関東寒葵 コショウ目/ウマノスズクサ科/カンアオイ属 花期/10月~11月
自生種稀少保護
#カンアオイ 横浜市戸塚区・俣野園 2017/02/13
林床に生える常緑の多年草。日本固有種。寒い真冬でも青々としている葉の文様が美しいアオイ。関東のみに生息するわけではなく、単にカンアオイと呼ぶことも。神奈川県内にはカントウカンアオイ類似のものが他にも何種かあるが、おもしろいことに分布域が重複せず棲み分けがなされている。これらの同定は難しく、葉を眺めただけでは見分けはつかない。とはいえ湘南・鎌倉・三浦半島にあるのはカントウカンアオイのみである。三浦丘陵のハイキングコースを歩いていれば出くわす機会はままあるだろう。
葉はシクラメンに似ており、ギフチョウ(岐阜蝶)の幼虫の食草としても知られる。葉は夏の終わり、9月下旬に生え変わっているか。
カンアオイの葉 藤沢市・新林公園 2017/01/11
ランヨウアオイのような形状をした、カントウカンアオイの葉 葉山町/逗子市・三浦アルプス 2018/12/21
カンアオイの葉裏 藤沢市・新林公園 2017/01/11
なお徳川家の家紋「三つ葉葵」はカンアオイの仲間であるフタバアオイ(双葉葵)がモデル。
カンアオイを探していると必ず邪魔になるのがキヅタ(木蔦)の葉。両者を並べて見比べてしまえばこれっぽっちも似てなんかいやしないのだが、共に林の中の地面近くに生えているためか意外と騙されることが多い。山歩きをしながら視界に入ってくる代り映えしない数千枚のキヅタの葉の中から異質なカンアオイの一枚の葉にピンとくることができるかどうかが、カンアオイ発見の鍵。
カンアオイの葉(中央やや上)と、キヅタの葉(その左下) 藤沢市・新林公園 2017/01/11
参考)#シクラメン 鎌倉市材木座・五所神社 2017/02/25
アオイというとタチアオイ(立葵)を思い浮かべる方も多いかと思うがまったくの別種。
カンアオイの花
花は、葉柄の付け根部分の地面すれすれに咲く。下半分は地面にめり込み、上は葉柄にぐしゃっと押し潰されるようなかなり窮屈な状態。ふつう更にその上に落ち葉が積もっているので、花が咲いているかなんて見えやしない有様である。開花は10月頃から。その後も外観をまったく変えないまま実となって春に至る。初夏の頃には腐って消えるか。※本項では、花も実も姿が変わらないためいずれも区別せず花として掲載する。
#カンアオイ 横浜市南区・こども植物園 2017/10/18
花の上に積もった落ち葉を払いのけた#カンアオイ 横浜市戸塚区・俣野園 2017/02/13
※以下本項掲載の花は、上に積もった落ち葉を軽く払いのけ、花周囲の落ち葉や土を少し取り除いて撮影。無論、撮影後は元の状態に復元した。
カンアオイ 藤沢市・新林公園 2017/01/11
カンアオイ 藤沢市・新林公園 2017/01/11
カントウカンアオイは、花弁(のように見える萼裂片)基部の口の周りに白色の縁取り模様ができる。ズソウカンアオイとオトメアオイの花にはこの白色リングが見られないので、花があれば見分けは簡単。カントウカンアオイの花弁は少し反り返るのも特徴。
カンアオイ 藤沢市・新林公園 2017/01/11
カンアオイ 藤沢市・新林公園 2017/01/11
花筒(のように見える萼筒)内側の縦の隆起線は9~12本と少なめ。カッターナイフで切り開いてみなければまったく見えないのだが。
カンアオイ 藤沢市・新林公園 2017/01/11
カンアオイの仲間はずいぶんとおっとりした性格で、とにかく成長が遅い。繁殖力も弱く、分布域を1km広げるのに一万年もの時を要するとの試算がある。
横浜市戸塚区・#俣野園
馬堀自然教育園、観音崎公園、武山、三浦アルプス、新林公園
衣笠山公園、小網代の森(分布せず)、#報国寺、散在ガ池森林公園
参考資料
『日本の固有植物』 加藤雅啓・海老原淳編 東海大学出版会発行(2011)
『神奈川県植物誌2001』 神奈川県植物誌調査会編集 神奈川県立生命の星・地球博物館発行(2001)