フユノハナワラビ

冬の花蕨 ハナヤスリ目/ハナヤスリ科/ハナワラビ属 見頃/11月
学名/Botrychium ternatum (Thunb.) Sw. var. ternatum

自生種稀少保護

フユノハナワラビの胞子飛散前 横浜市南区・こども植物園 2016/10/25

#フユノハナワラビの胞子飛散前 横浜市南区・こども植物園 2016/10/25

林床や草地(だったが冬なので雑草があまり茂っていない場所)に生える多年草。湘南・鎌倉・三浦半島では、ハナワラビの仲間としてはオオハナワラビ(大花蕨)に次いで多いらしい、が、実際のところ見かける機会はなかなかないのでは。オオハナワラビが日陰がちな場所に生えるのに対し、フユノハナワラビは明るい半日陰を好む。オオハナワラビよりも一回り小型。とはいえ大きく成長できていないオオハナワラビもふつうにあるので、サイズ感での見分けはできない。

フユノハナワラビ 横浜市南区・こども植物園 2016/10/25

#フユノハナワラビ 横浜市南区・こども植物園 2016/10/25

シダ植物なので、葉に見えるものは栄養葉(えいようよう)、花に見えるものは胞子葉(ほうしよう)という。※本頁では便宜的にそれぞれ葉・花と呼ぶ。

フユノハナワラビの葉 秦野市・葛葉緑地 2019/11/10

フユノハナワラビの葉 秦野市・葛葉緑地 2019/11/10

フユノハナワラビの葉(栄養葉)は、葉全体を漠然と眺めたときにオオハナワラビのような”鋭利な三角形”という印象を受けず、鋸歯は細かく深めに切れ込まず鋭からず、どこもかしこも丸みを帯びた柔らかな雰囲気を醸し出しているだろう。ちょっとの違いでしかないが。

フユノハナワラビの葉 横浜市南区・こども植物園 2016/10/25

#フユノハナワラビの葉 横浜市南区・こども植物園 2016/10/25

フユノハナワラビの葉 東京都調布市・神代植物公園植物多様性センター 2020/02/08

#フユノハナワラビの葉 東京都調布市・神代植物公園植物多様性センター 2020/02/08

フユノハナワラビとオオハナワラビの葉の鋸歯の比較 秦野市・葛葉緑地 2019/11/10

フユノハナワラビとオオハナワラビの葉の鋸歯の比較 秦野市・葛葉緑地 2019/11/10

日の当たる場所に生えているものは冬に葉の表側のみほんのり赤く紅葉することがある。明確に赤っぽければアカフユノハナワラビ(赤冬の花蕨)かアカハナワラビ(赤花蕨)である可能性も。ただし両種はフユノハナワラビ以上の稀少種。

フユノハナワラビのすこしだけ赤みを帯びた葉 東京都調布市・神代植物公園植物多様性センター 2018/11/10

#フユノハナワラビのすこしだけ赤みを帯びた葉 東京都調布市・神代植物公園植物多様性センター 2018/11/10

フユノハナワラビの花(胞子葉)

シダ植物なので花を咲かせて花粉や種子を作るのではなく、胞子を飛散させることで増殖する。オオハナワラビのように春まで直立していることはなく、胞子の飛散が完了すれば枯れて倒れるのがふつう。見頃は11月中旬。


東京都調布市・#神代植物公園植物多様性センター(1株のみ、秋に植え付けているものなので状態不良)、横浜市南区・#こども植物園(少ない)、横浜市戸塚区・#舞岡公園(古民家裏)

小網代の森、森戸川源流、#東慶寺(本堂前庭)、#大船フラワーセンター(森の小道に1株、咲く)

大楠山(なし

大楠山のフユノハナワラビ


田中澄江『花の百名山』(文藝春秋、1980)にて横須賀市の大楠山(おおぐすやま)がフユノハナワラビ咲く山として紹介されたことから一躍有名に。とはいえ、じつは──

「雑木林の中の道を、秋谷に近い前田橋に下る。両側が深くえぐれて、姿をかくしやすい。林にはヤマザクラが多く、自動車の通れない狭い石ころ道の両側には、キチジョウソウやフユノハナワラビがいっぱいある。軽井沢のカラ松林の中で、よくナツノハナワラビを見つけることがあるけれど、私は葉にぼってりとした厚みのあるフユノハナワラビの方が好きだ。」(以上、同書16頁より引用)

「1 高尾山・フクジュソウ」の次に挙げられている「2 大楠山・フユノハナワラビ」であるが、項内のほとんどは中世の三浦一族にまつわる随想で占められており、大楠山のフユノハナワラビに関する記述はこれしかない。


現在の大楠山で見られるのはオオハナワラビばかりで、フユノハナワラビの目撃情報はとんと聞こえてこない。『神奈川県植物誌2018』によればかつては自生があったようだが、今はほぼないものと考えてよさそうである。個人ブログ等で紹介されている”大楠山のフユノハナワラビ”の写真は、ざっと確認した限りいずれもオオハナワラビであった。ただし一点のみフユノハナワラビの可能性を疑わせるものがあったため、「大楠山にフユノハナワラビはない」とは言い切れないところ。できるだけ早いうちに実見に訪れたい。

厚木市・#荻野運動公園野草園、秦野市・葛葉緑地

参考資料

『神奈川県植物誌2018』(電子版を含む) 神奈川県植物誌調査会編 神奈川県植物誌調査会発行(2018)

『神奈川県植物誌2001』 神奈川県植物誌調査会編集 神奈川県立生命の星・地球博物館発行(2001)

関連記事 – 仲間・似ている・紛らわしい

オオハナワラビ

フォローする