東茨 バラ目/バラ科/バラ属 花期/5月中旬~下旬 結実期/10月中旬~11月
学名/Rosa onoei Makino var. oligantha (Franch. & Sav.) H.Ohba
危険自生種稀少保護
アズマイバラ 小田原市・早川石丁場群付近 2018/05/26
丘陵地や低山地に生える落葉低木で、雌雄同株(しゆうどうしゅ)。日本の野山に自生する、野生のバラ(薔薇)の一種。日本固有種。名は、関東地方周辺にのみ産することから。蔓バラではないが茎は細いので、寄りかかれる他の植物が周囲になくば、直立せず斜上する、這う、斜面から垂れる。別名オオフジイバラ(大富士茨)、ヤマテリハノイバラ(山照葉野茨)。神奈川県内では広く自生があり普通種。湘南・鎌倉・三浦半島ではやや希。数が多くない上に、棘(とげ、植物学ではふつう「刺」と表記される)があるため人の手が入る場所ではことごとく刈られてしまい、小さくなった株が残存するのみ。花が咲くほどの大株に成長できているものをほぼまったく見かけない。アズマイバラは知名度が低い上にぱっと見の姿はノイバラ(野茨)と瓜二つなため、ありきたりなノイバラと混同されて価値が見出されていないことが非常に多いのだろうと思う。遠慮なくもりもり茂るノイバラのような旺盛な生命力は感じない。
林縁から生え出たアズマイバラ 横須賀市・観音崎公園 2024/06/14
アズマイバラの特徴
全体的な姿
ノイバラに同じ。
棘(とげ)
茎に対してほぼ垂直にぴんとまっすぐ尖る。ノイバラ(野茨)の(やや古い)棘は、根元の方に向かって先端がやや曲がって逆刺(ぎゃくし)になっている”烏帽子岩”形。「ノイバラではなくアズマイバラではないか?」と当たりを付けるには最高の手がかりである。なおノイバラの生えたばかりの若い棘も直立するので注意。
托葉
ノイバラとアズマイバラは原則として托葉の形状の違いで見分ける。以下、微細な(先っぽが丸く膨らんでいる)蜜腺は無視して考えること。ノイバラの托葉には、先端にある一対の長い裂片(写真の水色矢印)に近い長さの裂片(白色矢印)が多数生えている。アズマイバラの托葉には、先端にある一対の長い裂片(水色矢印)以外に裂片はない。
ノイバラとアズマイバラの托葉の違い
以下、同定にあまり役立たないもの。
葉の形状
頂小葉(ちょうしょうよう)の先端が細長く伸びる。とされるが、そうとはいえないものも多い上にノイバラの葉もやや先細りするもがあり、同定の手がかりにはたいしてならない。(同定を済ませた後で、やっぱりアズマイバラの頂小葉は先が長く伸びる傾向が見られますね、という感想には至る。)
葉の色
表面(おもてめん)は濃い緑色。やや照る。確かに照りはあるものの海浜植物であるテリハノイバラ(照葉野茨)の葉のように硬くててかてかつやつやするほどのものではなく、照りを強調してしまうと同定に迷いが生じるおそれあり。ノイバラの葉も濃い緑色のものがある。
葉の手触り感
アズマイバラの葉はつるつるしていると聞いたことがあるが、ノイバラと明確な差異はない。
花期
アズマイバラはノイバラよりも少し時期遅く開花する。エゴノキ(斉墩果)やスダジイ(須田椎)が見頃を迎えた頃にアズマイバラも咲いているか。ただアズマイバラは花を咲かせている株を滅多に見かけない。
花数
アズマイバラの花はノイバラほど豊かな数をまとめて付けない。花数が少ないということは開花期間も短くなるため、アズマイバラの花が人目に触れる機会は減る。観賞にも劣る。
花柱
ノイバラは無毛、アズマイバラは有毛。
アズマイバラの変種とも別種ともいわれるフジイバラ(富士茨)との見分け問題があるが、フジイバラは山地型で丹沢や箱根に自生し湘南・鎌倉・三浦半島に分布しないので、本頁では触れない。
アズマイバラの葉 横浜市栄区・横浜自然観察の森 2018/05/20
アズマイバラの葉 横浜市栄区・横浜自然観察の森 2018/05/20
アズマイバラの葉 小田原市・早川石丁場群付近 2018/08/26
アズマイバラの葉 小田原市・早川石丁場群付近 2018/08/26
アズマイバラ 葉山町・逗子市・三浦アルプス 2018/11/23
アズマイバラの托葉 横浜市栄区・横浜自然観察の森 2018/05/20
アズマイバラの托葉 横浜市栄区・横浜自然観察の森 2018/05/20
アズマイバラの托葉 小田原市・早川石丁場群付近 2018/05/26
神奈川県内にある野生バラは、アズマイバラ、ノイバラ、テリハノイバラ(照葉野茨)、モリイバラ(森茨)、フジイバラ(富士茨)、サンショウバラ(山椒薔薇)、の六種。雑種もある。
アズマイバラの花
花数が少ないのも影響して、毎年毎年、気づいたときには咲き終わっている。
アズマイバラ(ノイバラとの雑種か) 横浜市栄区・横浜自然観察の森 2018/05/20
アズマイバラの実
ノイバラほど大量にならない。
アズマイバラの未熟な実 小田原市・早川石丁場群付近 2018/08/26
アズマイバラの赤く色付いた未熟な実 小田原市・早川石丁場群付近 2018/11/02
アズマイバラの赤く色付いた未熟な実 小田原市・早川石丁場群付近 2018/11/02
アズマイバラの赤く色付いた未熟な実 小田原市・早川石丁場群付近 2018/11/02
アズマイバラの実の花柱痕 大磯町・高麗山公園 2024/11/21
横浜市栄区・横浜自然観察の森(生態園=タンポポの道0~終、タンポポの道4~5、トンボ池=大きい株あり・花数多め、葉や托葉の様子からノイバラとの雑種である疑い)
観音崎公園(観音埼灯台付近)?、三浦アルプス(南尾根の上山口小学校分岐(D10)~寺前谷戸(上山口小学校北側))
新林公園、大磯町・高麗山公園(湘南平東側から高田公園方面へ、1株)
秦野市・#くずはの広場、小田原市・早川石丁場群付近(観察最適、5月中旬)、箱根町箱根・椿ライン・箱根富士見台別荘地入口
参考資料
『日本の固有植物』 加藤雅啓・海老原淳編 東海大学出版会発行(2011)
『神奈川県植物誌2001』 神奈川県植物誌調査会編集 神奈川県立生命の星・地球博物館発行(2001)