黄蓮華升麻 ミズキ目/アジサイ科/キレンゲショウマ属 花期/6月中旬~9月
学名/Kirengeshoma palmata Yatabe
稀少
環境省レッドリスト「絶滅危惧II類(VU)」
#キレンゲショウマ 箱根町仙石原・長安寺 2023/08/11
紀伊半島以西の山地に自生がある、大型な多年草。名は、黄色い花が咲く、レンゲショウマのような植物、の意。やたら長くて細い茎が伸びて枝分かれする花序の形とまん丸い蕾と開花時期はレンゲショウマと重なる。が、それ以外、特に咲いている花はレンゲショウマとは全く似ても似つかないので、多くの人は名前に若干の戸惑いを感じるのではないか。レンゲショウマはキンポウゲ科なので近似種でもない。発見は、明治21年(1888)矢田部良吉帝国大学(現東京大学)教授による。植物学者牧野富太郎を題材としたNHK連続テレビ小説(朝ドラ)『らんまん』(2023)に登場した田邊教授(要潤)のモデルとなった人物である。明治23年(1890)『植物學雜誌 第4巻 第46号』にて発表。キレンゲショウマ属(Kirengeshoma)は、日本人が日本の学術誌で初めて発表した植物の新属、となった。現在も一属一種の珍種。命名も矢田部教授による。宮尾登美子の小説『天涯の花』(のちにNHKでドラマ化)で徳島県の剣山(つるぎさん、日本百名山)に咲くキレンゲショウマが取り上げられたことでも知名度が高いかもしれない。神奈川県内自生なし。栽培も植物園や山野草愛好家が細々とする程度なので、見かけるのはかなり希。場所を取り、開花に至るまで年数がかかる。夏の直射日光と乾燥がお嫌いなので、暗い日陰に植えられる。
#キレンゲショウマ 箱根湿生花園 2023/08/03
#キレンゲショウマの葉 箱根町仙石原・長安寺 2023/08/11
#キレンゲショウマの葉 箱根湿生花園 2023/07/19
この植物の本当の最初の発見者は矢田部教授ではなく、のちに教員にして植物学者となる吉永虎馬(とらま、『らんまん』には山元虎鉄(寺田心、濱田龍臣)として登場)のようである。吉永虎馬自身がのちに『植物研究雑誌』で「きれんげしょうま発見当時の話」と称して述懐した話によれば、吉永虎馬が愛媛県の石鎚山で本植物を発見・採取し、ちょうど四国に来ていた矢田部教授に検定をお願いしたところ、初めて見た植物だとして興味を示され、ウマノアシガタ科(現キンポウゲ科)に似ていると考えキレンゲショウマと命名され、その後石鎚山ではない別の場所で矢田部教授ら一行が同植物を採取した。従って、矢田部教授が発表した「I found this plant in flower on the 9th. August, 1888. in open woods at an elevation of over five thousand feet on Mt. Ishizuchi in the province of Iyo.」の部分も吉永虎馬の功績を我がものと偽って掲載したものという。
学問に関する成果は、公に認められている学術誌で発表して初めて認められ、成果は発表者が総取りする、という、大学教授や博物館学芸員にとってのみ都合の良いじつに身勝手な習わしがある。当初の功績者は、情報提供者や協力者として謝辞が添えられれば良い方で、往々にしてその名が世に示されることなく終わるのである。
“矢田部良吉博士は、すこぶる強情な人であった。キレンゲショウマの命名に関してもよくその性癖が現れている。はじめ吉永虎馬くんから提出された黄花を開いたこの植物を見た途端、それをウマノアシガタ科のレンゲショウマの類と思ったらしい。そして花が黄色であったもんだから、そこでそれをキレンゲショウマと呼んだわけだ。のちそれがウマノアシガタ科とは遠く離れて何の縁もゆかりもないユキノシタ科(現在はアジサイ科に分離)のものと判断が付いた後でも、矢田部博士ははじめそう与えた名を取り換えて訂正するのは我が面目を失い我が権威を傷つけ、また他人から侮辱を受けるとでも思ったのか、一向に当初の間違った見解を改めようともせず、終わりまでその見損ないに基づいた名を変えて改めようとしないばかりでなく、ついに学問上の学名にまで無理やりその良からぬ名を押し通してしまったが、しかしこれはどう考えても同博士として決して褒められた行為ではない。こんな照れ隠しは、仮にも博士、大学の教授とでも言われる人がなすべきことではなく、かえってそれはこの植物に対し、はじめまったく無学であったことの標識を世に提供したにすぎない結果に終わったばかりである。それからまたこのKirengeshomaなる属名をこのように世界では通じない日本語で組み立てて難渋にこしらえたのは決して好ましいことではないと、英国の植物学者ウィリアム・ヘムズリー氏からも顰蹙(ひんしゅく)を買っている──”(一部略、現代語に改め意訳し、注釈を付した)
以上は、「きれんげしょうま発見当時の話」に付された牧野富太郎博士によるぼろっかす評である。牧野富太郎博士は牧野富太郎博士で、タチバナ(学名/Citrus tachibana (Makino) Tanaka)の種小名を日本語で組み立てていたりするのであるが。
キレンゲショウマの花
温暖なせいか異様に早咲きする湘南・鎌倉・三浦半島辺りで栽培すると早い年で6月中旬から、箱根では8月から、順次開花。一斉には満開せず、ぽつりぽつりと徐々に開花して行く。花弁は平開しない半開きの、たこさんウインナー形の花。花色は少し爽やかな黄色。やや下向きに咲く。観賞に難あり。蕾の期間が長くてなかなか咲かない。咲いたら咲いたで開花日数がどうやら短いようで、傷みかけの花しか付いていない。なんていう事態はふつうに多発する。
#キレンゲショウマ 箱根湿生花園 2023/08/03
#キレンゲショウマ 箱根町仙石原・長安寺 2023/08/11
#キレンゲショウマ 箱根町仙石原・長安寺 2017/09/09
#キレンゲショウマ 箱根町仙石原・長安寺 2023/08/11
#キレンゲショウマ、開きかけではなくこれで全力で咲いている状態 箱根町仙石原・長安寺 2023/08/11
#キレンゲショウマ 箱根町仙石原・長安寺 2023/08/11
咲いている花がない#キレンゲショウマあるある 箱根町仙石原・長安寺 2023/08/11
東京都調布市・#野草園、東京都調布市・#神代植物公園(流れの山野草園)、東京都八王子市・#東京薬科大学薬用植物園(6月末~7月上旬)、東京都八王子市・#高尾山野草園
#光則寺、#藤沢えびね・やまゆり園
箱根町仙石原・#長安寺(7月下旬~9月中旬、アブに注意)、#箱根湿生花園(⑧湿生林区、8月~9月上旬)、#恩賜箱根公園(休憩所近く)
参考資料
『植物研究雑誌 第7巻 第2号』 牧野富太郎編集 津村研究所出版部発行(1930)
『植物學雜誌 第4巻 第46号』 東京植物學會編輯所編集・発行(1890)
お暑うございます
あまりの暑さと気候の激しさに翻弄されて
植物観察もままならない、、。
そんな時も こちらで知る植物には癒して頂いて
有難いです、本当に。
キレンゲショウマと矢田部良吉博士と牧野富太郎博士と吉永虎馬先生
そして”自然と健康を科学する”ツムラの創業者との繋がりも
興味深いですね
『植物學雜誌 第4巻 第46号』 東京植物學會編輯所編集・発行(1890)の
40年後に「きれんげしょうま発見当時の話」
どれだけ遺恨だったのか、牧野富太郎博士と吉永虎馬先生の執念すさまじい、怖っ
長く生きて好きを追求できれば こんな逆転もあるんですね
キレンゲショウマ、箱根が恋しい
花があるうちに観察に行かなければ。
八王子の牧野標本館の企画展も気になりますが
ドラマの影響で混んでそう
mirusiruさん
タイムリーな記事更新さすがです