タイワンリス

台湾栗鼠 哺乳類/ネズミ目/リス科/ハイガシラリス属 見頃/通年

外来種違法駆除

外来生物法「特定外来生物」
生態系被害防止外来種リスト「緊急対策外来種」

餌を貰ったタイワンリス 鎌倉市・鶴岡八幡宮 2016/12/28

餌を貰ったタイワンリス 鎌倉市・鶴岡八幡宮 2016/12/28

タイワンリスは、アジアに広く生息するクリハラリス(栗腹栗鼠)の台湾固有亜種の通称。従って、学術的な資料ではクリハラリスとして紹介されることがある。鎌倉で見ることができるリスとして知られるが、神奈川県内では東部の広範囲(横浜市の南西部、横須賀市、三浦市、葉山町、逗子市、鎌倉市、藤沢市、茅ヶ崎市)で生息が確認されている。また近場では、東京都・伊豆大島、静岡県・伊豆半島の伊東から下田のあたりにかけて、同・浜松市でもタイワンリスが野生化している模様。

箱罠にかかったタイワンリス、腹部の特に腋の下が栗色を帯びている 横須賀市山中町 2017/02/01

箱罠にかかったタイワンリス、腹部の特に腋の下が栗色を帯びている 横須賀市山中町 2017/02/01

タイワンリスは台湾原産の外来種。日本へは、現代でいうところのカピバラやミーアキャットのような存在として、観賞用に持ち込まれた。鎌倉をはじめ三浦半島などに広く野生化しているものは、江ノ島植物園(現江の島サムエル・コッキング苑)で展示飼育されていたのが逃げ出したものといわれている。あるいは、鎌倉は古くは別荘地であり、富裕層(身分の高い軍人などであれば日本と日本統治下の台湾を行き来することもあった)が個人でペットとして飼育していたものが逃げ出したとする説もある。真相は不明。その後鎌倉では、観光客に餌付けをさせて集客にも利用されてきた。

餌を貰いに現れたタイワンリス 鎌倉市・鶴岡八幡宮 2019/02/01

餌を貰いに現れたタイワンリス 鎌倉市・鶴岡八幡宮 2019/02/01

餌を貰いに現れたタイワンリス 鎌倉市・鶴岡八幡宮 2019/02/01

餌を貰いに現れたタイワンリス 鎌倉市・鶴岡八幡宮 2019/02/01

鶴岡八幡宮(つるがおかはちまんぐう)や鎌倉大仏に棲み付いている人慣れした個体(誰かによって餌付けされた、あるいはされている個体)は、餌をくれるものと勘違いして人や向けたカメラに突然飛び掛ってくることがあるので注意したい。人を威嚇したり鋭い歯で咬(か)みついてきたり爪(つめ)で引っ掻いてくるといったような攻撃性は見られないが、爪は鋭く、野生動物は思いのほか筋力が強いものなので、衣服や皮膚を傷つけてしまう可能性は排除できない。タイワンリスの近くで、バッグやリュックサックを開けない(餌が入っているのではないかと期待して軽く物色される)、レジ袋等のビニール袋を手に持たない(早く餌をよこせとせがまれる)、握りこぶしを差し出さない(中に餌があるものと確信して手をこじ開けようとする)。

タイワンリスのふさふさで大きな尾 鎌倉市・鶴岡八幡宮 2019/12/05

タイワンリスのふさふさで大きな尾 鎌倉市・鶴岡八幡宮 2019/12/05

タイワンリスは昼行性で、樹上生活をしている。運動能力が高く、枝の上を高速で駆け回ることも可能。木から木へ、1.5mくらいであれば難なくぴょんと一蹴りで飛び移れる。樹上の餌に乏しい冬は、人目に付かない森の中などで地上へもよく下りる。基本的に草食で、ドングリ(団栗)などの木の実や種子、ミカン(蜜柑)などの果実、ロウバイ(蝋梅)サクラ(桜)などの花(の蜜)などを手当たり次第にかじる。虫も食べているという話。貪欲さという点では、あの悪名高いカラス(烏)を超えるかもしれない。

ミカンの外皮を剥いで中身だけ食べるタイワンリス 横浜市戸塚区・俣野園 2018/02/20

ミカンの外皮を剥いで中身だけ食べるタイワンリス 横浜市戸塚区・俣野園 2018/02/20

地上に降りて種子を拾い食いするタイワンリス 横浜市栄区・瀬上市民の森 2017/02/06

地上に降りて種子を拾い食いするタイワンリス 横浜市栄区・瀬上市民の森 2017/02/06

ニホンリス(日本栗鼠、神奈川県レッドリスト2006「準絶滅危惧」、目の周りが白くて尾っぽを立てている)が松ぼっくり(の種子)を食べるとその残骸がエビフライ形になることが知られるが、どうやらタイワンリスも同様にして(他にめぼしい食べ物がなくなると)松ぼっくりを食べるらしい。

タイワンリスによる松ぼっくりのエビフライ形食べ残し 藤沢市・江の島 2019/03/15

タイワンリスによる松ぼっくりのエビフライ形食べ残し 藤沢市・江の島 2019/03/15

タイワンリスによる樹皮剥ぎ

タイワンリスは木をかじる。かじり方は、季節によるのか樹種によるのか定かでないが、筋状(すじじょう)にかじってゆくもの、全面的にかじってゆくもの、何パターンかある模様。基本的には樹皮ばかりをかじるため”樹皮剥ぎ”と呼ばれる。


樹皮剥ぎをする目的

これがよくわからない。樹液を舐めているといわれることがあるが、剥いだ樹皮を執拗にぺろぺろぺろぺろ味わっている様子は伺えない。樹皮が剥がされた幹の側を舐めずっている様子もない。鎌倉では樹皮を食べているといわれることが多い。

タイワンリスが食べていたと思われる樹皮片 鎌倉市・大船フラワーセンター 2019/08/01

タイワンリスが食べていたと思われる樹皮片 2019/08/01

ただし、樹皮そのものはぽい捨てされることが多い。樹皮の内側の層を食べている可能性は高い。実際に、短時間ではあるが剥がした樹皮のどこかしらをもぐもぐしている様子を見かけたことはある。ぽい捨てされた樹皮を見ても、内側の層を歯で削ぎ落して食べた可能性を伺わせる痕跡が見られるものがある。

タイワンリスによる樹皮の食べかす 2019/02/20

タイワンリスによる樹皮の食べかす 2019/02/20

とはいえ、樹皮(やその周囲のもの)を食料にしているのであれば、樹皮剥ぎの被害例が少なすぎる。樹皮はあちらこちらでもっと剥がされてもよさそうなものだ。巣材として利用しているともいうが、樹皮は剥いだその場で捨てられており持ち運んでいる姿を見かけた記憶がない。季節による行為かもしれない。わざわざ硬い木を選んで樹皮剥ぎをしているので伸びすぎないように歯を研いでいるのではないかという説は頷ける。飼いネコ(猫)が屋内の柱を爪でがりがり引っ掻いて研ぐのと同じ話。狙いを付けられた木は徹底して樹皮剥ぎの対象として狙われるので、その木である必要があることに間違いないが、歯を磨く”かため”の歯ブラシとしてちょうどよいのを見つけたということか。しかしそれならばなぜ樹皮だけにとどまりもっと幹の内部までかじらないのか。なぜ樹皮をかじり続けず捨ててしまうのか説明できない。古い樹皮剥ぎ痕が残っていながら新しくかじられた形跡のない木を多く見かける。つまりは特定の個体に狙いを付けられたものの放棄された、あるいはそれをかじっていた個体が死ぬなどしたものであるが、何らかの都合がよい木でありながらその後は誰も手を付けなくなったのか、わからない。まさか遊びとか趣味とかそういう話ではあるまい。丹沢で暮らすアオバト(青鳩)という鳥がわざわざ大磯町まで飛来して海水を飲むという奇怪な行動は塩分を摂るためだといわれているが、タイワンリスもまた腹を満たすというよりは何らかの栄養分を補給するために樹皮をかじり、あるいは内側の層を食べているのかもしれない。なおタイワンリスが樹皮剥ぎをする理由は必ずしも一つに限らなければいけないわけではない点は付しておく。


タイワンリスによるツバキの古い樹皮剥ぎ痕 横須賀市・衣笠山公園 2017/05/22

タイワンリスによるツバキの古い樹皮剥ぎ痕 横須賀市・衣笠山公園 2017/05/22

タイワンリスによる樹皮剥ぎ(樹種不明) 神霊教鎌倉錬成場霊源閣 2017/01/25

タイワンリスによる樹皮剥ぎ(樹種不明) 神霊教鎌倉錬成場霊源閣 2017/01/25

タイワンリスによる樹皮剥ぎ、樹液舐めたか 横浜自然観察の森 2017/02/06

タイワンリスによる樹皮剥ぎ、樹液舐めたか 横浜自然観察の森 2017/02/06

タイワンリスによる樹皮剥ぎ、樹液舐めたか 横浜自然観察の森 2017/02/06 横浜自然観察の森

タイワンリスによる樹皮剥ぎ、樹液舐めたか 横浜自然観察の森 2017/02/06

タイワンリスにかじられたシイタケのほだ木 神霊教鎌倉錬成場霊源閣 2017/01/25

タイワンリスにかじられたシイタケのほだ木 神霊教鎌倉錬成場霊源閣 2017/01/25


タイワンリスによって樹皮剥ぎされてしまった樹木は見栄えが極めて見苦しく悪く、また弱って枯れてしまうことがある。

鳴き声はやや大きく、ケタケタケタケタ、ギャッギャッギャッギャッ、ブヒブヒブヒブヒなど、下品な声が林の中から聞こえたらおよそタイワンリスだろう(上品と感じる声の主は鳥)。

タイワンリス 鶴岡八幡宮 2016/12/28

タイワンリス 鶴岡八幡宮 2016/12/28

鎌倉では、都会からおいでになられた観光客にかわいらしいと人気が高い。物珍しいのだろう。見慣れてしまうと、ドブネズミ(溝鼠)と大差ないかなとも。

タイワンリスに逢いたい


鶴岡八幡宮の、(1)源氏池畔の藤棚周辺、(2)柳原神池周辺、に人慣れした個体がよく現れる。(1)には餌付けおじさんも現れる。
鎌倉大仏の、(1)観月堂周辺、(2)売店周辺、に人慣れした個体がいる。
鎌倉周辺のハイキングコースを歩けば一匹や二匹はすぐに見つけられるだろう。藪がガサっと音を立てる、鳴き声がする、などがタイワンリス出現の合図。ただし人慣れはしていないので間近で観察することはできない。

鎌倉ではおそらくスズメ(雀)よりも個体数が多いので、見つけ出すのは容易である。緑地からあからさまに離れた若宮大路沿いなどでなければ、どこにでもいる。宅地の中で電線を伝うタイワンリスもいるくらい。


江の島の、中津宮広場(辺津宮から中津宮へ行く途中の展望台ある広場)で、造園担当職員がトビ(鳶)やカラス(烏)と一緒に(観光客に見せつけるわけではないのでおそらく個人的な理由で)餌付けをしている。※令和2年(2020)1月現在、公衆トイレ新設工事中につき現場は封鎖されている。

この時代にあってなお、鎌倉では地元の高齢者や小学生および観光客の高齢者および若者を中心に餌付けをしてしまう人が後を絶たない。タイワンリスは特定外来生物に指定されているのでカミツキガメやブラックバス(オオクチバス)に餌を与えるのと同類の行為であるのだが、罪の意識が欠落している人が少なくない。市からタイワンリスに餌をやらないよう看板やチラシ・ポスターなどで”呼びかけ”が細々とされてはいるものの周知には程遠く、ときめいた観光客の口からは「きゃー、かわいいー。何ていうリスなんだろうね。」という呟きがこぼれてくるばかり。なお鎌倉市環境保全課によれば、平成29年(2017)12月現在タイワンリスに餌付けすることを禁じる条例等はない。

ちなみに餌は、人間でいうところの親指の付け根というなんとも意外な場所を使って両手で挟んで持って食べる。

子供が与えた固形配合飼料を挟んで持つタイワンリス 鶴岡八幡宮 2016/12/28

子供が与えた固形配合飼料を挟んで持つタイワンリス 鶴岡八幡宮 2016/12/28

タイワンリスは駆除対象

庭の樹木をかじって傷めたり、戸袋を巣にしようとかじって穴を開けてしまったり、電線や電話線を切断したり、寺のお堂に侵入し供物(くもつ)を食べたり仏具をかじったりするなどの被害が多く、害獣として各市町で駆除が実施されている。


箱罠

自治体(市・町)の担当部署へ願い出れば捕獲用の箱罠(はこわな)を無料で貸し出してくれる。動物が捕獲器の奥まで入り込んでスイッチになっている仕掛けに触れると、突然バタンと出入口の蓋(ふた)が閉じられてもう外へは逃げられない、という仕組みのもの。

タイワンリス捕獲用の小型箱罠 横須賀市 2017/02/01

タイワンリス捕獲用の小型箱罠 横須賀市 2017/02/01

ハクビシンやアライグマも捕獲できる大型の箱罠 横須賀市 2017/02/01

ハクビシンやアライグマも捕獲できる大型の箱罠 横須賀市 2017/02/01

箱罠にかかったタイワンリス 横須賀市山中町 2017/02/01

箱罠にかかったタイワンリス 横須賀市山中町 2017/02/01

箱罠にかかったタイワンリス 横須賀市山中町 2017/02/01

箱罠にかかったタイワンリス 横須賀市山中町 2017/02/01

かかったタイワンリスは、自治体へ連絡して回収に来てもらい、殺処分に。一般市民からしたら手間(申請、罠の受け取り、設置、餌の管理、近隣住民への周知、回収依頼)がかかるばっかりで数匹を捕獲できたところで身の回りからタイワンリスがいなくなるわけもなく──、現に捕獲に取り組む人はまずいなかろう。

三浦市におけるタイワンリスの捕獲数は、平均すると毎月五匹程度のようである。桁を一つ間違えているのではないかと疑いたくもなるが、これが現実。

藤沢市は公式サイト内における新林公園(しんばやし-)の案内ページにて、「緑深い谷戸にひろがる自然の宝庫」と題して”山の尾根に沿う散策路には、時折リスが顔をのぞかせます。”と脳内にお花畑が広がっているのかと呆れざるをえないとんでもない紹介をし続けている。新林公園で野生化しているリスは特定外来生物たるタイワンリスただ一種である。令和元年(2019)茅ヶ崎市の小出川(こいでがわ)JR東海道本線以南の下流に南米アマゾン原産のカピバラ(藤沢市で飼育されていた個体が6月に逃げたもの、12月31日大磯町西小磯で捕獲)が出没して話題になったが、小出川を”カピバラも餌をもしゃもしゃ食べている自然豊かな小川”と絶賛するような、愚の骨頂以外の何ものでない。

平成26年(2014)9月、平塚市大原の総合公園内でタイワンリス一匹が目撃された。神奈川県内の相模川以西では初確認となる。タイワンリス御一行様が相模川を西側へ越えて県西地域へと分布範囲を広げてしまった場合、箱根や丹沢方面に生息している日本在来のニホンリスを駆逐してしまう可能性が指摘されており、相模川以西に定着してしまうのかどうか注視された。なおその後は新たな目撃情報はない。

平成30年(2018)1月31日、東京都・町田リス園が飼育しているタイワンリスの尿からレプトスピラの陽性反応があったと発表。経口または傷口から人間にもうつる感染症であるため、2月1日より当面閉園に。レプトスピラ症は発熱や頭痛、重篤化すると死に至る危険性もある。2月23日営業再開。

平成30年(2018)6月30日、熊本県宇土半島(うと-)に帰化したタイワンリスが、平成22年(2010)の6,000匹から平成29年(2017)推定65匹にまで減ったことが報じられた。平成22年(2010)に1匹800円の報奨金制度を設けると3,112匹が捕獲され、のち捕獲専門員6人で駆除を実施した成果という。令和2年(2020)末までの根絶を目指している。(毎日新聞インターネット版2018年06月30日配信)
神奈川県でもかねがね導入が期待されている報奨金制度が効果を実証した形。ただ、2匹が残っていただけですぐまた6,000匹に増えかねないのがタイワンリス。根絶とその維持ができるのかどうか期待して見守りたい。


東京都町田市・#町田リス園(有料、200匹放し飼い)

鶴岡八幡宮(柳原神池周辺、源氏池畔藤棚周辺)、佐助稲荷神社(授与所裏、餌付けはやめたか)、高徳院(観月堂周辺、売店周辺)、江の島龍野ヶ岡自然の森(エビフライ(リスの仲間が松ぼっくりを食べた残骸)がよく落ちている)

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