ヨシ(アシ)

葦、芦、葭 イネ目/イネ科/ヨシ属 花期/10月上旬~中旬 結実期(穂の見頃)/10月下旬~11月
学名/Phragmites australis (Cav.) Trin. ex Steud.

自生種保護

ヨシ(アシ)の穂 茅ヶ崎市浜之郷 2019/11/16

ヨシ(アシ)の穂 茅ヶ崎市浜之郷 2019/11/16

湿地などに生える多年草。オギ(荻)と共によくススキ(芒)と混同される。元の名はアシ。「悪し」に通じて縁起が悪いとして「良し」に反転してヨシと呼ばれるようになった。標準和名(この植物を指す際に植物関係の学者が一般的に用いる名、環境省や学会等がこれと決めて使用を推奨しているものではない)はヨシ。漢字表記はアシもヨシも同じ。現代でも一般にはアシの呼称が用いられることが多い。※本頁でも(タイトルを除いて)アシを用いる。

ヨシ(アシ) 藤沢市・引地川親水公園大庭遊水地 2018/10/02

ヨシ(アシ) 藤沢市・引地川親水公園大庭遊水地 2018/10/02

生えている場所は水辺。池や、湿地、川べり、土砂が堆積してできた川の中州などによく群生する、湿生植物ないし抽水植物(浅い水辺に生えて土に根を張り、水面よりも上に葉などを突き出す植物)である。一本や数本だけ生えるのではなく必ず群生する。淡水はもちろん、汽水域のみならず海水に完全に浸(つ)かる干潟にも群生する。オギは湿地からやや乾燥気味な河川敷に生えるため、湿地にあるものはアシと混生する。完全に乾いた草地や道路沿い、社寺境内などに生えているのはススキである。
コンクリートで護岸が固められ生態系が破壊し尽くされたようなどうしようもない都市河川で土砂(へどろ)が堆積すると、そこにアシが大群落を形成することが多い。近年は地球温暖化に伴い日本へやって来る台風が大型化、いつまでも豪雨が止まずに河川に水が溢れ堤防を越えてしまう越水(えっすい)の危険に頻繁に晒されるようになった。そのため河川に重機を入れて浚渫(しゅんせつ、土砂を取り除くこと)工事を行うことが多くなったように思う。当然ながら、更なる泥堆積の原因を作るアシも徹底して駆除されることになる(代わりにアレチウリ(荒れ地瓜)が茂ってくるだけだが)。従って、この先、もしかしたらアシは人間の手により減少させられてしまう可能性がある。水質保全の観点からはアシは絶対に欠かせない植物であるのだけれど。

ヨシ(アシ) 藤沢市・引地川親水公園湿性植物園 2018/10/02

ヨシ(アシ) 藤沢市・引地川親水公園湿性植物園 2018/10/02

元々アシが生えていた土地を開発すると、土木工事で搬入された乾燥して痩せた砂利や土砂しかない(植物の生育的に)ろくでもない場所や車道沿いなどに、まるで外来種が帰化しているかのような姿となってアシが生え残ることがある。

ヨシ(アシ) 茅ヶ崎市西久保・新湘南バイパス下道沿い 2021/05/26

ヨシ(アシ) 茅ヶ崎市西久保・新湘南バイパス下道沿い 2021/05/26

アシの葉は、中心に一本走るはずの白色の主脈がくっきりとは視認できない。この点だけをもって明確にオギやススキ、あるいはセイバンモロコシ(西蕃蜀黍)と見分けができる。

ヨシ(アシ)の葉 藤沢市・引地川親水公園大庭遊水地 2018/10/02

ヨシ(アシ)の葉 藤沢市・引地川親水公園大庭遊水地 2018/10/02

ヨシ(アシ)の葉 茅ヶ崎市今宿・小出川 2018/09/24

ヨシ(アシ)の葉 茅ヶ崎市今宿・小出川 2018/09/24

葉には折り目が認められることが多い。展葉前の時点では折りたたんで収納されていたことの名残り。

ヨシ(アシ)の葉に残っている折り目(白色矢印) 藤沢市・引地川親水公園湿性植物園 2018/10/02

ヨシ(アシ)の葉に残っている折り目(白色矢印) 藤沢市・引地川親水公園湿性植物園 2018/10/02

ヨシ(アシ)の葉に残る折り目 藤沢市・引地川親水公園湿性植物園 2018/10/02

ヨシ(アシ)の葉に残る折り目 藤沢市・引地川親水公園湿性植物園 2018/10/02

ヨシ(アシ)の葉裏 藤沢市・引地川親水公園湿性植物園 2018/10/02

ヨシ(アシ)の葉裏 藤沢市・引地川親水公園湿性植物園 2018/10/02

アシはときに草丈が2mを超えてくる大型な植物で茎が丈夫なため、葦簀(よしず、立てかけて使用する大きく固い簾(すだれ))などに利用されてきた。

豊葦原中国(とよあしはらのなかつくに)や豊葦原(とよあしはら)などといったら日本国を意味する。古代日本は湿原が多くアシがよく繁っていたことを物語っている。
人間は考える葦である──、とはフランスの哲学者パスカルの言葉(人間はアシのように弱い存在だが、”考える”という知能があるから特別な存在たりえるのだ)。
湘南エリアでは洋菓子店の「フランス菓子 葦」(本社・平塚市、創業者の苗字が芦川)を思い浮かべる人も多いかも。

河原などによく生え、地表にランナー(走出枝、ストロン・匍匐茎 ※当サイトでは両者を厳格には区別せずランナーと呼ぶ)が這っていたらツルヨシ(蔓葦)。アシより背高で、葉も花穂もあまり垂れずに立つ傾向が強く、稈(かん、イネ科の植物の茎)の節からよく分枝(ぶんし)し、冬に地上部が枯れないものあらば、セイタカヨシ(背高葦)、別名セイコノヨシ(西湖の葦)の可能性。

ヨシ(アシ)の花

穂は花が咲く前は緑色で、咲いている頃は赤紫色を帯び、咲き終わると茶色っぽく変色する。オギとは異なり、風にそよぐ美しいふわふわな”白色の穂”にはならない。茶色みがかっていてあまりきれいでないと感じる穂がアシである。穂の色がきれいな白ならオギ、すこし茶色っぽかったらススキ、明らかに汚らしい茶色ならアシ、と当たりをつけられる。赤紫色ならセイバンモロコシの可能性も。

ヨシ(アシ)の開いたばかりの穂(蕾) 茅ヶ崎市今宿・小出川 2018/09/24

ヨシ(アシ)の開いたばかりの穂(蕾) 茅ヶ崎市今宿・小出川 2018/09/24

ヨシ(アシ) 藤沢市・引地川親水公園湿性植物園 2018/10/02

ヨシ(アシ) 藤沢市・引地川親水公園湿性植物園 2018/10/02

ヨシ(アシ) 藤沢市・引地川親水公園大庭遊水地 2018/10/02

ヨシ(アシ) 藤沢市・引地川親水公園大庭遊水地 2018/10/02

ヨシ(アシ) 藤沢市・引地川親水公園大庭遊水地 2018/10/02

ヨシ(アシ) 藤沢市・引地川親水公園大庭遊水地 2018/10/02

ヨシ(アシ) 藤沢市・引地川親水公園湿性植物園 2018/10/02

ヨシ(アシ) 藤沢市・引地川親水公園湿性植物園 2018/10/02

イネ科の植物なので、花は蕊がちょろっと顔を出すだけ。ふわふわした純白のものが雌蕊、黄色っぽいものが雄蕊。

ヨシ(アシ) 藤沢市・引地川親水公園湿性植物園 2018/10/02

ヨシ(アシ) 藤沢市・引地川親水公園湿性植物園 2018/10/02

ヨシ(アシ) 藤沢市・引地川親水公園湿性植物園 2018/10/02

ヨシ(アシ) 藤沢市・引地川親水公園湿性植物園 2018/10/02

ヨシ(アシ) 藤沢市・引地川親水公園大庭遊水地 2018/10/02

ヨシ(アシ) 藤沢市・引地川親水公園大庭遊水地 2018/10/02

ヨシ(アシ)の実

穂、と感じられる状態になっていれば実ができている。光の加減によって見え方は様々なれど、およそ茶色(赤茶色)っぽく見えるだろう。アシの穂はきれいな白色でない。ふかふか感も乏しい。

朝露に湿ったヨシ(アシ)の実 鎌倉中央公園 2016/10/10

朝露に湿ったヨシ(アシ)の実 鎌倉中央公園 2016/10/10

オギの白い穂とヨシ(アシ)の茶色い穂の比較 藤沢市・引地川親水公園湿性植物園 2018/11/24

オギの白い穂とヨシ(アシ)の茶色い穂の比較 藤沢市・引地川親水公園湿性植物園 2018/11/24

見頃終盤に近付いてきたヨシ(アシ)の群生 藤沢市大庭 2018/11/24

見頃終盤に近付いてきたヨシ(アシ)の群生 藤沢市大庭 2018/11/24

ヨシ(アシ)の実 藤沢市・引地川親水公園湿性植物園 2016/12/01

ヨシ(アシ)の実 藤沢市・引地川親水公園湿性植物園 2016/12/01

ヨシ(アシ)の実 藤沢市・引地川親水公園湿性植物園 2016/12/01

ヨシ(アシ)の実 藤沢市・引地川親水公園湿性植物園 2016/12/01

ヨシ(アシ)の実 藤沢市・引地川親水公園湿性植物園 2016/12/01

ヨシ(アシ)の実 藤沢市・引地川親水公園湿性植物園 2016/12/01


江奈湾干潟

毘沙門海岸、小網代の森、鎌倉中央公園、鎌倉広町緑地、引地川親水公園湿生植物園(オギも)、清水谷

参考資料

『神奈川県植物誌2018』(電子版を含む) 神奈川県植物誌調査会編 神奈川県植物誌調査会発行(2018)

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