顎無 オモダカ目/オモダカ科/オモダカ属 花期/7月下旬~9月上旬、(箱根)7月中旬~8月上旬
学名/Sagittaria aginashi Makino
環境省レッドリスト「準絶滅危惧(NT)」
神奈川県レッドリスト2020「絶滅危惧IA類」
神奈川県レッドリスト2006「絶滅」
#アギナシの雄花 茅ヶ崎市浜之郷 2024/08/15 09:22
山地や丘陵地の日当たりの良い池や水路や田んぼなどの浅い水辺に生える葉の形がおもしろい多年草で、雌雄同株(しゆうどうしゅ)の雌雄異花。湿生植物または、水底の土中に根を張って葉や花を水面より上に突き出す抽水植物。ぱっと見の姿は同属のオモダカ(面高)にそっくりで、葉は同じく珍妙な逆Y字形。アギナシという奇妙な名前の由来は、植物学者の牧野富太郎博士によれば、最初に生え出て来る幼葉が逆Y字でない単純な形であることから顎(あご)がないと言われたとか何とか。但し、オモダカも小さいながら同様の葉を出すので、ちょっと意味がわからない。オモダカにあってアギナシにないものといえば、秋にできる塊茎(かいけい)。塊茎先端は顎のように長く突き出た形状と言えなくもないので、もしかしたらアギナシは塊茎ができないものの意、だったりするかもしれない。神奈川県内では、昭和時代(-1989)末期に川崎市麻生区(あさお-)のものが失われたのを最後に県内絶滅とされていたが、のちに箱根湿生花園の仙石原湿原植生復元区で発見されるという珍事により県内復活。仙石原湿原のいずこかで人知れず命を繋いでいたのかもしれない。湘南・鎌倉・三浦半島に自生なし。栽培ものも見た例(ためし)なし。近隣の東京都・千葉県・静岡県などでも絶滅危惧種になっている希少種なのだが、田んぼに生えると迷惑な水田雑草として駆除対象になってしまうことも。
湿地に生えたアギナシ 箱根湿生花園 2024/06/19
アギナシ 箱根湿生花園 2024/06/19
アギナシの葉 箱根湿生花園 2023/08/03
アギナシの顎のない葉 箱根湿生花園 2024/06/08
アギナシの顎のない葉 箱根湿生花園 2023/08/03
ぱっと見がそっくりなオモダカとの見分けが問題になる。(以下の表参照)
オモダカとアギナシの見分け方 | ||
オモダカ | アギナシ | |
葉の形 | 逆Y字形 頂裂片≦側裂片 | 逆Y字形 頂裂片≧側裂片 |
葉の側裂片の先端 | 尖る | 丸い |
葉柄の稜 | 大きくて少ない | 小さくて多い |
花の位置 | 葉に埋もれて咲く | 葉よりも高く突き出て咲く |
増え方 | 地下茎を伸ばして先端に塊茎を作る | 株元の葉腋に小球芽を多数作る |
株の大きさは、オモダカを基準としてアギナシの方がより大型化するのがふつう。但し、ときに巨大なオモダカがないわけでなく、アギナシもオモダカと大差ない小さめな個体も特に箱根湿生花園には多くある。
葉の形は、オモダカもアギナシも共に逆Y字形。ふつう、葉身はオモダカは細身なものから幅広なものまで個体差大きく、アギナシは細身。だが、東京都八王子市・長池公園のアギナシの葉は巾広い。
#アギナシの葉 茅ヶ崎市浜之郷 2024/08/24
真夏の暑い炎天下が苦手で葉を閉じ気味にしている、のかと思いきや、夜間も閉じていたので、原因は不明。
#アギナシの閉じ気味の葉 茅ヶ崎市浜之郷 2024/08/26
アギナシの幅広な葉 東京都八王子市・長池公園 2019/08/07
オモダカは前方に突き出た頂裂片より後方に突き出た側裂片の方が長く、アギナシはその逆で頂裂片の方が長い。
アギナシの葉 箱根湿生花園 2023/08/03
#アギナシの葉 茅ヶ崎市浜之郷 2024/08/26
側裂片の先端は、微細な違いであるが、オモダカは鋭く尖り、アギナシは丸くなる。
アギナシの葉の丸っこい側裂片先端 箱根湿生花園 2024/06/08
アギナシの葉の丸っこい側裂片先端 箱根湿生花園 2024/06/08
アギナシの葉の丸っこい側裂片先端 箱根湿生花園 2024/06/19
参考)オモダカの葉の鋭利に尖った側裂片先端 開成町延沢 2024/08/23
葉柄(ようへい)にも違いあり。オモダカの葉柄には大きな稜(りょう、出っ張り)が少数あり、触ると”断面は四角形か、五角形か”という感覚がしよう。アギナシの葉柄には小さな稜が多数ある。
#アギナシの葉柄基部 茅ヶ崎市浜之郷 2024/08/24
#アギナシの葉柄基部 茅ヶ崎市浜之郷 2024/08/24
#アギナシの葉柄の(小さな稜が多数ある)断面 茅ヶ崎市浜之郷 2024/08/24
参考)オモダカの葉柄の(大きな稜が少数ある)断面 茅ヶ崎市浜之郷 2024/08/24
#アギナシと#オモダカの葉柄の断面の比較 茅ヶ崎市浜之郷 2024/08/24
アギナシの花
オモダカと似たような形態の花序を付ける。但し、オモダカの花茎(かけい)は背が低いため花は葉に埋もれるように咲いて、アギナシの花茎は葉よりもかなり上の方まで背高に突き出て花を咲かせる、といった違いあり。
#アギナシの立ち上がり始めた蕾 茅ヶ崎市浜之郷 2024/08/08
#アギナシの蕾 茅ヶ崎市浜之郷 2024/08/11
葉よりも高く突き出て咲く#アギナシ 茅ヶ崎市浜之郷 2024/08/17 10:56
花茎最下の一段のみあるいは二段ないし三段のみが雌花で、それより上はすべて雄花。最下段からとは限らないが、基本的には下の方から徐々に少数個ずつ咲いて行く。従って、雌花が先に咲く雌性先熟(しせいせんじゅく)。雌花は数が少ないため二日間くらいで咲き終わってしまうので見逃してしまわないよう要注意。日の出から開花し(時期や日当たり具合などによって差異は出ようが)正午前後には閉じてしまう、一日花。花見は正午前の11時までに済ませるのが無難。花径は2cm程度。
#アギナシの雌花 茅ヶ崎市浜之郷 2024/08/14 07:56
#アギナシの雌花 茅ヶ崎市浜之郷 2024/08/14 08:13
#アギナシの雌花 茅ヶ崎市浜之郷 2024/08/14 07:49
#アギナシの雌花 茅ヶ崎市浜之郷 2024/08/14 07:56
#アギナシの(雌花の)雌蕊 茅ヶ崎市浜之郷 2024/08/14 08:02
#アギナシのしぼみ始めた雌花 茅ヶ崎市浜之郷 2024/08/26 12:26
アギナシの午後にしぼんだ雌花 箱根湿生花園 2024/07/23 14:28
#アギナシの雄花 茅ヶ崎市浜之郷 2024/08/15 09:15
#アギナシの雄花 茅ヶ崎市浜之郷 2024/08/15 09:14
#アギナシの雄花 茅ヶ崎市浜之郷 2024/08/15 09:15
#アギナシの雄花 茅ヶ崎市浜之郷 2024/08/15 09:22
#アギナシの雌花の花柄と萼 茅ヶ崎市浜之郷 2024/08/14 08:07
#アギナシの雄花の花柄と萼 茅ヶ崎市浜之郷 2024/08/15 09:17
アギナシの実
#アギナシの若い実 茅ヶ崎市浜之郷 2024/08/15
アギナシの若い実 箱根湿生花園 2024/07/29
東京都文京区・#小石川植物園(公開温室前の池に鉢植え)、東京都八王子市・長池公園(第1デッキ=7月下旬~8月中旬・巨大株で葉は幅広い・藪にまみれる・名札あり、長池公園自然館(長池ネイチャーセンター)テラスに鉢植え=雑多に混植・生育不良)
箱根湿生花園(仙石原湿原植生復元区の東端に多からず少なからず、園内にオモダカはない)
参考資料
『神奈川県植物誌2018』(電子版を含む) 神奈川県植物誌調査会編 神奈川県植物誌調査会発行(2018)