駒繋 マメ目/マメ科/コマツナギ属 花期/6月下旬~9月 結実期/12月~2月
学名/Indigofera pseudotinctoria Matsum.
自生種稀少保護
コマツナギ 三浦市・城ヶ島 2023/07/07
日当たりの良い野山や林縁、道端や河川の土手など、市街地でなければおよそどこにでも生え得るはずの小低木。茎は這い、かなり細くて一直線にぴーんと伸びる。分枝(ぶんし)はよくする。小型で細いのでこれが樹木であるとはちょっと理解しがたいかもしれない。名は、茎が細いくせにウマ(馬)をも繋ぎとめることができるのではないかと思われるほど意外と丈夫なもの、の意と思われる。むやみに引っ張れば茎は根元のところでぶちっと切れるので、実際には怪力のウマを繋ぎとめられるものではまったくないが、大きく育った株の茎を複数本束ねればもしかしたら丈夫な綱(ロープ)代わりになったのかもしれない。神奈川県内では、海辺から内陸地、山地にまで、全域に広く分布あり。という点ではどうということのないありきたりな普通種。のはずなのだが、はて、てんで見かけない。湘南・鎌倉・三浦半島では、人があまり入り込まない磯の基部(磯と海岸草地の境)にはたいへん多く自生があり、ミヤコグサ(都草)と仲良く近所付き合いしながら生活している。が、それ以外では滅多に見かけない希少種の印象。
磯の基部に生えたコマツナギ 三浦市諸磯 2023/06/21
海岸草地から生え出たコマツナギ 三浦市諸磯 2023/06/21
磯の基部に生えたコマツナギ 三浦市諸磯 2023/06/21
海岸草地の際に生えたコマツナギ 三浦市諸磯 2023/06/21
海岸草地の際に生えたコマツナギ 三浦市諸磯 2023/06/21
海岸草地の中に生えたコマツナギ 三浦市諸磯 2023/06/21
磯と海岸草地の境に生えたコマツナギ 三浦市諸磯 2023/06/21
磯と海岸草地の境に生えたコマツナギ 三浦市・城ヶ島 2023/07/07
磯と海岸草地の境に生えたコマツナギ 三浦市・城ヶ島 2023/07/07
コマツナギ 三浦市・城ヶ島 2023/07/07
コマツナギの株元 三浦市・城ヶ島 2023/07/07
コマツナギ 箱根町・仙石原すすき草原 2023/08/04
#コマツナギ 箱根湿生花園 2023/07/19
#コマツナギ 箱根湿生花園 2023/07/19
実が熟したコマツナギ 三浦市・黒崎の鼻 2023/12/17
コマツナギは、近似の外来種トウコマツナギ(唐駒繋)、別名キダチコマツナギ(木立駒繋)との見分けが問題になる。トウコマツナギは、道路の法面(のりめん)緑化を目的として人為的にタネがばら播かれて分布が広がった侵略的外来種で、自然豊かな地域を通り抜ける道路沿いおよびその周辺の野山にこそ多く帰化している。平凡社『改訂新版 日本の野生植物 2』はコマツナギとトウコマツナギは酷似しており同一種として扱っている。対して『神奈川県植物誌2018』は明らかに異なるので両者を別のものとして掲載。全国農村教育協会『増補改訂 日本帰化植物写真図鑑 第2巻』は違いは一目瞭然と述べ別種として扱いながらも再検討を要すると結論をぼかした。両者を比較観察したところ以下の表の通り差異が認められたため、両者は別種であると考えるのが正しかろう。
コマツナギとトウコマツナギの見分け方 | ||
コマツナギ | トウコマツナギ | |
茎 | 極細
はじめ直立し、 |
大株では成人男性の親指より太くなる
直立して生えそのまま倒れたり這ったりすることなく成長する |
夏葉 | 春秋と同様の大きさ 葉身の長さ1.4cm程度 |
大きくなる 葉身の長さ2.0cmを超える |
豆果 | 長さ2~2.5cm | 長さ3.5cm程度 |
種子 | 2mm | 3mm |
『神奈川県植物誌2018』は、コマツナギは”茎はふつう斜めに立ち長さ1m前後になる”と記載。本当だろうか。草木に埋もれて生えれば確かに茎は上に上に向かって伸びる。競合する周囲の草木に寄りかかりつつ、日光を求めて上に上に伸びる。箱根湿生花園のススキ草原区にある個体は草地に生えるので斜上する。三浦市・黒崎の鼻でササの群落内に生えるものは高さ2mまで立ち上がって来る。しかしながら、山地の草むらに生えて70cmほど完全直立した個体と地面から1.5m以上の地点まで登った海岸産の種子を採取して単独で栽培し観察してみたところ、生え出たばかりの茎は確かに立ち上がる姿勢を見せたものの、成長に伴い茎はことごとく倒れ、完全に地面を這った。結論として、コマツナギの茎は、周囲に寄りかかるものあらば直立ないし斜上もしようが、なければ地面を這う、が正しいのではないか。つまり磯周辺で見かけるコマツナギの姿は特殊な海岸型というわけではなく、あれが本来の姿。周りに何もなければ岩場にべったり張り付いて這い、林縁で他の草木に埋もれてしまえば上に上に伸びて顔を出してくる。要するに蔓植物。対してトウコマツナギは、裸地(らち)を好むのか他の草木に埋もれて生えているものを見た例(ためし)なく、茎は積極的に立つ。
草地に生え、茎が立った#コマツナギ 箱根湿生花園 2023/07/12
葉は小型で、頂小葉が一枚ある奇数羽状複葉。かわいらしいと感じる葉である。葉軸の先端に巻きひげあらばヒロハクサフジ(広葉草藤)などの他種である。
コマツナギの葉 三浦市諸磯 2023/06/21
コマツナギの葉 三浦市諸磯 2023/06/21
#コマツナギの葉 箱根湿生花園 2023/07/12
#コマツナギの葉 箱根湿生花園 2023/07/12
#コマツナギの葉 箱根湿生花園 2023/07/12
#コマツナギの葉 箱根湿生花園 2023/07/12
小葉は長さ1.4cm×幅0.8cm程度。少し大きめの葉が出ることがないでもないが、およそ均一で小さい。トウコマツナギの夏葉のように長さが2cmを超えるような大きな葉は生じない。
#トウコマツナギと#コマツナギの夏の葉の比較 茅ヶ崎市浜之郷 2024/08/28
コマツナギの虫こぶ
虫こぶまたは虫癭(ちゅうえい)とは、植物に小さな虫の幼虫などが寄生することによってできる不思議なこぶ状の膨らみのこと。
コマツナギハイボフシ
葉にフシダニの一種(名前はまだない)が寄生して、イボ状の突起ができることがある。コマツナギイボケフシとも。花が咲いていないとコマツナギはたちまち存在感がなくなって見つけにくくなってしまうが、この虫こぶあらばコマツナギであると気づくことができる。
コマツナギハイボフシ 三浦市諸磯 2023/06/21
コマツナギハイボフシ 三浦市諸磯 2023/06/21
外国産の近似種タイワンコマツナギ(台湾駒繋)などは染料のインディゴ(Indigo)の原料として世界的に栽培されていた(現在は化学合成品が主流)。見かける機会はまずないか。
コマツナギの花
葉腋(ようえき)から直立する総状花序を出す。軸先端を伸ばしてそこに蕾を作っては長期にわたって咲き進んでいくので、古い花序には異様に長い柄(え)があるように見えるだろう(花が咲き終わった痕)。花色はピンク色(赤紫色)。かわいらしいと感じる花である。
コマツナギの咲き始め 三浦市諸磯 2023/06/21
コマツナギ 三浦市諸磯 2023/06/21
コマツナギ 三浦市諸磯 2023/06/21
コマツナギ 三浦市諸磯 2023/06/21
コマツナギ 箱根町・仙石原すすき草原 2023/08/04
コマツナギ 箱根町・仙石原すすき草原 2023/08/04
コマツナギ 箱根湿生花園 2023/07/12
園芸栽培されるニワフジ(庭藤)はコマツナギと同属の近似種ではあるが、似てはいないので混同することはない。
トウコマツナギの実
インゲン(隠元)を小型にしたような、長さはふつう2~2.5cmの豆果(とうか)ができる。トウコマツナギの実はふつう長さ3.5cm程度になる。共に実は秋にならないとできない。
コマツナギの実 三浦市・黒崎の鼻 2023/10/27
コマツナギの実 三浦市・黒崎の鼻 2023/10/27
コマツナギの実 三浦市・黒崎の鼻 2023/10/27
コマツナギの実 三浦市・黒崎の鼻 2023/10/27
実が熟すのは冬に入ってから。ただ、完全にからっからに乾燥しても、なっかなか裂開しない。裂開するとぱちんと弾けて、脱落する。従って、莢(さや)が開いた状態の実の残骸を樹上で見かけない。
コマツナギの熟した実 三浦市・黒崎の鼻 2023/12/17
コマツナギの熟した実 三浦市・黒崎の鼻 2023/12/17
コマツナギの熟した実 三浦市・黒崎の鼻 2023/12/17
コマツナギとトウコマツナギの実と種子の比較 2023/12/18
三浦市産#コマツナギの実生、立ち上がり気味の生えたて 茅ヶ崎市浜之郷 2024/06/29
三浦市産#コマツナギの実生、少しは立つのかと思わせておいて完全に這った 茅ヶ崎市浜之郷 2024/08/08
#トウコマツナギと#コマツナギの比較 茅ヶ崎市浜之郷 2024/08/28
〇トウコマツナギ=実生 ⇒直立した
〇コマツナギ B鉢=山地産、草地に生えて茎が完全に直立していた株を採取し植え付け時に地上部のほとんどを取り去ったものの再生 ⇒這った
〇コマツナギ A鉢=海岸産、藪に埋もれて生えて高さ1.5m以上に達していた株の実生 ⇒這った
諸磯、城ヶ島、黒崎の鼻
毘沙門海岸、藤沢市・江の島・延命寺
#箱根湿生花園(②ススキ草原区に少ない)、箱根町・仙石原すすき草原
参考資料
『神奈川県植物誌2018』(電子版を含む) 神奈川県植物誌調査会編 神奈川県植物誌調査会発行(2018)
『改訂新版 日本の野生植物 2』 大橋広好・門田裕一・邑田仁・米倉浩司・木原浩編 平凡社発行(2016)
『増補改訂 日本帰化植物写真図鑑 第2巻』 植村修二・勝山輝男・清水矩宏・水田光雄・森田弘彦・廣田伸七・池原直樹編著 全国農村教育協会発行(2015)
『日本原色虫えい図鑑』 湯川淳一・桝田長編著 全国農村教育協会発行(1996)
お久しぶりです
コマツナギの見分け方が大幅に更新されてますね、凄い半端ないと
感動してます。
何通りも植物を採取して実証するって、、他の事も同時進行で研究されて。
相模川河川敷で採取した実生のコマツナギの見分けに
今回の実証、コマツナギB鉢の方法をやってみようと思います(楽しみ)
話は変わってセイヨウミヤコグサ 相模原駅の北側に関して
相模の記録蝶№36の文献にヒントがありそうで取り寄せました。
何度か見に行ってますが見つかりません、、。
セイヨウミヤコグサを見付けられたら情報としてお知らせしようかと
思うのですが ウンザリしてそう(笑)