生態系被害防止外来種リスト「重点対策外来種」のアカボシゴマダラ大陸亜種
鎌倉は”自然が豊か”だといわれる。本当だろうか。ハイキングコースを歩けば、もっともたくさん出会える動物はタイワンリスだ。豊かな声でさえずっているのはガビチョウだ。ひらひらと飛んでくるチョウはアカボシゴマダラで、神社の池で日なたぼっこをしているのはミシシッピアカミミガメ。季節を彩る花はキショウブの群生で、道端に咲き乱れるのはハルジオン。夏休みになれば、子供たちがアメリカザリガニを捕まえて遊んでいる──
とってもよくありがちな光景なのだが、名前を挙げた動植物はすべて本来ここにいてはいけないはずの外来種だ。
外来種は外来種であるというだけでここにあってはいけないと思うが、そこは一歩譲るとしても、在来種を駆逐し在来の生態系を破壊してしまう外来種(侵略的外来種という)があるからたちが悪くていけない。
本頁では、外来種とは何なのか、用語や分類を含めてできるだけ簡潔にまとめてみた。外来種にはどのような規制がかけられているのだろうか。駆除されているのだろうか。
なお神奈川県には具体的にどのような外来種がいて、どのような問題を引き起こしているのかは、各生物の個別項でおいおい紹介していきたい。
社会問題になっている”侵略的外来種”とは
┌在来種 ⇒保護
│
└外来種(移入種、帰化種)
│ ├国内外来種
│ └国外外来種
│
└侵略的外来種 ⇒一部を外来生物法で規制、駆除
在来種
在来生物とも。
もともとそこにいた生物。生物の多様性を保全し、本来のあるべき生態系を構成するあるべき生物。
外来種
外来生物とも。移入種・移入生物、帰化種・帰化生物もほぼ同じ意味。
もともとはそこにいなかった生物で、人間が意図的にあるいは意図せずとも※持ち込んだもの。
※貨物コンテナに紛れ込んでいた等
国内外来種
国内外来生物とも。
国内の別の場所から※持ち込まれた外来種。あまり顧みられてこなかったため認知度が低く、盲点になりやすい外来種。移入先の在来種に悪影響を及ぼせば、立派な侵略的外来種になりうる。
※鹿児島県の奄美大島にしかいなかった生物を誰かが神奈川県に放した等
国外外来種
国外外来生物とも。
国外から持ち込まれた外来種。
侵略的外来種
侵略的外来生物とも。
在来種(在来の生態系)に悪影響を及ぼす(可能性が疑われる)国内外来種および国外外来種。生物の多様性を破壊し、本来のあるべき生態系のバランスを崩すあるべきでない生物。社会問題として取り上げられる外来種はこの侵略的外来種である。
法的には、この一部が外来生物法で規制の対象に。
侵略的外来種に限っては、法律的に規制がかけられていなくとも、買わない、飼わない、栽培しない、捕らない、持ち帰らない、野に捨てない、放たない、売らない、譲渡しないことが期待される。
外来生物法
特定外来生物による生態系等に係る被害の防止に関する法律 平成16年(2004)6月2日公布、平成17年(2005)6月1日施行
一部の侵略的外来種に対する規制法。規制は生きているもののみが対象になる。(生きている)卵・種子は規制対象に含まれる。
違反者には罰則あり。本頁では罰則の一部(一般人にも関係してくるだろうもの)のみを例示した。なお毎年のように逮捕者を出しているため甘く見てはいけない。
例)特定外来生物に指定されている○○を無許可で飼育(栽培、販売)したとして男を逮捕、など。
外来生物法による外来種の分類
├特定外来生物 ⇒輸入のみならず様々な強力な規制がかけられる
├未判定外来生物 ⇒輸入規制を受ける
├種類名証明書の添付が必要な生物 ⇒輸入規制を受ける
└要注意外来生物 ⇒注意喚起にとどまる
特定外来生物
在来種に悪影響を及ぼす(可能性が疑われる)侵略的外来種。予め名を挙げて種を指定し、以下の行為を原則禁止する。
上記の法的規制がかけられる種は”特定外来生物に指定されている種だけ”であり、外来種全般・侵略的外来種全般ではない。要注意外来生物も規制対象でない。
輸入の禁止
特定外来生物の輸入は原則禁止する。
例外)学術研究などの目的で環境大臣の許可を受けた場合
大学や博物館などが対象であって、個人が許可を得られるものではない。
販売、譲渡の禁止
法律上は「譲渡しもしくは譲受けまたは引渡しもしくは引取り」と規定。これを「譲渡し等」と略し、原則禁止する。
罰則
一年以下の懲役もしくは百万円以下の罰金に処し、またはこれを併科する。
法人に対しては五千万円以下の罰金刑を科する。
販売または頒布をした場合は、三年以下の懲役もしくは三百万円以下の罰金に処し、またはこれを併科する。
法人に対しては一億円以下の罰金刑を科する。
飼育、栽培、保管、運搬の禁止
法律上は「飼養、栽培、保管または運搬」と規定。これを「飼養等」と略し、原則禁止する。
罰則
一年以下の懲役もしくは百万円以下の罰金に処し、またはこれを併科する。
法人に対しては五千万円以下の罰金刑を科する。
販売または頒布をする目的の場合、三年以下の懲役もしくは三百万円以下の罰金に処し、またはこれを併科する。
法人に対しては一億円以下の罰金刑を科する。
例外1)学術研究などの目的で環境大臣の許可を受けた場合
大学や博物館などが対象であって、普通の個人が許可を得られるものではない。愛玩動物(ペット)としての飼育は許可されない。
例外2)必要な防除(駆除等)を行う場合
国、県・市町村、民間団体(学校、公園の管理業者等)などが、環境大臣の認定などを受けて、公示をした上で行う。収容施設・処理施設へ運ぶ等の生きたままの運搬なども可能に。
駆除に限っては誰でも自由に行うことができる。
特定外来生物を駆除したい
特定外来生物(哺乳類・鳥類を除く※)の駆除に限っては、許可や認定などは必要とせず、誰でも自由に行うことができる。捕獲・採集したものはその場で殺す必要あり。生きたまま保管すること、生きたまま他所へ運搬することは禁止。
※野生のすべての鳥類(卵を含む)および哺乳類の捕獲・採取・損傷は原則禁止されている。(鳥獣保護管理法第8条)
野外への放出の禁止
法律上は「特定飼養等施設の外で放出、植栽または播種※」と規定。これを「放出等」と略し原則禁止する。
※播種(はしゅ)。種を播く(まく、蒔く)こと。
罰則
一年以下の懲役もしくは百万円以下の罰金に処し、またはこれを併科する。
法人に対しては五千万円以下の罰金刑を科する。
例外1)キャッチ&リリース
捕獲した特定外来生物をその場で放すことは可能。例えば、ブラックバスを釣った、ウシガエルを網ですくった、などの場合は、(1)その場で放す(キャッチ&リリース)、(2)その場で殺す(生きていないものであればそれを持ち帰って食べるなども可能)、の二択になる。生きたまま持ち帰ること(運搬)は禁止。
特定外来生物のリリースが認められている点には違和感を感じるものの、釣り人や魚捕りに来た子供に駆除を強要することは酷という判断か。本法からは、駆除を行う主体は基本的には個人ではなく行政(国、県、市町村)だという考えが読み取れる。なお、駆除の名を借りたみだりな殺生は動物愛護法(動物の愛護及び管理に関する法律、昭和48年(1973)10月1日公布、昭和49年(1974)4月1日施行)に抵触するおそれも。
キャッチ&リリースは条例等で禁止されていることも多いので注意(特にオオクチバス、コクチバス、ブルーギル)。
神奈川県内におけるキャッチ&リリースの規制
内水面※1漁場管理委員会指示
コクチバスは、キャッチ&リリース禁止。
オオクチバスまたはブルーギルは、共同漁業権の設定された漁場※2においてはキャッチ&リリース禁止。ただし、芦ノ湖ではキャッチ&リリース可。
※1 内水面(ないすいめん)は水産業用語で、淡水の湖・池・川などを指す。あまり使われないが、外水面(がいすいめん)といったら海を指す。
※2 多摩川、相模川水系、酒匂川水系、早川水系、千歳川水系、芦ノ湖
上記の指示は期間を定めたものであるが、更新されてゆくので事実上恒久的な規制になる。
罰則
1年以下の懲役もしくは50万円以下の罰金または拘留もしくは科料
特定外来生物に指定されている種の一覧
平成28年(2016)8月9日現在
特定外来生物 | 神奈川県およびその周辺における状況 |
---|---|
哺乳類(25種類) | |
フクロギツネ | |
ハリネズミ属の全種 | アムールハリネズミ(マンシュウハリネズミとも)が小田原市(曽我など)、静岡県伊東市に定着 |
タイワンザル | 東京都伊豆大島に定着 |
カニクイザル | |
アカゲザル | 千葉県房総半島に定着しニホンザルと交雑進む |
タイワンザル×ニホンザル | |
アカゲザル×ニホンザル | 千葉県房総半島に定着 |
ヌートリア | 相模川で目撃例、定着には疑問符 |
クリハラリス(タイワンリス) | 相模川の東側の相模湾沿岸地域(川崎市・横浜市・横須賀市・三浦市・葉山町・逗子市・鎌倉市・藤沢市・茅ヶ崎市)、東京都伊豆大島に定着 |
フィンレイソンリス | |
タイリクモモンガ (エゾモモンガを除く) |
|
トウブハイイロリス | |
キタリス (エゾリスを除く) |
|
マスクラット | |
アライグマ | 定着 |
カニクイアライグマ | アライグマに混じって定着している可能性 |
アメリカミンク | |
フイリマングース | |
ジャワマングース | |
シママングース | |
アキシスジカ属の全種 | |
シカ属の全種 (ホンシュウジカ、ケラマジカ、マゲシカ、キュウシュウジカ、ツシマジカ、ヤクシカ、エゾシカを除く) |
|
ダマシカ属の全種 | |
シフゾウ | |
キョン | 千葉県房総半島、東京都伊豆大島に定着 |
鳥類(5種類) | |
カナダガン | 山北町の丹沢湖、山梨県河口湖・山中湖などに定着、ただし平成27年(2015)国内根絶 |
ガビチョウ | 定着 |
カオジロガビチョウ | |
カオグロガビチョウ | 多摩川流域に定着 |
ソウシチョウ | 定着 |
爬虫類(16種類) | |
カミツキガメ | 多摩川・相模川、三浦市小松ヶ池公園、藤沢市引地川親水公園・大庭遊水地生態園 |
アノリス・アルログス | |
アノリス・アルタケウス | |
アノリス・アングスティケプス | |
グリーンアノール | |
ナイトアノール | |
ガーマンアノール | |
アノリス・ホモレキス | |
ブラウンアノール | |
ミドリオオガシラ | |
イヌバオオガシラ | |
マングローブヘビ | |
ミナミオオガシラ | |
ボウシオオガシラ | |
タイワンスジオ | |
タイワンハブ | |
両生類(11種類) | |
プレーンズヒキガエル | |
キンイロヒキガエル | |
オオヒキガエル | |
アカボシヒキガエル | |
オークヒキガエル | |
テキサスヒキガエル | |
コノハヒキガエル | |
キューバズツキガエル(キューバアマガエル) | |
コキーコヤスガエル | |
ウシガエル | 定着 |
シロアゴガエル | |
魚類(14種類) | |
チャネルキャットフィッシュ | |
ノーザンパイク | |
マスキーパイク | |
カダヤシ | 定着 |
ブルーギル | 定着 |
コクチバス | 定着 |
オオクチバス | 定着 |
ストライプトバス | |
ホワイトバス | |
ストライプトバス×ホワイトバス | |
ヨーロピアンパーチ | |
パイクパーチ | |
ケツギョ | |
コウライケツギョ | |
クモ・サソリ類(7種類) | |
キョクトウサソリ科の全種 | |
Atrax属の全種 | |
Hadronyche属の全種 | |
L. reclusa | |
L. laeta | |
L. gaucho | |
ゴケグモ属の全種 | セアカゴケグモ、ハイイロゴケグモが定着 |
甲殻類(5種類) | |
Astacus属の全種 | |
ウチダザリガニ、 タンカイザリガニ(シグナルクレイフィッシュ) |
|
ラスティークレイフィッシュ | |
Cherax属の全種 | |
モクズガニ属の全種 (モクズガニを除く) |
|
昆虫類(9種類) | |
テナガコガネ属の全種 (ヤンバルテナガコガネを除く) |
|
クモテナガコガネ属の全種 | |
ヒメテナガコガネ属の全種 | |
セイヨウオオマルハナバチ | |
ヒアリ | |
アカカミアリ | |
アルゼンチンアリ | 横浜市中区本牧埠頭に定着 |
コカミアリ | |
ツマアカスズメバチ | |
軟体動物等(5種類) | |
カワヒバリガイ属の全種 | |
クワッガガイ | |
カワホトトギスガイ | |
ヤマヒタチオビ (オカヒタチオビ) |
|
ニューギニアヤリガタリクウズムシ | |
植物(13種類) | |
オオキンケイギク | 定着 |
ミズヒマワリ | 川崎市等々力緑地に定着 |
オオハンゴンソウ(通称ルドベキア、ハナガサギク、ヤエザキハンゴンソウ等) | 定着 |
ナルトサワギク | |
オオカワヂシャ | 多摩川に定着 |
ナガエツルノゲイトウ | |
ブラジルチドメグサ | |
アレチウリ | 定着 |
オオフサモ | 定着 |
ルドウィギア・グランディフロラ(オオバナミズキンバイ等) | |
スパルティナ属全種 | |
ボタンウキクサ | |
アゾラ・クリスタータ |
上記の通り、一般に馴染みのないものが特定外来生物に指定されている一方で、ミシシッピアカミミガメ(ミドリガメ)、アメリカザリガニ、スクミリンゴガイ、オオカナダモ(アナカリス)、セイヨウタンポポなど、身近な在来種を既に駆逐しているものが指定から漏れているなど、在来の生態系を保全するという目的では欠陥が多い。社会的なバランス(農水産業・観光業など多方面への経済的配慮等)を取った結果といえる。
未判定外来生物
在来種に悪影響を及ぼす侵略的外来種かどうか不明なため、悪影響の有無が判断されるまで輸入に規制がかけられる生物。一般人には無関係。
種類名証明書の添付が必要な生物
特定外来生物ないし未判定外来生物ではないけれど、よく似ていて紛らわしいため、輸入する際には公的な証明書を税関に添付する必要がある生物。一般人には無関係。
要注意外来生物
在来種に悪影響を及ぼす(可能性が疑われる)侵略的外来種。外来生物法の理念に基づいて予め名を挙げて種を指定し、在来の生態系に悪影響を及ぼす(おそれが高い)ことを世に広く周知させ注意喚起を図る。特定外来生物がレッドカード(退場処分)なら、要注意外来生物はイエローカード(注意)に相当。輸入、販売、譲渡、飼育、栽培、保管、運搬、野外への放出などの法的規制は受けない。
要注意外来生物に指定されていた種の一覧
148種類。
平成27年(2015)3月26日廃止(発展的解消)⇒新たに生態系被害防止外来種リストを選定へ
生態系被害防止外来種リスト
平成27年(2015)3月26日公表
旧要注意外来生物の改訂版。
外来種対策への国民のより積極的な参加・協力を促進する、掲載種の利用を抑制し適切に管理することを促す、防除等の外来種対策を普及・促進させる、外来種の調査研究・モニタリングの実施を促進させる、などを選定の目的とする。
生態系被害防止外来種リストのカテゴリ区分
国外由来の外来種
├定着予防外来種
│ ├侵入予防外来種
│ └その他の定着予防外来種
├総合対策外来種
│ ├緊急対策外来種 ⇒積極的な駆除を推進?
│ ├重点対策外来種
│ └その他の総合対策外来種
└産業管理外来種
国内由来の外来種
├定着予防外来種
│ ├侵入予防外来種
│ └その他の定着予防外来種
├総合対策外来種
│ ├緊急対策外来種 ⇒積極的な駆除を推進?
│ ├重点対策外来種
│ └その他の総合対策外来種
└産業管理外来種
定着予防外来種
未定着の外来種を選定。
総合対策外来種
定着済の外来種を選定。
産業管理外来種
産業並びに生業の維持または公益性において重要で、代替性がなく、その利用にあたっては留意事項に沿って適切な管理を行うことが必要な外来種を選定。
なお、旧要注意外来生物同様に、外来生物法に基づく、輸入、販売、譲渡、飼育、栽培、保管、運搬、野外への放出などの法的規制は受けない。
生態系被害防止外来種を駆除したい
生態系被害防止外来種であることをのみを根拠にしてできることは、ない。従って、在来種にできることと同じ範囲で駆除を行うことになる。
釣った魚が生態系被害防止外来種だったら、キャッチ&リリースはせずにその場で殺す。自宅に生えていた植物が生態系被害防止外来種だったら、引っこ抜いて廃棄する。他人の私有地や公園等で生態系被害防止外来種を発見した場合は、その管理者に報告し駆除を促す。など。
生態系被害防止外来種に指定されている種の一覧
429種類(動物229種類、植物200種類)。
※法令等は平易な言葉に改めて表記した。