丘立波草 シソ目/シソ科/タツナミソウ属 花期/4月末~5月
学名/Scutellaria brachyspica Nakai & H.Hara
自生種稀少保護
オカタツナミソウ 藤沢市・新林公園 2022/05/15
丘陵地の林内のハイキングコース沿いや林縁部などにある、半日陰ないし明るめな日陰の草地に生える多年草。神奈川県内では分布にやや偏りがあるようで、三浦半島の付け根にある鎌倉市からその北方の横浜市にかけてと、秦野市からその北方の大山やら宮ケ瀬湖やらの方面にかけて、が主。分布域の中ではさほど珍しいものではないかもしれないが、そこから外れてしまうとぜんぜん見当たらない。民家の庭や鎌倉の社寺でもよく栽培されるコバノタツナミ(小葉の立波)とは違って、茎が草丈20cmを超えて(ふつうは30cm前後)ひょろひょろっと背高に伸長する。立ち上がってくる茎の数は多くはなく、まばら。葉は数が少なめで、茎に均等には付かず最上部に集まり気味(茎下部に付く葉が少ない)で、茎最上部の葉が一番大きい(茎下部の葉はやや貧相で小さめ)。草地に生えるので競合する他の野草に対抗する措置なのだろう。茎に毛が密生するが、ことごとく縮れ気味で、下向き。花序は縦長にならず、ふつう短い。小花はぎゅっと縮まって集合して咲く、(コバノタツナミを見慣れていると)ちょっと釣り合いの悪い妙な姿の花序になるのが大きな特徴。小花はほぼ直立し、花冠筒部はほぼ真上に向かって伸びる。唇弁(しんべん)の斑紋(はんもん)はやや不明瞭。これらを満たしていればオカタツナミソウである。
草地に生えたオカタツナミソウ 藤沢市・新林公園 2022/05/15
ちょっと小花の数が少ないオカタツナミソウ 藤沢市・新林公園 2022/05/15
林縁の草地に生えたオカタツナミソウ 鎌倉市・山崎1号緑地 2022/05/18
#オカタツナミソウ(その下部の地面すれすれにある白花はコバノタツナミ) 茅ヶ崎市浜之郷 2022/05/04
#オカタツナミソウ 茅ヶ崎市浜之郷 2022/05/08
オカタツナミソウの草姿 藤沢市・新林公園 2022/05/15
オカタツナミソウの草姿と特徴 藤沢市・新林公園 2022/05/15
#オカタツナミソウと#コバノタツナミの草姿の違い 茅ヶ崎市浜之郷 2022/04/18
葉は、茎上部に偏って付き、最上部の葉が最も大きい。従って、花序の直下に十字対生の葉がよく目立つ。ちょっと苞(ほう)のように。鋸歯は片側七個余り。
オカタツナミソウの花序直下の大きな葉が目立つ草姿 藤沢市・新林公園 2022/05/15
オカタツナミソウの茎上部の大きな葉 藤沢市・新林公園 2022/05/15
オカタツナミソウの茎に密生する下向きの縮れ毛 藤沢市・新林公園 2022/05/15
オカタツナミソウの茎に密生する下向きの縮れ毛 藤沢市・新林公園 2022/05/15
湘南・鎌倉・三浦半島でもっとも誤認しやすいだろうものはタツナミソウ。花序は縦長な姿になって咲き、茎の毛は開出毛(かいしゅつもう)が目立ち、葉は(茎最株のものを除けば)ほぼ同じ大きさで茎に均等に付き、鋸歯は多め。まず出遭う機会はないだろうヤマタツナミソウ(山立波草)は、小花が直立ではなくやや前のめりに付き、茎の毛は上向きで、茎上部の葉の鋸歯は尖り気味。一番よく見かけるコバノタツナミは草丈20cm以下で、地面に近いところでもこもこ繁るので、違いは明確。
オカタツナミソウの花
花色はシソ科にありがちな紫色。小花はタツナミソウと同様に、ほぼ真上に向かってぴんと立つように咲く。
オカタツナミソウ 藤沢市・新林公園 2017/05/15
#オカタツナミソウ 茅ヶ崎市浜之郷 2022/05/08
#オカタツナミソウ 茅ヶ崎市浜之郷 2022/05/08
オカタツナミソウの花序の裏側 藤沢市・新林公園 2022/05/15
#オカタツナミソウの直立する小花 茅ヶ崎市浜之郷 2022/05/08
オカタツナミソウの花の最大の特徴は、花序が縦長にならず、縮こまった姿になることである。が、特に栽培しているものが咲き進んでいくと意外と縦長に伸びることもある。ただしその場合も、縦長の花序全体が開花しているこということはなく、長い花序の上部のみだけが咲いている姿になる。
#オカタツナミソウの咲き進んで縦に長く伸びた花序 茅ヶ崎市浜之郷 2022/05/08
オカタツナミソウの実
タツナミソウの仲間に同形の実ができる。スズメ(雀)の嘴(くちばし)のような形の上下に分かれる萼があり、小花の花冠はその萼の間から突き出ているのであるが、咲き終わって花冠が散ると上下の萼が口を閉じてその中で種子を作る。実になると皿のような形状の謎の物体が目に留まるようになるが、これは上側の萼に付属していたリーゼント。開花中は花冠筒部(とうぶ)の後方で立った姿で隠れている。花冠が散るとこのリーゼントが倒れて前にせり出してくるのでよく目立つ姿に。実が熟すとリーゼント付きの上側の萼がぽろっと脱落し、中に納まっていた種子が露出。風に揺られるなどした際に、種子はぱらぱらと零(こぼ)れ落ちる仕組み。
オカタツナミソウの若い実 藤沢市・新林公園 2022/05/15
オカタツナミソウの若い実 茅ヶ崎市浜之郷 2022/05/08
#オカタツナミソウの縦に長く伸びた果序 茅ヶ崎市浜之郷 2022/05/20
参考資料
『神奈川県植物誌2018』(電子版を含む) 神奈川県植物誌調査会編 神奈川県植物誌調査会発行(2018)