小蒲 イネ目/ガマ科/ガマ属 花期/7月~8月上旬 結実期/10月中旬~12月
学名/Typha orientalis C.Presl
薬用自生種稀少保護
コガマの果穂 寒川町一之宮 2020/08/08
湿地ないし浅い水辺に生える多年草。川だ池だの深い水の中はあまり好まないようである。コガマを多く見かけるのは土がべちゃっと湿っている肥沃な休耕田で、よく群生する。神奈川県内ではまだ広く分布が確認されているようではあるも、湘南・鎌倉・三浦半島ではその田んぼそのものや湿地が年々減って身近にはなくなって来てしまっているため、コガマに出遭える機会も絶賛減少中。県内自生のガマの仲間は、ガマ、ヒメガマ(姫蒲)、コガマ、の三種あり。ガマとヒメガマは草丈2m級でとにかくでかいので、それに比べればコガマは(やや)小振り。なお湘南・鎌倉・三浦半島で見かけたコガマと思しきものは、植物辞典等に記載されているコガマの各部(特に、葉の幅、雌花序の幅)の数値の範囲内に収まらない大きめなものがある。単に生育が良いのか、アイノコガマ(合いの子蒲)と呼ばれるガマとコガマの雑種なのかは、知らない。ヒメガマは雄花と雌花の間に隙間があるので同定はたやすいが(モウコガマ(蒙古蒲)はヒメガマに似る)、雄花と雌花が接合しているガマとコガマは見分けに難儀するものがある。生育不良で小さいガマと、やたら大きく育ったコガマは、紛らわしい。基本的には花期の違いから当たりを付けて、草丈や葉の幅などから総合的に判断するよりない。顕微鏡があれば、花粉と柱頭(ちゅうとう)の形の違いで峻別は可能。
不耕作水田に群生したコガマ(花穂はまだなし) 茅ヶ崎市行谷 2019/06/17
池に植えられた#コガマと#ヒメガマ 鎌倉市・永福寺跡 2021/07/19
池に植えられた#コガマと#ヒメガマ 鎌倉市・永福寺跡 2021/07/19
#コガマ 茅ヶ崎市浜之郷 2021/07/17
コガマの大きさ
数値は『神奈川県植物誌2018』(カッコ内は平凡社『改定新版 日本の野生植物1』) ⇒ 当サイト実測値
茎 高さ 100~150cm(100~150cm) ⇒ ~160cm
葉 長さ (50~70cm)、幅 0.5~1cm(0.4~1cm) ⇒ 幅 1~1.5cm
雄花 長さ 3~9cm(3~9cm) ⇒ 長さ 3~4cm
雌花 長さ (5~15cm)、幅 0.4cm ⇒ 長さ 9~12.5cm、幅 ~1cm
果穂 幅 ~1.5cm ⇒ 長さ10cm弱~13cm、上部幅2cm、下部幅1.6~1.7cm
上記の通り、コガマであっても草丈1.5m前後になるものも少なくない。ガマやヒメガマに比べれば確かに小柄とはいえ、十分に大型な植物である。明らかに格段に小さい個体もある(ときに一度草刈りに遭っている可能性も)。
寒川高校南方の不耕作田に生えたコガマ 寒川町一之宮 2022/07/12
JR相模線「寒川」駅南口の休耕田に生えたコガマの群落 寒川町一之宮 2021/07/25
JR相模線「寒川」駅南口の休耕田に生えたコガマの群落 寒川町一之宮 2021/07/25
葉は、『神奈川県植物誌2018』によれば幅0.5~1cm。他の資料もいずれも1cmに満たない数値を挙げている。確かにその通りでおよそ0.7cmを基本とするだろうと思われるが、1.1cmないし1.2cm程度、ときに最大1.5cmもある個体群が結構いる。
JR相模線「寒川」駅南口の休耕田に生えたコガマのサイズ感 寒川町一之宮 2021/07/25
JR相模線「寒川」駅南口の休耕田に生えたコガマの葉、幅9mm弱 寒川町一之宮 2021/07/25
#コガマの葉 茅ヶ崎市浜之郷 2021/07/17
#コガマの(池の中で)鉢栽培 鎌倉市・大船フラワーセンター 2019/08/01
コガマなどが生えた不耕作水田と思しき一画 寒川町一之宮 2020/08/08
コガマの果穂が多くみられる不耕作水田と思しき一画 寒川町一之宮 2020/08/08
コガマの果穂が多くみられる不耕作水田と思しき一画 寒川町一之宮 2020/08/08
#コガマの果穂 東京都調布市・野草園 2020/08/04
コガマの花
ガマとヒメガマは梅雨の前ないし前半に、コガマは梅雨が明ける頃に咲く。田んぼ周辺など水量に人為的な都合が介入する場合、開花がやや遅れるところもないでもない。上段は雄花序で、鮮やかな明るい黄色の花粉を排出し、のち薄茶色にくすみ、更に黒ずんで傷む。下段の雌花序は、若々しさを感じる緑色の頃が開花中と思われ、のち(おそらく受粉が完了すると)濃い赤茶色に変色して(やや太く実になって)ゆく。雄花序と雌花序の間にはヒメガマのような隙間はなく、ガマ同様に密接する。ガマの穂を見慣れている人の目には、コガマの花穂はちょっと”か細い”と感じるに相違ない。雌花序の長さに比べて雄花序の方が明らかに短いものが多い。
#コガマ 茅ヶ崎市浜之郷 2021/07/17
コガマ、花序を包んでいた苞が脱落していない 寒川町一之宮 2021/07/25
#コガマ 茅ヶ崎市浜之郷 2021/07/17
#コガマ 茅ヶ崎市浜之郷 2021/07/17
#コガマ 茅ヶ崎市浜之郷 2021/07/17
花粉を顕微鏡で見ると、コガマ、ヒメガマ、モウコガマは、一粒一粒が独立した単粒、ガマは四個の花粉が”田”の字形にくっついている四集粒という違いがある。
コガマ 寒川町一之宮 2021/07/25
#コガマの雄花 茅ヶ崎市浜之郷 2021/07/17
#コガマの雄花 茅ヶ崎市浜之郷 2021/07/17
#コガマの雄花 茅ヶ崎市浜之郷 2021/07/17
コガマの雄花 寒川町一之宮 2021/07/25
コガマ、雄花序は咲き終わり 寒川町一之宮 2021/07/25
コガマ、雄花序は咲き終わり 寒川町一之宮 2021/07/25
コガマの咲き終わった雄花序 寒川町一之宮 2021/07/25
#コガマの雌花 茅ヶ崎市浜之郷 2021/07/17
#コガマの雌花 茅ヶ崎市浜之郷 2021/07/17
柱頭の形状は、コガマは匙(さじ)形、ガマは披針形。
コガマの雌花序 寒川町一之宮 2021/07/25
コガマの実
雌花だった部分がむくむくっと太くなり、濃い赤茶色をした、ガマの仲間らしい姿の果穂となる。これが実。上から下に向かって徐々に細くなるのがコガマの特長。雄花があった部分は汚らしく枯れた状態となって残存したりしなかったり。
コガマの果穂 寒川町一之宮 2020/08/08
コガマの果穂 寒川町一之宮 2020/08/08
コガマの果穂 寒川町一之宮 2020/08/08
コガマの果穂 寒川町一之宮 2020/08/08
コガマの果穂 寒川町一之宮 2020/08/08
#コガマの熟して弾けた果穂 鎌倉市・大船フラワーセンター 2019/12/08
東京都小平市・#東京都薬用植物園(水生植物区)、東京都府中市・#神代植物公園(水生植物園の西端=朝しか日が当たらないので花数少ないか=葉は幅広、ガマも)、横浜市緑区・#四季の森公園(北口広場近くの池畔木道沿いに少ない=葉は幅広)
JR相模線「寒川」駅南口(さむかわ富田クリニックの北東・東隣・南西の休耕田三ヶ所に群生=葉は標準幅・やや幅広)、寒川高校(南方の水田地帯の不耕作区画に少ない)
#観音崎公園(花の広場の池)?、横須賀市・光の丘水辺公園?、#永福寺跡(ようふくじ-、苑池(えんち)に、ヒメガマも、共に近くでは見れない)、#大船フラワーセンター(和風庭園の池に鉢植え、近くで見れない)、茅ヶ崎市・#湘南ライオン寺墓園(北隣農地の新湘南バイパス側道に面した小水路に少々=葉は幅広)
中井町・厳島湿生公園(滅失)
参考資料
『神奈川県植物誌2018』(電子版を含む) 神奈川県植物誌調査会編 神奈川県植物誌調査会発行(2018)
『改訂新版 日本の野生植物 1 ソテツ科~カヤツリグサ科』 大橋広好・門田裕一・邑田仁・米倉浩司・木原浩編 平凡社発行(2015)