものは小枝にしか見えないので、そう簡単に見つけられるものではないかもしれない。
クワコの幼虫
クワの葉にいたクワコの幼虫 大和市・泉の森郷土民家園 2017/07/17
クワの葉にいたクワコの幼虫 大和市・泉の森郷土民家園 2017/07/17
クワの葉にいたクワコの幼虫 鎌倉中央公園 2017/07/22
眼状紋を強調するクワコの幼虫 鎌倉中央公園 2017/07/22
東国原英夫氏の顔まねをするクワコの幼虫 鎌倉中央公園 2017/07/22
クワコの蛹
クワコの蛹 鎌倉中央公園産 2017/07/30
クワコの蛹 鎌倉中央公園産 2017/07/30
クワコの成虫
なぜかカメラ目線をしてくるクワコ 鎌倉中央公園産 2017/08/12
クワコ 鎌倉中央公園産 2017/08/12
クワコ 鎌倉中央公園産 2017/08/12
クワコ 鎌倉中央公園産 2017/08/12