東蟇蛙、東蟾蜍 両性類/無尾目/ヒキガエル科/ヒキガエル属 産卵期/3月
学名/Bufo japonicus formosus
有毒在来種稀少保護
神奈川県レッドリスト2006「要注意種」
アズマヒキガエル 茅ヶ崎市南湖 2012/07/16
いわゆるヒキガエル。ニホンヒキガエル(日本蟇蛙)は西国に分布し、関東で見られるものはアズマヒキガエルという。見分けは鼓膜の大きさとされるが、違いは微妙で明確にはなかなか区別できない。普段は平地・丘陵地・山地を問わず広く(水辺ではまったくない)森の中に生息。まさかと思うが、メタボの極み体型に似合わずおだてれば木にも登るという。夜行性。虫やミミズを食べる。人に遭遇しても慌てて逃げようとはせず、もさっとじっとかしていることが多い。ビジュアルはグロテスクだが、性格はかわいらしいやつである。
アズマヒキガエル 茅ヶ崎市南湖 2012/07/16
ヒキガエルは目の後ろにある耳の辺りから有毒の分泌物を出すことが知られる。これが原因でヒキガエルは大変危険な生き物であると誤認されている節があるが(※1後述)、普通に接する限り問題はないのではないか。いわゆるガマ毒は、ヒキガエルに極端に顔を近づけたり直接舐めたり食べたりしない限りは危険性はほとんどないと思われる。ヒキガエルに触れたら手をよく洗浄すること。ガマ毒が付着した手で目を擦ってしまうなどすると厄介なことにはなりそうだ。ヒキガエルを咥えてしまったイヌ(犬)が泡を吹いたなどの症例報告も。そんなヒキガエルもヘビ(蛇)のヤマカガシ(山楝蛇)やカラス(烏)にはぺろりと食べられてしまうが。
※1 平成30年(2018)ヤフーニュース(北海道ニュースUHB配信=フジテレビ系列)に「失明の恐れも…外来毒カエル 100万匹を駆除せよ! 」「外来種の毒ガエル 大量発生」などと題しておどろおどろしい記事が複数掲載された。北海道に分布しないはずの(何者かが放した)アズマヒキガエルが繁殖、大量発生しており大問題に、という内容。それはその通りであろうと思うが、とはいえ「毒ガエル」との表記は何事か。おそらくはアズマヒキガエルに何ら知識も関心さえ持ち合わせない一記者が業務命令に従って垂れ流しただけの記事であろうことは容易に想像できるところながら、こんな記事を真に受けてヒキガエルが危険生物であるかのような誤解をする人が少なからず出てきてしまうこともまた想像の至る所。生息数が減少しているアズマヒキガエルの殺処分がアズマヒキガエルが元来生息している地域で進まないこと切に願うばかりだ。生態系の破壊を助長させる記事の配信は停止されたい。
アズマヒキガエルのぷく顔 大磯町・高麗山公園 2017/09/16
棒でつんつんつつくとぷくっと腹を膨らませて怒り出した。
俗称のガマガエル(蝦蟇蛙)もヒキガエルのこと。小銭入れを蝦蟇口(がまぐち)と呼ぶのはその形状がヒキガエルの大きな口に似ているため。
地域によってはイボガエル(疣蛙)と呼ばれていたかもしれない。ふつうイボガエルといったらツチガエル(土蛙)を指すが。
ガマの油
江戸時代に売られていた謎の傷薬。現代でいうところの「オロナインH軟膏」(大塚製薬)、「メンソレータム」(ロート製薬)や「近江兄弟社メンターム」(近江兄弟社)といったところか。ガマの油売りと呼ばれる露天商が販売していた。成分は不明。
昭和時代(-1989)には車に轢かれたヒキガエルに稀に遭遇したものだが、最近はめっきり見かけなくなった。とはいえ春の池に卵塊は多くあるので、絶滅に瀕しているわけではない。ただし、生息環境となっている小山が丸ごとごっそり住宅団地やメガソーラー用地として開発される度に多くのヒキガエルが死に追いやられているのは事実。稀に住宅地で見かけることもあるが、いったいどこで生活しているのか。
ヒキガエルの産卵
ヒキガエルは春の短い時期のみ水辺に集結し、止水に産卵する。産卵時に一匹のメスを多くのオスが奪い合う様子を蛙合戦(かわずがっせん、かえるがっせん)という。とはいえ、生息数が減少した今となってはそのような光景はまずもって見られず、水場では数組のカップルが喧嘩することなく抱接している様子が点々と確認できる程度だろう。両生類なので、メスが卵を産んだらすぐさまオスが精子を放出する体外受精を行う。盛りは18時から20時半。
以上の通り、ヒキガエルの分布には森と止水が必要であるが、池や沼、農業用の溜め池が失われ、田んぼも5月頃まで水抜きされてしまっており産卵場所がなかなか見当たらない。山間部では林道側溝の集水桝に溜まった雨水に産卵せざるを得ないという哀しい光景も見かける。
オスは池に浮かび、メスがやって来るのを待つ。このときにメスを探しているのか、子犬のようにワンワンと鳴く。
池でメスを待つアズマヒキガエル(体長10cm程度の小さな個体) 鎌倉市・報国寺 2017/03/10
産卵のため池にやってきたアズマヒキガエル 茅ヶ崎市・清水谷 2017/03/18
平成29年(2017)3月18日 清水谷では残念ながら既に多くの卵塊が産み付けられた後の祭り。雌の姿はおそらくもうなく、池で待ちぼうけを食らっているやや小型な個体たちはいずれも雄だろう。人影に驚いて水中に身を隠す者もあったが、多くは雌探しに一生懸命で人どころではなさそうなご様子。遠くまで見渡せるようにか胸の白柄をアピールしているのかは知らないが、前肢を立てて鳴いていた。
産卵のため池にやってきたアズマヒキガエル 茅ヶ崎市・清水谷 2017/03/18
目視で確認できたのはおよそ20匹。となればこの小さな林に50匹以上が生息していることが推定できる。日中はどこに隠れているのか、一度たりとも成体に遭遇できたためしがない。
産卵のため池にやってきたアズマヒキガエル 茅ヶ崎市・清水谷 2017/03/18
隣にいたやつに抱接を試みたが蹴とばされていたので雄同士だったか。
産卵のため池にやってきたアズマヒキガエル 茅ヶ崎市・清水谷 2017/03/18
水辺に集まって雌に声をかけて抱接に持ち込んで‥、ってどこかで見たような光景だと思っていたらば、そう、真夏の湘南海岸にナンパ目当てで集まってくる輩にそっくりなのであった。
アズマヒキガエルの抱接 鎌倉市・散在ガ池森林公園せせらぎの小径 2013/03/19
産卵のため水辺にやってきたアズマヒキガエル 厚木市・神奈川県自然環境保全センター 2024/02/28
産卵のため水辺にやってきたアズマヒキガエル 厚木市・神奈川県自然環境保全センター 2024/02/28
アズマヒキガエルの蛙合戦 厚木市・神奈川県自然環境保全センター 2024/02/28
アズマヒキガエルの蛙合戦 山北町・般若院 2024/03/02
卵は細長いチューブ形の卵塊なので見分けは簡単。卵塊には泥がすぐに付着し、じきに何だかよくわからない物体と化す。
アズマヒキガエルの卵塊 茅ヶ崎市・清水谷 2017/03/16
卵塊は柔らかで意外に脆(もろ)く、手で掬(すく)い上げただけで自重で千切れ千切れになってしまうので注意。それでも問題なく孵化(ふか)はするが。
アズマヒキガエルの採取する際に千切れてしまった卵塊 茅ヶ崎市 2016/02/29
ヒキガエルのオタマジャクシ
ヒキガエルのオタマジャクシは、巨大な親ガエル(身近で見られる一般的なカエルの中では最大級)とは打って変わって極小(身近で見られる一般的なオタマジャクシの中では最小)。小さくてほぼ真っ黒なのが大量ににょろにょろしていたらおそらくこのヒキガエルのオタマジャクシだろう。鎌倉の寺の庭にある池やハス(蓮)鉢などにうじゃうじゃいるのも大体がヒキガエルのオタマジャクシだ。
アズマヒキガエルのオタマジャクシ 鎌倉市・浄妙寺 2017/05/08
オタマジャクシでいる期間は二ヶ月ちょっとで、ゴールデンウィーク(4月末~5月初旬)頃に体長(鼻先~尻先)わずか1cm程度で変態しカエルとなって上陸する。オタマジャクシが小さいので、カエルとなった幼体も極小(身近で見られる一般的なカエルの中では最小)。ちびっちゃくてものすごくかわいい。幼体は、個体差はあるものの意外とあっけなく数日で人に慣れるが、体が弱くとても死にやすいので飼育には向かない。体が小さ過ぎて与えることができる餌(えさ)を満足に確保できないのだ。自然下においてはおそらくは落ち葉に潜って小さな土壌生物(腐葉土にまみれて生息しているダニとかノミとかちょろちょろぴょんぴょんしている得体の知れない虫)でも食べているのではないかと思われるが、農家か近所に融通の利く公園でもない限りそんなものを毎日人為的に用意はできない。バッタ類の幼虫は子ヒキガエル同等の大きさなので口には入るまい。アブラムシ(油虫)も食べるが栄養が不足する。
指をよじ登る上陸後三日ほど経過したアズマヒキガエルの幼体 茅ヶ崎市 2017/05/11
写真にすると体色は茶色であることがわかるが、肉眼ではほぼ真黒に見える。
上陸後三日ほど経過したアズマヒキガエルの幼体 茅ヶ崎市 2017/05/11
赤ちゃんガエルのうちはヒキガエルらしからずぴょんぴょん飛び跳ねる。大きくなった個体はえっちらおっちら歩くか、面倒くさそうにもっさりジャンプする。
観音崎公園(花の広場、水の広場)、前田川団地、三浦市南下浦町(みなみしたうらまち)菊名・水間神社(みずま-)、岩殿寺、明王院、長谷寺(輪蔵横の清浄池)、鎌倉市・散在ガ池森林公園せせらぎの小径(近年再整備されたためせせらぎに滞留なくなり産卵場には不適になった可能性)、鎌倉市関谷・石原谷戸(溜池、水量なく産卵不適、ぬかるむため観察不適)、茅ヶ崎市・清水谷、茅ヶ崎市・中央公園、氷室椿庭園(コンクリ池、卵共々駆除されている)、茅ヶ崎市文化資料館(玄関脇の小池)、平塚八幡宮、大磯町・高来神社(ネット張ってある池)
大和市・泉の森(自然観察センターの庭の池)、山北町・般若院(3月下旬、境内の池2ヶ所=本堂向かって左・庫裏前庭、県指定天然記念物「山北町岸のヒキガエル集合地」として保護されている)、山北町・三尋木家(3月下旬、敷地内の池=水量不十分、民家につき非公開、県指定天然記念物「山北町岸のヒキガエル集合地」)
県指定天然記念物「山北町岸のヒキガエル集合地」は非常に多くのヒキガエルが集まる場所とは既にいえない状態となっていたが、背後の丸山(三井造船社有地)が町の肝煎りで大規模開発され平成27年(2015)に精密機器メーカーのトヤマが本社を移転させた。町はこれを悲願達成、明るいニュースだと喜んでいたが、県指定天然記念物「山北町岸のヒキガエル集合地」の土台となるヒキガエル生息地は半分程度に減少した。今後、県指定天然記念物としての価値の低下が問題になってくるかもしれない。
参考資料
『神奈川県文化財調査報告書 第36集』 神奈川県教育委員会社会教育部文化財保護課編集・発行(1974)
今年も蝦蟇さんが産卵しました。たった3つだけ。雄雌ともにみんな若くスマートで、でっぷり太った「ガマ」体型のおじさん・おばさんは、ついに1匹も現れませんでした。
2月上旬に裏の家の前で毛の抜けた狸が虫の生きになっていて、近所の方々が保健所を呼んで引き取って貰ったそうです。築50年以上の木造家屋が3軒並んでいるところです。もしかして、一昨年から蝦蟇さんが激減したのは、狸に食われたのかと思いました。
数年前、別のご近所の庭木に何か上っていたといって、猫だろうという結論になりましたが、その家の奥さんは猫ではなかったとずっと言っていました。鎌倉で洗い熊が蝦蟇さんを食べて、蝦蟇さんがいなくなったのなら、拙宅周辺にも実は洗い熊や狸が住んでいて、蝦蟇さんを食べているのかも。
一昨年からの激減は、ただ数が減ったのではなく、年を経た大蝦蟇がいなくなったのです。一昨年からそうなので、今年偶然来なかったのではないはずです。蝦蟇さんの寿命が2年ぐらいになってしまったみたいです。