未草 スイレン目/スイレン科/スイレン属 花期/5月中旬~9月
学名/Nymphaea tetragona Georgi
稀少
神奈川県レッドリスト2020「絶滅」
神奈川県レッドリスト2006「絶滅」
#ヒツジグサ 茅ヶ崎市浜之郷 2019/08/21 13:38
沼などの浅めの止水に生える多年草。水底に根を張って水面に葉を浮かべる浮葉植物である。日本に自生する唯一のスイレン(睡蓮)。元来スイレンとは中国におけるヒツジグサの呼称(漢名)。ただし日本でスイレンといった場合はスイレン属に分類される植物の総称で具体的には外国産品種およびその園芸種を指し、日本の在来種という特殊な立場にあるヒツジグサはスイレンとは呼ばず独立させてヒツジグサと呼ぶのが普通。※以下、本頁ではスイレンといった場合はヒツジグサを含まない外来種およびその園芸種とし、ヒツジグサと明確に分けることとする。名は、未(ひつじ)の刻に花を咲かせるため。未の刻とは十四時を中心としたその前後各一時間をいう時間表記、つまり十三時から十五時のこと。スイレンは午前中咲き、ヒツジグサは午後咲きである。神奈川県内では横浜市などに標本があるようながら、戦後に絶滅。栽培されていることはないわけではないものの滅多に見かけない。”これはヒツジグサであるよ”と明示されていない限りスイレンとの違い明確でなく、民家の庭や鎌倉の寺境内などで栽培されていてもヒツジグサと気づき得ない可能性が極めて高い。スイレンと一緒に植えた結果、どれがスイレンでどれがヒツジグサかよくわからなくなった、交雑してしまったことが推定される、スイレンに圧(お)されてヒツジグサだけ滅失した、といった残念な話もちらほら。地方によっては池や沼でまま群生しているようだが、神奈川県内でヒツジグサの花を見ることはかなり難易度が高いミッションである。
#ヒツジグサの発芽 茅ヶ崎市浜之郷 2020/04/22
#ヒツジグサ 茅ヶ崎市浜之郷 2019/08/21
ヒツジグサは元来(福島県/新潟県/群馬県・)尾瀬の池塘(ちとう)のような、日当たり良くとも冷涼な(冷ややかな水が注ぎ込む)場所に自生がある植物である。神奈川県南部の真夏はたいへん蒸し暑くて水温がかなり上昇してしまうため(40℃くらいのお湯になる)水生植物は腐りやすくなり、広く出回っているスイレンの園芸品種とは違ってデリケートなヒツジグサの栽培環境として適しているとはお世辞にも言い難い。かといって日陰に置くと今度は花付きが悪くなるだろう。というジレンマを抱えることになる。できれば日向置きにして冷ややかな地下水が常時流れ込むようにしてやれれば良いが、実現できないだろう。
#ヒツジグサ 茅ヶ崎市浜之郷 2019/08/20
スイレンと違って根茎は大きくならず、成長点(葉が生え出てくる部分)も増えず、従ってヒツジグサの株数も(株分けでは)増やせない。根茎がワサビ(山葵)のような形状に横に肥大化して成長点も一年で二つ三つ四つに簡単に増えるスイレンとはわけが違う。
植え替えするために掘り返した#ヒツジグサ 茅ヶ崎市浜之郷 2020/02/28
ヒツジグサの花
八月下旬の場合、十二時半頃からのんびりと開花をはじめ、見頃は十三時半から十五時半。十六時頃には花を閉じる。開閉を繰り返し、一つの花はおよそ三日で寿命を迎えて水中に没す。花はスイレンにしては小さく、花径は(萼片を含めて)5cm程度しかない。花を浮かべるために水面に広がっている(緑色がうっすら白色を帯びて花弁のようにも見える)萼片が四枚、その内側に白色の(あまり平らに広がらない)花弁が十枚程度ある。スイレンにしては花弁の枚数が少ない。花色は白のみ。赤色品種などはない。かわいらしい花であるが、大きくて艶(あで)やかな花こそ好まれよく売れる園芸界にあっては、花が小さく花弁も少なく色は白しかない取るに足らない花という評価になってしまうかもしれない。花期は長いが、その間ずっと咲き続けるわけでなし。栽培されていても一株だけとかなので、ちょうど良いタイミングできれいな花に出遭えることはなかなかないのではないか。どうしてもヒツジグサの花を見たいのであれば意を決して買って取り寄せてしまった方が金額的にも時間や労力的にも負担が少ないかも。一株1,500円程度。大きくて高価な陶器製スイレン鉢を用意する必要があるが(安価なプラスチック製では水温が上昇しやすく栽培に適さない)。
#ヒツジグサの蕾 茅ヶ崎市浜之郷 2019/08/20
#ヒツジグサの蕾 鎌倉市・大船フラワーセンター 2019/08/19
ヒツジグサは雌性先熟(しせいせんじゅく)。開花一日目のみ雌性期で、柱頭を露出させて受粉を試みる。二日目および三日目は雄性期(ゆうせいき)で、雄蕊から花粉を放出。このとき偽柱頭と呼ばれる突起が柱頭覆い隠して受粉を遮り、自家受粉してしまうことを妨げている。
#ヒツジグサの開花一日目(雌性期)、これ以上は花弁開かなかった 茅ヶ崎市浜之郷 2019/09/02 15:09
#ヒツジグサの雌性期(水滴は降雨) 茅ヶ崎市浜之郷 2020/09/10 13:43
#ヒツジグサ 茅ヶ崎市浜之郷 2019/08/21 13:37
ヒツジグサを”世界最小のスイレン”とする記述をどこかで見たことがあるが、誤り。世界最小のスイレンは”ピグミー・ルワンダン・ウォーター・リリー(Pygmy Rwandan water lily、ピグミー族のように小さなアフリカ・ルワンダ共和国原産のスイレン)”で、花径は2cmに満たない。
#ヒツジグサ、花径(萼片込み)約5cm 茅ヶ崎市浜之郷 2019/08/20
ヒツジグサであるといいながら(ヒツジグサとして購入したと思われるが)、朝から開花し未の刻にはもう花を閉じてしまうものがいる。何者か。個体差なのか、スイレンと交雑した実生(みしょう)なのか。花期が長いので季節によって開花時刻には揺れは出てくるとは思うけれども。ヒツジグサというも花弁数が多過ぎると感じるものもあり、これはスイレンの(DNAが混じっている)疑い。逆にスイレンでありながら小振りな白花でヒツジグサのような姿をしている品種もあって、こうなってくるともう何が何だかわからない。
ヒツジグサの実
花は咲き終わると水中に没して実を結ぶ。根茎で増えることができない代わりに(他家受粉で)よく種子を作る。※掲載品は基本的に自家受粉しない。理由は不明ながら作られる花粉の量が絶望的に少ないことも関係しているか。冷蔵保存しておいた雄性期の花を雌蕊にこすりつけたり綿棒でかき回したり、人為的な受粉を試みてようやく花一つだけ結実した。他の十個近くは花後に子房が膨らむことなく朽ちて終わった。
#ヒツジグサの種子を作ることなく朽ちて終わった実 茅ヶ崎市浜之郷 2019/10/07
#ヒツジグサの種子を作って硬く膨らんでいる実 茅ヶ崎市浜之郷 2019/10/07
水中で実が割れてきたと思ったら、しばらくして種子を放出していた。観察個体(の実一つ)で種子は五十一個(種子になりそこねたらしいものが他に数個分あった)、やや黄ばんだ(汚れただけかもしれない)透明な何やらティシューの切れ端のようなものに包まれた状態で水面に散らばり浮かんでいた。噂に聞いていた通り異様な光景であった。季節外れのカエル(蛙)の卵のように感じられるかもしれない。種子は黒っぽい暗褐色、直径は3~4mm弱で、太り気味な黒ゴマ(胡麻)といった感じ。種子はしばらく水面を浮遊して水流や風の力を借りて拡散され、のち(観察個体では半日以上経過してから)水没し、役目を終えた”包み紙”が剥がれて種子のみとなる。種子は寒い冬を越したのち発芽に至る。
水面を浮遊する#ヒツジグサの種子 茅ヶ崎市浜之郷 2019/10/19
水面を浮遊する#ヒツジグサの種子 茅ヶ崎市浜之郷 2019/10/19
水面を浮遊していた#ヒツジグサの種子 茅ヶ崎市浜之郷 2019/10/19
#ヒツジグサの種子 茅ヶ崎市浜之郷 2019/12/26
#ヒツジグサの種子 茅ヶ崎市浜之郷 2019/12/26
発芽は4月。
#ヒツジグサの発芽 茅ヶ崎市浜之郷 2021/04/19
#ヒツジグサの発芽 茅ヶ崎市浜之郷 2021/04/19
東京都小平市・#東京都薬用植物園(温室裏の水鉢)、東京都調布市・#神代植物公園
#明王院(寺務所向かいの鉢)、#長谷寺(妙智池畔の青色小鉢)
#中井町・#厳島湿生公園(社殿裏手のスイレン地帯にあるらしいがどれかは不明、近くでは見れない)、#箱根湿生花園(仙石原湿原区の池に県外産の産地不明、近くで見れない)
ヒツジクサ:我家のめだか甕に今年取寄せたヒツジクサの蕾上がってきました、雌性先熟の為種はできないのですね。解り易い説明で大変参考になります。又鎌倉お寺2ヵ所にも回ってみます。ありがとうございます。2023 8/30