蓬莱蔓 リンドウ目/マチン科/ホウライカズラ属 花期/6月下旬~7月上旬 結実期/12月~2月
学名/Gardneria nutans Siebold & Zucc.
自生種稀少保護
ホウライカズラの花 逗子市・三浦アルプス・中尾根 2025/06/29
千葉県・房総半島以西の温暖な主に西日本に分布がある常緑の蔓性の樹木で、雌雄同株(しゆうどうしゅ)。日本固有種。蔓といってもフジ(藤)のようにくるくるくるくる巻き付く力はかなり弱く、茎がひょろひょろと長く伸びては周囲の樹木に引っかかったりしながら上へ上へと登って行く。名前の由来は不明。牧野富太郎博士は雅称(がしょう)だろうと推察している。要するにちょっと小洒落た名前を付けてみましたという程度で特に意味はないもの。蓬莱とは仙人が住まうという秘境の山をいい、大阪にある豚まん(肉まん、中華まん)屋の「551蓬萊(ごーごーいち ほうらい)」と名前の由来は同じ。あるいはもしかしたら、姿が少し似ているホウライカガミ(蓬莱鏡)だとかホウライアオカズラ(蓬萊青葛)あたりに寄せて付けられた名前であるかもしれない。これらの蓬莱は台湾の意と思われる。暖地に多いことから台湾に分布があると誤認されたか。神奈川県内では主に三浦半島の三浦アルプス(およそ横須賀市・塚山公園から葉山町役場の間に連なる丘陵群の総称)およびその周辺域と湯河原町などに自生がある希少種。日当たりがそれなりにある風通しと水はけの良い丘陵地の尾根道沿いで見かけることがある。外観に特段目立った特徴がないため、生えていても気づかずに通り過ぎてしまう可能性が高く、人目に触れにくい。茎をくるくる巻き付けないためぱっと見では蔓植物という感じがしないのも捜索に難。お目にかかれない度は絶滅危惧IA類に匹敵するのではないか。花や実もさほど目立たないためたいした手がかりにならない。花は人の目線ないし少し高いくらいの位置で咲いていることが多いが、高さは5mくらいまで登ることも。本種の毒性は不明だが、近似種に強く有毒なものがあるので念のため用心されたし。マチン科のマチン(馬銭)とは日本にはないインドなどを原産とする樹木で、猛毒で薬にもなるアルカロイド(の一種であるストリキニーネ)の原料として知られる。
周囲の木に引っかかりながら上へ登って行くホウライカズラ 逗子市・三浦アルプス・中尾根 2025/01/15
周囲の木に引っかかりながら上へ登って行くホウライカズラ 逗子市・三浦アルプス・中尾根 2025/01/15
ホウライカズラが生える三浦丘陵 横須賀市田浦大作町・横浜横須賀道路・田浦橋 2025/06/29
ホウライカズラが生えるハイキングコース沿いの茂み 逗子市・三浦アルプス・中尾根 2025/06/19
蕾を付けたホウライカズラ 逗子市/横須賀市・三浦アルプス・東尾根 2025/06/19
開花中のホウライカズラ 逗子市・三浦アルプス・中尾根 2025/06/29
実が熟したホウライカズラ 逗子市/横須賀市・三浦アルプス・東尾根 2025/01/15
実が熟したホウライカズラ 逗子市/横須賀市・三浦アルプス・東尾根 2025/01/15
実が熟したホウライカズラ 逗子市/横須賀市・三浦アルプス・東尾根 2025/01/15
実が熟したホウライカズラ 逗子市/横須賀市・三浦アルプス・東尾根 2025/01/15
実が熟したホウライカズラ 逗子市/横須賀市・三浦アルプス・東尾根 2025/02/14
葉は対生。縁(ふち)は鋸歯(きょし)がない全縁(ぜんえん)。なんとなくモチノキ(黐の木)の葉に似ているか。質感はアオキ(青木)のように軟らかい革質(かくしつ)で表面に光沢が感じられる。あるいはミカン科の葉に近い印象。葉の縁がヤブニッケイ(藪肉桂)のように軽く波打つ傾向あり、というのが本種の最大の特徴。
ホウライカズラの葉 逗子市・三浦アルプス・中尾根 2025/06/19
ホウライカズラの葉 逗子市・三浦アルプス・中尾根 2025/06/19
ホウライカズラの葉 逗子市・三浦アルプス・中尾根 2025/06/29
ホウライカズラの葉のサイズ感 逗子市・三浦アルプス・中尾根 2025/06/29
ホウライカズラの葉 逗子市/横須賀市・三浦アルプス・東尾根 2025/02/14
ホウライカズラの葉 逗子市/横須賀市・三浦アルプス・東尾根 2025/02/14
ホウライカズラの葉 逗子市/横須賀市・三浦アルプス・東尾根 2025/02/14
ホウライカズラの葉 逗子市/横須賀市・三浦アルプス・東尾根 2025/02/14
ホウライカズラの葉 逗子市/横須賀市・三浦アルプス・東尾根 2025/02/14
ホウライカズラの幅広な葉 逗子市/横須賀市・三浦アルプス・東尾根 2025/02/14
ホウライカズラの葉のサイズ感 逗子市/横須賀市・三浦アルプス・東尾根 2025/01/15
ホウライカズラの葉裏 逗子市・三浦アルプス・中尾根 2025/06/19
ホウライカズラの葉裏 逗子市・三浦アルプス・中尾根 2025/06/29
ホウライカズラの葉裏 逗子市/横須賀市・三浦アルプス・東尾根 2025/01/15
蔓はひょろひょろと長く伸びる。一年枝は緑色。冬の寒さに当たると赤褐色を帯びることも。葉柄(ようへい)基部は茎を抱いて、左右一対の葉柄が繋がって、節になる。
ホウライカズラの葉柄基部 逗子市・三浦アルプス・中尾根 2025/06/19
ホウライカズラの葉柄基部 逗子市・三浦アルプス・中尾根 2025/06/19
ホウライカズラの葉柄基部 逗子市/横須賀市・三浦アルプス・東尾根 2025/06/19
ホウライカズラの葉柄基部 逗子市・三浦アルプス・中尾根 2025/02/14
ホウライカズラの幹 逗子市/横須賀市・三浦アルプス・東尾根 2025/01/15
ホウライカズラの幹 逗子市/横須賀市・三浦アルプス・東尾根 2025/01/15
最も紛らわしいのは、似たような場所に大量に生えている蔓性樹木のテイカカズラ(定家葛)であるが、葉の縁が波打たないので除外はできよう。テイカカズラは葉裏の細かな網状脈(もうじょうみゃく)までくっきり視認できる際立った特徴あり。同じ蔓性樹木のサカキカズラ(榊葛)は、葉身がもっと胴長で、葉の縁はやはり波打たない。葉をむしられたり茎を切断されたりして傷つけられると、テイカカズラは白い乳液を、サカキカズラは透明の樹液を出すが、ホウライカズラはそもそも汁気が滲(にじ)み出てこない。
ホウライカズラの花
対生する葉の各葉腋(ようえき)から柄(え)を伸ばしてふつう一個ずつ花を下向きに咲かせる。従って、節ごとに一対(二個)の花が咲く。一斉に満開することはなく、茎基部側の花から徐々にぽつりぽつりと咲いてゆく。ナス科か、マンリョウ(万両)か、といった姿の白花である。花が似ているヤブコウジ(藪柑子、十両)やカラタチバナ(唐橘、百両)とだいたい咲き始める時期が同じで、見頃は6月末から7月初旬。花冠裂片はふつう五裂。はじめ平開し、咲き進むにつれ花冠裂片が反り返る。きれいな白花であるのはニ日間くらいしかないかもしれない。たちまち黄ばんで咲き終わり、じきにぽろりと落下する。花径は平開しているもので約1.8cm。
ホウライカズラの蕾 逗子市/横須賀市・三浦アルプス・東尾根 2025/06/19
ホウライカズラの蕾 逗子市・三浦アルプス・中尾根 2025/06/19
ホウライカズラの蕾 逗子市・三浦アルプス・中尾根 2025/06/19
ホウライカズラの蕾 逗子市・三浦アルプス・中尾根 2025/06/19
ホウライカズラの蕾 逗子市・三浦アルプス・中尾根 2025/06/29
ホウライカズラの花 逗子市・三浦アルプス・中尾根 2025/06/29
ホウライカズラの花 逗子市・三浦アルプス・中尾根 2025/06/29
ホウライカズラの花 逗子市・三浦アルプス・中尾根 2025/06/29
ホウライカズラの花 逗子市・三浦アルプス・中尾根 2025/06/29
ホウライカズラの花 逗子市・三浦アルプス・中尾根 2025/06/29
ホウライカズラの花のサイズ感 逗子市・三浦アルプス・中尾根 2025/06/29
ホウライカズラの花径(1.8cm) 逗子市・三浦アルプス・中尾根 2025/06/29
ホウライカズラの花 逗子市・三浦アルプス・中尾根 2025/06/29
ホウライカズラの花 逗子市・三浦アルプス・中尾根 2025/06/29
ホウライカズラの花 逗子市/横須賀市・三浦アルプス・東尾根 2025/06/29
ホウライカズラの咲き終わり 逗子市/横須賀市・三浦アルプス・東尾根 2025/06/29
ホウライカズラの咲き終わり 逗子市/横須賀市・三浦アルプス・東尾根 2025/06/29
ホウライカズラの萼 逗子市・三浦アルプス・中尾根 2025/06/29
ホウライカズラの萼 逗子市・三浦アルプス・中尾根 2025/06/29
ホウライカズラの実
直径1.1cm内外の球形。モチノキの実に似ている。緑色から、晩秋以降に赤く色付く。濃い真っ赤に染まり切れていない、朱色っぽいものが多い(種子はしっかり熟している)。赤っぽい実がなっているのだからすぐに視界に入って気づくだろう、簡単に見つけられるだろう、と思ったら大間違いで、目の前に実がありながらそこにあることになぜかぜんぜん気づかないことが多発するので要注意。甘い香りはまったくしない液果。鳥獣にさほど食われず早春まで樹上に残る。
ホウライカズラの熟した実 逗子市/横須賀市・三浦アルプス・東尾根 2025/01/15
ホウライカズラの熟した実 逗子市/横須賀市・三浦アルプス・東尾根 2025/01/15
ホウライカズラの熟した実のサイズ感 逗子市/横須賀市・三浦アルプス・東尾根 2025/01/15
ホウライカズラの熟した実 逗子市/横須賀市・三浦アルプス・東尾根 2025/02/14
ホウライカズラの熟した実 逗子市/横須賀市・三浦アルプス・東尾根 2025/02/14
ホウライカズラの熟した実 逗子市/横須賀市・三浦アルプス・東尾根 2025/02/14
ホウライカズラの熟した実のサイズ感 逗子市/横須賀市・三浦アルプス・東尾根 2025/02/14
ホウライカズラの熟した実の脱落痕 逗子市/横須賀市・三浦アルプス・東尾根 2025/02/14
皮は結構厚手で、マンゴーみたいな果肉あり。種子は、ふつう六個入り、黒色で扁平、コンタクトレンズのように湾曲している。
ホウライカズラの熟した実の中身 逗子市/横須賀市・三浦アルプス・東尾根 2025/02/14
ホウライカズラの種子 逗子市/横須賀市・三浦アルプス・東尾根 2025/02/14
横須賀市/葉山町/逗子市・乳頭山(矢落山、周辺の尾根道沿いにやや多い、道迷い遭難に注意)
藤沢市・新林公園、江の島
参考資料
『神奈川県植物誌2018』(電子版を含む) 神奈川県植物誌調査会編 神奈川県植物誌調査会発行(2018)
『日本の固有植物』 加藤雅啓・海老原淳編 東海大学出版会発行(2011)
『牧野 日本植物図鑑』 牧野富太郎著 北隆館発行(1940)